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クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職して一年でざまぁ完了~俺のお陰で所属Vtuberの人気爆上がりらしく凄く言い寄られていますがそういうのはいいので元気に配信してください~

作者: だぶんぐる

最近読者様にVtuberを薦められどっぷりハマり、このパッションを文字にしたく……

ただ、まだまだ初心者なので、分かってない点多いかと汗


ちゃんと学んでからいつかちゃんとした作品にしたいと思っています。

【一日目・ルイジ視点】


「天堂、お前クビ」

「は?」


『いきなりクビw』

『ちょっと待てwww』

『草草草』


そんなコメントが疲れ果てた俺の脳内に流れていく。

だが、脳内は大盛り上がりでお事務所の中が凪状態。誰もが無言だ。

俺も流石に社長の前では余計な事は言えない。だけど、


「え、と……理由をお伺いしても……?」

「お前、ウチのタレント家に連れ込んでいるだろう」


『はい、炎上案件~』

『は?』

『氏ね』


ヤバい、別の意味で盛り上がり始めた。オワタ。

だけど、何故……俺の家に来たことは絶対に言わない約束だったのに……。


「これさ、ウチのピカタだよな?」


社長がスマホの画像を見せてくる。

帽子と眼鏡で変装しているが隠しきれないオーラというかそういうのが溢れているし、変装なしの俺と並んだら背格好でウチの社員なら気付くだろう小柄な美少女が写っている、俺と。


引田ピカタ。

このVtuber事務所の稼ぎ頭。登録者数は今の業界ではそれなりだが急上昇っぷりが半端ない、今大注目のVtuberだ。

その中の子は勿論、知っているし、みんないつも話に出るくらいの美少女だ。

間違うはずがない。


「そう、ですね」

「認めたな」


認めるしかない。もうこれは誤魔化しきれない。けれど、どうして……?

……ああ、そういえばさっき、小村れもねーど(おもれ れもねーど)が『ご愁傷様~』って匂わせてたな……アイツか……。


小村れもねーどは、事務所でも下から数えた方が早い方だった。

だが、担当となった彼女に才能を感じていた俺は、一生懸命れもねーどに尽くし続けた。


『ありがと、るい君! わたし、絶対がんばるから!』


そんな言葉もあの頃はよくかけてくれ、俺も彼女の為に頑張ろうと努力し続けた。

そして、彼女の努力は花開き、注目を浴び始め、いつの間にか上から数える方が早いくらいになっていた。


だが、それからの彼女は変わってしまった。


『るい、あたしの言う事聞けないの? ほんと使えない。クビにしてもらうよ?』


それが彼女の口癖。

俺はクビだけはと必死に耐えていたが、それも限界が来て、れもねーどのマネージャーを二人体制にしてもらい、俺はサポートに回った。

だが、それが気にくわなかったのか、れもねーどが裏で手を回し社長に取り入って俺を虐め始めた。


俺は、複数のVtuberのサポートに回された。担当はなく、ただの雑用。

しかも、れもねーどのサポートもしなければならずその時にはほぼ奴隷扱いだった。

ただ、それでも、俺は事務所を辞めたくない一心で頑張った。


そして、みんなからも認められ始め、事務所も上り調子になり始めた矢先、これだ。

だが、確かにウチのルールには反している。


「申し訳ありませんでした」


俺は素直に頭を下げる。認めるしかない。


「お前がウチのタレントに手を出すなんてな」

「んなことしてるわけないだろうがぁああああ!」


キレた。

社長は見事に俺の地雷を踏みぬいた。

疲れとストレスのピークもあったのだろう。


やってしまった。謝罪だ! 謝罪しかない!


