#06 睡眠料理
母は、朝の色々な準備をして、戻ってきた。トイレやお手入れなどなど。短時間で、シャキッとしていた。
どんな感情だったのだろう。僕が作った料理を見たあと。どんな感情で、顔を洗ったりしていたのだろう。
不安な顔も、見え隠れしている。でも、母の顔のほとんどが微笑みだった。
「いただきます」
そう言って、母が僕の料理を食べ始めた。大きい一口を入れた。小さくうなづきながら、噛み締めていた。
「ハンバーグおいしいよ」
そう何回も言っていた。こちらも、ようやく笑みが出た。
感覚で作った。本当に何も考えずに作った。脳の指令通り、といった感じだろうか。
それなのに、母は最高の笑顔をしていた。プロ級だと褒められた。苦労と実感は、比例していない。でも、それでいい。
これで、一夜づけの力が証明された。あっさりと。でも、証明されたことで、選択肢が増えてしまった。未来の選択肢が。
誰かのために何かする。その衝動が、抑えられない。大学より、目の前の親切を選んでしまいそうだ。
大学の勉強に、この一夜づけの能力を活用するか。人のために、この能力を使い、ピンチから色んな人を救うか。
選ぶとしたら、後者だろう。それが、僕には合っている気がするから。