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司祭様に懺悔を  作者: 沢山多部太
4/11

四、調査

【薊里高校の最大の謎、告解室に迫る!】

当時の日本は、国を挙げての欧化政策が進められており、それに伴って日本人にもキリスト教信者が増えていたようです。学校も例に漏れず、時代の影響で教会が校舎の裏に建てられていました。そして、その中に告解室は実際に存在していました。それが薊里高校の都市伝説のルーツになったと言われています。

 しかし、現在ではその協会も取り壊され、懺悔室も無くなりました。もしかしたら、当時の遺志を受け継いだ人間が細々と続けているのかもしれませんね……(筆者含め新聞部の部員全員が、懺悔室で告白したい罪が大量にあります笑)

 目撃情報の多くに、「司祭様は黒いローブを纏っている」と「放課後の特別棟で見かけた」という点が共通しています。私達新聞部は、この都市伝説を究明し、皆さんに確かな情報をお伝えできるよう、日々研鑽していくことを誓います。頑張るぞ!




放課後、図書室に来ていた。昨日の一件から家はどうにも居心地が悪く、かといってカラオケやマンガ喫茶に行く気分でもないので、消去法でここを選んだ。

 入口を入ってすぐ左手には貸し出しカウンターがあり、図書委員の生徒が一人座っていた。少し目の離れた女性で、俺の方をちらりと見たと思うと、彼女は特に気にしない様子ですぐに小説の世界へと入り直した。

 前を見ると、椅子を四つ携えた大きな机が六つ程並んでいる。そそくさと奥の椅子に座った。


 西日が薄いベージュのカーテン越しに部屋に入り、温かい光を身体中に浴びていた。

 生徒は数えられるほどしかおらず、誰かの息遣いや紙の擦れる音まで聞こえる。本の少し埃っぽいにおいや、年季の入った椅子が軋む感覚は、思った以上に心地がいい。それに、一人でも肩身の狭い思いもせずに済むし、無料で利用できる。これまで来なかったことを後悔した。

 俺は鞄の中に入っている数学の教科書とノートを机の上に並べた。それらを開いたものの、目は字の上を滑るだけで、全くと言っていいほど頭に入らない。立ち上がって、暇がつぶせるような本はないかと本棚へと足を運んだ。

 授業で使えそうな資料から画集、楽譜など、思ったよりも様々なジャンルが取り揃えられており、選択肢が多い分何を読むべきか迷ってしまう。その中でも隅の方にあった、校内新聞のバックナンバーが目についた。

 適当に一冊選んでパラパラと中を見てみると、「薊里高校最大の謎、告解室に迫る!」と書かれた記事があった。


 —————私見たよ、司祭様。


 ふと諏訪の言葉を思い出した。多分あの調子なら、彼女との話題に告解室や司祭様はまた出てくるだろう。良い退屈しのぎにとそのまま机に戻った。

 机上の、半ばパフォーマンスのために出した教科書をしまい、改めて記事を読み始める。背表紙には持ち出し厳禁のシールが貼ってあるので、この場で読んでしまわなければいけない。




 結局、発行された新聞のほとんどを読み漁った。新聞部が発足したのが約二十年前で、年に三回発行されているとして、六十部ほど目を通したらしい。思ったより時間を浪費していたのだろう、窓の外は暗くなり始めている。

 告解室については流石歴史のある都市伝説なので、数年ごとに特集されていた。その大体が信ぴょう性のない目撃情報や、過去の記事の焼き直しのような代物だった。だが一番最初に読んだものは、何故このような噂が存在しているのか、時代背景や学校の成り立ちからよく調べられており、他のものより数段興味深い。さらにそれはここ数年のうちに作られたもので、一年生が書いたものだというので驚きだ。


 有能な先輩のおかげで告解室の噂が形成される所以については分かった。しかし、もう一つ気になる点が浮上した。

 それはどの目撃情報でも、司祭様は黒い祭服を着ているという点だ。普通司祭様と聞くと、白い衣装を連想させる。にも関わらず、薊里高校の司祭様はいつも、フードのついた真っ黒のローブを身に纏い、放課後の人気の少ない時間に現れるのだ。告解室という先入観がなければ、ゲームでよく登場するような魔術師や、怪しい新興宗教にあてられた人みたいだ。

 なんにせよどの年代の目撃情報にも独特な共通点があるのならば、もしかしたら本当にこの学校には司祭様がいるのかもしれない。もちろん、スクープを求めた結果、過去の記事を見た新聞部が自演したという線も残るが、そのようなイフを考えてしまうときりがない。俺は今日得た情報を、ただ諏訪との会話のためだけに使えばいい。

 

 自分なりの結論が出たところで、図書室を出た。俺が最後の客だったので、すぐに目の離れた女生徒が教室の鍵を閉めた。迷惑そうに俺を見ていた気がした。

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