「す、すみません!」

「すみませんじゃねえよ! 社長に向かってなんだその口の利き方は!? 大体、部屋に連れ込んで、何もしねえなんてわけねえだろ!」

「いえ、誓って。手は出していません!」

「嘘つけ! テメエのVtuber狂いは知ってるんだよ!」


それは認める。

俺はVtuber界隈では有名なオタクだ。好きで仕事にしようと思ったタイプだ。

だけど、


「Vtuberを愛しているからこそ手なんて出さないんだろうがぁあああ!」


キレた。

もう疲れていたんです。

あと、別にガチ恋勢を否定するつもりはないがみんながみんなそうだと思ってほしくない。


「じゃあ、何やってたんだよぉおおおお!?」

「ご飯作ったりとか、お風呂入れたりとか、マッサージとかですよぉおおおお!」

「ほぼヤッてんだろうがぁあああああ!」

「ヤッてねえっつってんだろお! 頭ん中ピンクか! ぼけぇええええええ!」


そして、クビになった。


まあ、冷静に考えれば異常だ。あの生活は。


仕方ない。

しかも、即クビ。

これ以上、タレントに悪影響が出ないようにすぐ出ていけとのこと。


荷物をまとめ、会社を後にする。

ご丁寧にも、れもねーどが入り口で嗤って待ち構えていた。


「ぷーくすくす」

「ぷーくすくすを正確にいう奴初めて見たわ」

「ざまぁwww」

「よかったな、追い出せて」

「泣いてあたしに忠誠誓うなら、社長に取り消してもらうけど?」

「いや、やはり俺はVtuber関係の仕事にしない方がよかったんだ。目が覚めたよ」

「え?」

「ありがとな。お前はどう思ってたか知らないけど、俺はお前の事本当に頑張り屋で凄い奴だと思ってる。ただ、何回も言ったけど、どんなにストレス溜まっても周りの人にぶつけるな。頼れ。周りを信じろ。じゃあな」

「え? ねえ、ちょっと?」

「画面の向こうで応援してるよ」

「ねえ! ちょっと! 待ってって! ねえ!」


そして、俺はVtuber事務所【フロンタニクス】を追放された。

そして、俺はライバル事務所【ワルプルギス】所属の姉の家にいる。


何故?


「ここがあんたの部屋ね。実家にあったあんたの家具は全部あるから」


何故?


「はい、とりあえずお小遣い。私もまだまだだから無駄遣いしちゃだめよ」


何故?


「ああ、ごめんね。お風呂にする? ごはんにする? それともお姉ちゃんにする?」


何故?


「何故ぇええええええええええ!?」

「ルイジ、うるさい。防音だから大丈夫だけど、大声出すなら、『お姉ちゃん、大好き』になさい」

「お姉ちゃん、大好きぃいいいいいい! って、なんでだよぉおおおおお!」


ド下手なノリツッコミをかますと、姉は後半部分を聞いていなかったのか、『おねえちゃんだいしゅきって、ルイジが……!』と、はぁはぁしてる。こわいよう。


あ、俺の名前が累児です。天堂累児。小学校の頃のあだ名は【緑の弟】

そして、悶えている姉が、天堂真莉愛。赤が良く似合う。


艶やかな黒髪を振り乱し、ちょっと目のやり場に困るステキバデーの長身が、色気溢れる声を漏れさせながらゴロゴロしている。


そう、姉はVtuberだ。


高松うてめ。登録者数的にはトップクラスよりちょい下といったところか。

歌、ゲーム、雑談、オールラウンドにこなす配信者だが、なんといってもその魅力は声だ。


元々声優学校にも通っていて将来を嘱望されるほどだったらしいのだが、突然俺達家族の前でVtuberになると宣言した時は、驚いたし、学校の先生がわざわざ家まで来たくらいだった。


