七、正体
黒い塊との追いかけっこを数分すると、体育倉庫のある行き止まりに着いた。もう逃げ場がないことを理解したようで、それは立ち止った。あちらは動きにくい厚手のローブを着こんでいるからか、俺よりも疲れているように見える。
「なんで追ってくるのよ」
小次郎はぽつりと問いかけてきた。その声は見た目とは裏腹に透き通っており、小さいけれど鮮明だった。
「ふう、あの、その手に持ってる携帯が」
「ああこれ、あなたのものだったのね」
手を伸ばしながら、こちらに近づいてくる。その手は闇の中の一筋の光のように白く、繊細だった。
荒い息の中、なんとか生唾を飲み込み、俺はただ立ち尽くしていた。
「あっ」
俺の前に着くその瞬間、小次郎はローブの裾を踏み、バランスを崩した。咄嗟に両手を広げる。
胸より少しやや左腕に飛び込んできたそいつは、俺の顔を見て、驚いたように目を見開いていた。想像よりずっと軽く、本当に実態があるのかどうかもよく分からなかった。
「ご、ごめんなさい。あまり着慣れていないから、その」
すぐに俺から離れ、深々とフードを被りなおした。
「それ、もう返したから。さよなら」
彼女は俺の横を通り過ぎ、去っていく。
最初に見た時よりもずっと小さく見えた背中には、いや、その背中を見る俺の目には、めいいっぱいの疑問符が映っていた。自然と眉間に皺がよる。そしてそれは、すぐに嘲笑に似た乾いた笑みに代わる。
それはミステリーサークルはただの農夫の悪戯だったように、ハンバーガーチェーンのナゲットにミミズが使われていなかったように、ネット掲示板に投稿された恋愛が釣りだったように、思った以上のあっけない顛末だった。
安堵と、ほんの少しの失望が頭の中を駆け巡る。
「お前が、司祭様だったのか?」
彼女の肩はびくっと跳ね、歩みが止まる。
「なあ、神ノ池」
司祭様の正体は、なんてことのない、ただのクラスメイトの女の子だった。