両親は流石親といったところか、全然驚かず受け入れていた。

まあ、その前に俺がVtuberに異常にハマっていたし、姉弟だからという感覚もあったのかもしれない。


俺はその時、事務所オーディションを一発合格していた姉を誇りに思っていた。

が、流石に、同じ事務所で働くのは駄目だろうなと俺は【フロンタニクス】に就職した。


話を戻そう。


「あのね、姉さん。聞いて」

「なんでもいう事聞くわ」


ニュアンスが変わる。


「質問良いですか?」

「ルイジが私に興味を……?」


もう無視する。


「なんで、俺はここに連れて来られたの?」

「ルイジが途方に暮れて困っていそうだったから」


それは確かだ。


何故かあのピカタとの画像が拡散されていた。

そして、ヤバいファンに住所を特定され、それはもうヤバい事になっていた。

大家さんに平謝りをし、即退去となり、ひとまず、ネカフェにでもと思っていたら、黒いバンがやってきて、連れ去られた。そして、やってきたのが姉の部屋だった。


謎過ぎる。何が謎過ぎるかって、


「なんで、俺の実家の家具が俺の実家の部屋と寸分たがわぬ配置で並べられてる部屋があるの?」

「必要だったから」


こわいよう。


姉は俺を溺愛している。理由は分からない。

だが、俺がフロンタニクスに就職した位に丁度姉の活動も安定しはじめ、上京することになったので、弟離れしてくれて良かったなと思っていたのだが、そうではなかったみたいだ。


うてめのブラコン雑談は異常なまでに人気だ。

その狂気っぷりから架空の弟だと思われている感もあるくらいだ。

その異常さがまたウケている。

正直、その弟でなければ、俺も『うてめおもしれー』で投げ銭しまくる位だが当事者なので引いている。


特に学生時代俺の知らない所でとんでもねー事やってたのを知り、ドン引いた記憶がある。

流石にと思い、連絡したら、『もう学生時代の話は言わないから』と返ってきた。

言わないとは言ったがしてないとは言ってないので怖かった。

あと、調子乗ってるとき普通に言ってます。


俺がこれから入る予定の、実家の俺の部屋そっくりの部屋に人が生活してた気配がする。そして、この家には姉一人。こわいよう。


「姉さん、やっぱり俺ちょっと……」

「行くとこないでしょ。あんた必要なお金以外全部スパチャとグッズに消えてるし」


そう、なのだ。俺はV狂い。差し出せるお金は全てVtuberに捧げている。


「ここにいればあたしが養ってあげるわよ」

「う……!」

「あんた料理美味いし、家事得意だし、それしてるだけであとは配信好きなだけ見てていいから」

「う……!」

「Vtuberを応援し続ける人生が送れるのよ」

「暫くお世話になります!」


おちた。おちました。わたしはかんぜんに。


そうして、俺はVtuberである姉の家に家政夫として雇われ、家事をしながら配信を見続ける夢の生活を送り続けた。




【二日目・フロンタニクス社長視点】




「おはよう! さあ、今日も頑張って行こう!」


新しい朝が来た。希望の朝が。

すがすがしい気分で私はフロンタニクスに出社していた。

理由は明確だ。

あの忌々しい天堂がいなくなったからだ。


ウチのタレントたちは雑用に何故か懐いていて、何か新しい仕事が入った時も『一旦、天堂さんに相談してから』となっていて、しかも、時には天堂に相談した上で断ることもあった。


だが、その天堂もいない。

れもねーどからのリークは正に神からの贈り物だったのだろう。

ウチの看板タレントは私と同じ気持ちだったのだ。

しかも、可愛い。これを機に私に惚れてしまうかもしれないな。


「しゃ、社長! 大変です!」


だが、そんな爽やかな気持ちも社員のこの一声からぶち壊される。


「あ、あの! 天堂さんとピカタの画像が流出して……!」

「はあ!?」


昨日のあの画像が!?


「で、天堂さんの家が襲撃されたらしくて」

「そんな事はどうでもいい! ピカタへの影響は……?」

「い、一応、思い込みの激しいヤツの言動で、天堂さんが連れ込んだという空気にはなってますが流石に何かしないと……」

「やめます」


この騒ぎでも通る位の澄んだ声が社内に響き渡る。そんな声を出せるのはアイツしかいない。


「ピ、ピカタ……!」


何故女優を目指さないのか分からない位の美貌の彼女がそこにいた。

だが、言ってることの意味が分からない。


「やめるってどういうことだ?」

「……? そのままの意味です。この会社をやめます。ご迷惑をおかけしましたし」

「だ、大丈夫だ! やめたアイツのせいにして、なんとかするから……」

「その彼がいなくなったのが一番の理由です」

「……やっぱりデキてたのか!?」

「……彼を馬鹿にしないで」


それだけ言うとピカタは頭を下げ、今後の謝罪を含めたスケジュールを作ってきたようで淡々と説明する。


完璧な仕事だ。

ピカタは、盛り上げるのはうまくはないが、何人分だという仕事をこなす。配信もほぼ毎日やっていた。その努力が報われたのに……!


「今までお世話になりました」


そう告げて、事務所を去ろうとするピカタだったが、ふと足を止めて振り返る。


「ぴ、ピカタ! やっぱり……」

「ああ、あと、多分、5、6人後輩の子達もやめると思います。天堂君やめちゃったから」

「はああああああ!?」


なんなんだ!? なんであの天堂が!? 見た目だって仕事っぷりだって人並程度のアイツに何があるって言うんだ!?






【30日目・真莉愛視点】




「ねえねえ、うてめちゃーん。最近どしたのよー?」


【ワルプルギス】の事務所で、私にそう声をかけてきたのは、同期の神野ツノ(かのつの)ちゃんだった。


かのつのちゃんは、私より登録者数も上で人気Vtuberだ。

ちょっと際どい発言もするけどその砕けた雰囲気と抜群のトーク力で笑いがとれるのに、歌は本気でうまい、そのギャップで大人気。

中の子も髪が紫でド派手な目を惹く子だ。


「どうって何が?」

「いやいやいや、最近うてめちゃんの配信すごすぎない? 超面白いんだけど」

「そう?」

「うん、なんかのびのびやって楽しそうだし。それにもう明らかに登録者増えまくってるじゃん。ヤバくない?」


確かに。ここ最近の私の登録者数の伸びは半端ない。

理由は……明確だ。

だが、その話をするつもりはない。ない、が……


「ウチに、弟が来てくれたから」


言ってしまう。ああ、つい。つい!


「え? 弟? あの弟君? 実在したの?」


つのちゃんが驚いている。実在する。しなければ私は死ぬ。


「実は、今日のお弁当も弟の」


言ってしまう。見せてしまう。ああ、つい。つい!


「うっわ! うまそ! 何これ!? しかも、めっちゃいろどりよくない?」


褒められて頬が緩んでしまう。

そう、弟は凄いのだ。

まあ、見た目は普通かもしれないが、とにかく凄い。自慢の弟だ。


私は弟が大好きだ。


私は弟が大好きだ!


大事な事だから二回言った。


弟が声優にハマっていたから声優を目指したし、Vtuberに変わったからVtuberを目指した。


なのに、弟が私の所属と違う事務所に就職した時はショックだった。

ショックで実家にある弟のものを全部送ってもらった。

両親は、何も言わず送ってくれた。

私には、弟が必要だった。


弟が私を応援してくれた実家での一年間がなければ、私は今ここにいなかっただろう。

その位あの一年で弟に助けられていた。

そんな弟が事務所をクビになったと知った時は複雑な感情に襲われた。


事務所を燃やしてやろうかという気持ちと、お陰で私が養えるという感謝の気持ちでカオスが生まれた。


だが、その混沌も弟がいればすぐに収まった。もうどうでもいい。

なんか看板Vtuberの一人が辞めて、一人が落ち目っぽいらしいがどうでもいい。ライバル事務所だし。


弟さえいればどうでもいい。

ただ、弟に愛されたいからもっとVtuberとして上を目指す。

あ、お弁当、うましゅぎる……。


「えーいいなー! アタシも弟君のごはんたべたーい! あ、そうだ! オフコラボしよーよ! お泊り配信!」


つのは思いついたという顔で提案してくる。

いやだ。弟は私のものだ。


「ダメよ」

「えー、でも、弟君ってVtuber大好きなんでしょ? もしかしたら、会わせてくれてお姉ちゃん大好きーってなるか……」

「いつする?」


その考えはなかった! つのは天才か。

そして、その日私は、弟にそのことを告げると、ほんとに言われて鼻血を垂れ流し、その日の配信を予定より遅らせることになったのだけど、その理由でまた盛り上がった。




【40日目・つの視点】



今日は、うてめ家でオフコラボ。

今まで、うてめはオフコラボをしたことがなかった。

同期の中で一人浮いている存在のうてめ。いつも物憂げな感じだった彼女の最近の浮かれっぷりは半端ない。そして、人気上昇っぷりも半端ない。


アタシだって頑張ってるのに、ちょうどこの前、うてめに並ばれた。

多分、このまま抜かされるだろう。

恥ずかしくてもちょっとセクシーなネタも言って、終わった後ずーんとなっても頑張ってるのになんでだろう……。


いや、いかんいかん! 弟君はVtuber大好きで、しかも、アタシも大ファンの一人だって言ってくれてるし、イメージを崩してファンを減らすわけには!


気を取り直して、うてめの家のチャイムを鳴らす。

出てきてくれたのは弟君。


「あ! あの、本日は、お越しいただき、あ、あ、ありがとうございます!」


普通。

うん、普通。

キョドってるし、普通だ。


馬鹿にしてるわけじゃないけど、うてめがあれだけ言うからどれだけのイケメンかと思ってしまった。

いや、申し訳ない。それはひどいぞ。つの。

気を取り直して挨拶をする。


「どーも、弟君☆ 神野つのです☆」

「ほ、ほ、ほ、ほんものー!!!!」


めっちゃ興奮してる。テンション上がる。リアル接触は控えているけど、やっぱりこれだけ喜ばれるとアガる。

そういえば、一回、知り合いの知り合いにバレてガッカリされたことあったな。ああ……。

でも、弟君はとんでもなく喜んでくれた。嬉しいな。おい。


「どう? ルイジ?」

「姉さん、すごいよ! 流石姉さん!」

「ふふ……そうでしょ? 姉さんのこと、好き?」

「大好きだよ! ねえさん! ありがとう!」


うてめがメッチャドヤッてる。珍しい。そして、かわいい。

やっぱり彼女が最近楽しそうに配信しているのは弟君が原因だろう。

いいな、アタシにもそういう存在がいたらな……。


「ひとまず、ルイジのごはん食べましょ?」

「あー、うん。そうね! 食べる食べるー! 弟君のごはんたのしみー!」


と、そこに並べられていたご飯はヤバかった。


「アタシの好物ばっかりなんだけど……!」

「はい! つのさんが来られるという事で、腕によりをかけて作らせていただきました!」


公式にのってある好物は勿論なんだけど……


「これって……」

「あ、はい! 確か、一昨日の配信で食べたいなーって言っていたので、まだ食べてないといいなと思って」


最近の配信までチェックして、そこでしか言わなかったものから、昔配信でだけ言ったことのある好物までありとあらゆるものが並んでいた。しかも、美味い。


「飲み物なんですが、つのさんは、喉を酷使されているので、ちょっと喉にいい飲み物を用意させていただきました。あ、あと! この辺もいいはずなので、是非多めに食べてくださいね」


……ヤバい。なんだ、コイツは。泣かす気か。やさしくされたぞ。

顔は普通だ。普通なんだけど、超輝いてる。

その日は最近の食欲のなさが嘘だったかのように食べた。美味しかった。


そして、オフコラボが始まるとなると、


「じゃあ、お二人の配信見てますので、頑張ってください! あ、もし飲みながら配信なら是非これを。はちみつのお酒なので、体にもいいですし、多分、二人とも好きな味かと!」


そう言って、凄い笑顔で隣の部屋に入っていった。えー……


「つの、私からルイジとったら許さないから」

「いやいやいや! とらないよ! でも、本当にいい弟君だね」

「うん~そう~」


だるんだるんかよ! 

そのうてめの幸せオーラのせいか、ごはんがおいしかったせいか、やさしい甘さのお酒のせいか、その日のオフコラボ配信は、うてめが絶好調で大盛り上がりな配信となった。


その後、お風呂から出て、うてめが交代で入りにいったのを見計らって、弟君のお部屋にお邪魔した。


「もしもし~」

「はい!? つのさん!?」

「おーっす。ちょっといい~?」


開けてもらった部屋は、完全なるVtuberのオタク部屋だった。

その中に、アタシのグッズもあって、嬉しかった。


「いや~、噂に聞いてたけど、すごいね~」

「あ、いや、お恥ずかしい……いや、恥ずかしくないです! これは俺の人生の全てですから!」


つい言ってしまった言葉を全力で否定する弟君に笑ってしまう。


「そっか。ねえ、そんだけVtuberに人生賭けてる弟君から見て、お姉ちゃんはどう?」

「どう? というのは、姉としてですか? それとも、うてめとして、ですか?」


急に目が真剣になる。え? そこ重要? でも、アタシが聞きたいのは……


「うてめ、として、かなあ……」

「なるほど! うてめさんはですね! 最近、ゲーム配信を多めにしてますが、それが良いかと。めちゃくちゃ下手なんですが、ファンが応援して、成功体験を一緒に出来るというのが最高ですよね。で、素直に心からお礼を言えるのが刺さっているかと。あとは、雑談配信の弟ネタが絶好調ですよね……弟、ネタ、が……」


あ、フリーズした。ソウダネ、アタシもギリギリせめるタイプだけどアレは引くよ。

素に戻っちゃうよね。


ただ、めっちゃ褒めるな。この子。だったら、


「あの、つのはどうかな……?」

「つのさんですか!? 最高ですね! ちょっとエッチなネタのチョイスもギリギリの線引きで最高ですし、ワードセンスは神です! なんであんなワードが出るのか本当にすごすぎます! 雑談で笑って、歌で泣いて、もう情緒不安定どころじゃないです!」


褒めるなー! うれしいな! でも、


「あ、でも、個人的に、ほんと、個人的になんですけど、つのさんはちょっと心配もしてて」

「え?」

「あのー、最近やっぱり人気出過ぎてるせいでコメントとかでひどすぎるのとかやっぱくるじゃないですか。つのさんって、実はめっちゃ優しいから、結構気にしてるんじゃないかなって」


ヤバい。


「しかも、それで自分が傷ついてるのもそうだけど、それを言ってる人がそういう気持ちになってる理由とか考えてまた傷ついてる気がして、そういうコメントがパッと出てきた時に、ちょっとこう、声が上擦ってる感じがして」


ヤバい。


「だから、その、俺は、つのさんが頑張ってるの知ってるし、そういう人たちが言うのも仕方ない部分もあるんなら、倍応援するんで、めっちゃ好きなファンがいるってことも覚えておいてもらえたら!」


なんだ、この子は。最高かよ。

そうだ、ちょっと登録者数が伸び悩んでて焦ってた。

うてめの活躍も、同期が活躍して嬉しい反面、嫉妬してた。そんな自分に嫌気がさして……。


なんでこの子にはそんなことまで見えてるんだろう。

ヤバい、どきどきする……。


「ね、ねえ、もし、もしさ、好きなVtuberの中の人と付き合えるとしたら、付き合いたい?」

「あ、それはないです」

「へ?」


へ?


「その辺、俺は弁えているし、俺如きがそんなっていうのもありますから。それより俺は皆さんが元気に配信してくれることがなによりですから」


へ?


おやおや~、思ってたのと違うぞ。


なんか腹立ってきた。


こうなったら、コイツを、ほれさせt


「つの、ルイジと何を喋ってるの……?」


ひぃいいい! 妖気を感じる!


振り返れば、うてめがいた。ホラー配信以上の声が出た。


弟君が仲裁に入り、アタシが弟君とうてめのお似合いっぷりをよいしょし続け、うてめの機嫌はなんとか直った。

そして、夜中ずっとうてめの弟自慢を聞いてその日は終了。


だが、アタシは好評だったからという理由で次のオフコラボ配信も約束させた。

弟君、いや、ルイジも喜んでた。ふふ。


その後のアタシの配信は絶好調でまた伸び始め、うてめとバチバチに争い始める。

それがまた盛り上がった。

そして、オフコラボは恒例となり始め『つのうててぇてぇ』を良くトレンドで見かけるようになった。




【60日目・ルイジ視点】



「おじゃましまーす☆ わあ、キミが弟君だね! やっほー!」


なんだろうか、最近ずっとオフコラボがウチで行われている。

俺は良いよ。幸せだから。

俺のごはんを推したちが美味しそうに食べてるんだぜ、嘘みたいだろ……。


けど、謎じゃん。


姉さんの同期は勿論のこと、最近では先輩後輩関係なく来始めた。

今日は姉さんの先輩、塩のえさん。


オフコラボの時は絶好調で元気で喋っていたのえさんだが、終わった後、俺にどうだったか聞きに来て、俺が話している途中で泣き始めた。


「う……! えっ……! えっ……! ありがとう、ありがとね……塩対応はキャラだってわかってるけど、やっぱ冷たいとか言われるとね、みんなはそんな気ないのは分かってるけどやっぱちょっと辛くてね。ありがとね、うれしかったよ、あと、美味しかったごはん、ワタシがダイエット中だって知ってて、低カロリー料理で、あんな美味しくて、レシピまでありがとね……!」


のえさんが帰った後、俺の部屋の前の廊下に水たまりが出来ていて、掃除が大変だった。




【70日目・ルイジ視点】


「いやー☆ マジで、あの事務所、フロンタニクス、クソですわ! 先輩追い出すなんて!」


元フロンタニクス所属の後輩が転生してウチに来た。

まあ、フロンタニクスも今、めちゃくちゃヤバいって噂だし、ファンも薄々感づいているがむしろ転生出来て良かったと思っているようだ。


「で、お前は何しに来たの?」

「人生設計ですよ!」

「人生設計?」

「あ、あ、違いますよ! 勘違いしないで下さいよ! 私のキャラで今後どういう風に立ち回るのが正解か先輩にアドバイスを貰いたくて!」

「ん? そういう意味だと思ってたけど?」


いて! 殴られた。なんでだ? 俺がお前のリアル人生プランに口出すつもりなんてない。

俺は、別に恋人も結婚もいいと思う。それで配信に力が入るならそれでいい。

それはファンそれぞれだろうけど、俺は良いと思う。


「先輩……結婚願望とかないんですか?」

「あるけど、Vtuberオタクだし、絶対苦労させるだろうからなー、しないんじゃない?」

「じゃ、じゃあ、恋人もいないんですか?」

「いないいない。いるわけないじゃん」

「じゃ、じゃあ、恋人になりたいって人が現れたら」

「配信見る時間が減るから断る」


いてえええ! 蹴られた! なんで?


「なんで蹴るんだよ! お前も推しだぞ! 俺、お前の声好きだし!」

「にゃああああああああ! 私はこのあふれ出る行き場のない怒りをどこにぶつければ!」

「配信だ! 配信でお前の叫びを聞かせてくれ!」

「やってやらあああああああ!」


そして、この新人Vtuberの憤怒の殲滅ゲーム配信は神回と呼ばれるようになった。

やったね!




【80日目・ルイジ視点】



「ねえ、ルイジ何してるの……?」


姉さんが虚無の顔で聞いてくる。


「何してるって……シキナさんのヘッドマッサージだけど」


最近、週に一回は同期のシキナさんがやってくる。そして、毎回ヘッドマッサージを所望する。

姉さんとの初オフコラボの時、目がしんどそうだったから、すっごい嫌がられながらも一回だけやったんだけど、それからはずっとだ。


「シキナ……ヘッドマッサージっていうか、それは頭撫でてもらってるだけじゃない?」


今度は姉さんはシキナさんに聞き始める。

小柄なシキナさんはびくりと肩を震わせ、姉さんの方を向かずに言う。


「お、オプションよ! オプション! マッサージで髪がわしゃっとなったから綺麗にしてもらってるんでしょうが! ねえ!?」

「え? ええ、そうですね」


実際は違う。すっごい甘えて、


「ほめて~、今日シキナ頑張ったからほめて~」


と、言ってくる。

こういう仕事だとまあ、直接褒められることもないしエゴサすれば嫌なものも見るだろう。そう思って、褒める。

いつもなら、ここからお嬢様扱いをして、ごはんまで食べさせることがあるんだけど、なさそうだ。良かった。配信が見られる。


「わかったわ……じゃあ、シキナの次は私ね」


ダメだった! く! でも、推しの配信の為ならば仕方ない!





【100日目・まりあ視点】



おかしい。

わたしの予定では、ルイジが来てからは、二人きりのあまあまライフが始まるはずだったのに。


なんで、こんなにみんな来るの?

オフコラボ配信したがるの?

っていうか、オフコラボもないはずなのに来てる子もいっぱいいる。


まあ、ルイジ目当てなのはミエミエだ。

栄養も味も見た目も最高の料理作れるし、配信のさりげない言葉とか雰囲気で色々察してくれるし、褒め方もそれぞれに合わせて凄く褒めて、時には注意もしてくれる。素敵過ぎる。


ヤバい、ルイジがとられる。


そう思ってルイジを見つめると、


「みんな姉さんとコラボしたいんだね。弟としてうれしいよ」


はうぅう、いい笑顔。すきぃ。


だけど、このままではヤバい。社長も動いているらしいし。どうしよう。


とにかく、Vtuberのトップを目指す。それが多分ルイジの心を手に入れる一番早い方法だ。





【365日目・ルイジ視点】



「は?」


気付けば、俺は引っ越していた。


何言ってるか分からねーかもしれねーが、マジだ。

俺は一軒家に引っ越していた。


しかも、8人暮らしだ。

暮らしているのは、俺と、姉と、上位5人とホープ枠1人だ。


何言ってるか分からねーかもしれねーが、マジだ。


上位5人というのは【ワルプルギス】での登録者数上位で、ホープ枠は俺が期待してるとワルプルギスの社長に言ったVtuberの子だ。


何言ってるか分からねーかもしれねーが、マジだ。


俺は、というか、姉は、【ワルプルギス】の社長命令で引っ越しをさせられた。

この一軒家に。

そして、ここは寮みたいなもんで、俺が寮父さんらしい。


美味しいごはんと家事をやり、あとはVtuberを応援するだけでいいらしい。


天国かよ。


俺は今日もそれぞれのごはんの支度を終え、配信を見ている。

今は、潰れたフロンタニクスから転生した元ピカタの新人配信を応援している。

まあ、コイツのせいで、この家に引っ越すことになったんだけど。


【ワルプルギス】に移籍したいと言ってきた元ピカタ、本名、姫野桃は、マジで生活能力のない人間で、当時、ほとんど俺に世話してもらっていた。

正直、俺がしてあげないと何もしないくらい。そして、ちゃんとしてあげたら心身共に良くなり、凄い面白い配信をしていた。

しかし、そのすべてを【ワルプルギス】のみんなに赤裸々に明かしやがった。マジで常識ない。でも、そのスタンスが面白い。くそう。


それにより、ズルいという声が事務所内で上がり、一軒家に引っ越しさせられた。


何を言っているのか分からねーかもしれねーが、マジだ。


そして、俺は今日も配信を見続ける。

俺の部屋がノックされる。

大好きなVtuberの中の人がそこにいた。


「ねえ、ルイジ。今日の私の配信どうだった?」

「最高でした」

「じゃあ、付き合いたく」

「なってません」


もう本当に付き合うつもりはない。

いや、流石に分かるわ。好意向けられてるって。

けど、もうほんと、勘弁してほしい。

普通にリアルも可愛いと思ってるから、勘弁してほしい。


今日も俺は心を無にして応援し続ける。画面の向こうの可愛い彼女達を。

今日も元気に配信してくれればそれでいい。


お読みくださりありがとうございました。


最近本当にVtuberに元気を貰っています。


一旦、長編ではなく10~20話くらいの今回の補足版をアップしていきます!

https://ncode.syosetu.com/n6472hv/


いつかほんとちゃんとした作品に出来るようこれから学んでいきたいです!



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― 新着の感想 ―
[一言] 連載を希望します
[気になる点] Vって秘匿性がある意味利点になってるはずなのに、なんで「Vと一緒に家入って行った」という内容の写真が拡散されて炎上するのかわからない。 [一言] そこ以外は普通に面白かったです!
[気になる点] 追い出した小村の顛末がないのがマイナス ざまぁ方向でも改心方向でも、どっちでもいいから彼女のその後がないなら片手落ちすぎる [一言] ダイジェストでもいいから、姉のブラコントークとそれ…
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