24話 剣武将アルマ・ソードマン
竜将へ挑むには将となって各将を倒さねばならない。
自身を除く五科全ての将を下すことにより竜将への挑戦権が得られるのだ。
だが、対戦を望む者には必ず大きな難関が襲いかかる。
各将を見つけ出さなければならない通称『かくれんぼ試練』である。
将は科のトップ、敗北すれば学内における科の失墜は避けられない。
これは複数の将から戦いを申し込まれることを避ける狙いもある。連戦は将に大きな負担を強いる。どうやっても敗北を避けたい科が将を隠すのはごくごく自然な判断であった。
逆に自らを隠さず集まった将達を撃破するやり方もあるが、そういう場合はよほど科に信頼された人物か嫌われている人物に限るのでそうそうできることではない。
ちなみにだが俺は隠れない派だ。
居場所を宣伝しているいつでもバトルオーケーの超攻撃型。
ただ、他の将は安定が望みなのか未だに一人も来てくれていない。しょぼーん。
剣武将のアルマ・ソードマン。
彼は俺と同様に居場所も隠さずいつでも挑戦を受け付けているようだった。攻撃型の割に受け身なのか、自ら挑戦することはしていないようだが。
俺とリーディアは剣武科の闘技場へ訪れる。
入り口では剣武科の生徒が警護をしており俺をじろりと睨む。
「召喚将のウィルだ。ソードマン殿に挑戦したい」
「今は鍛錬の最中である。挑戦の話は後日――」
「構わない。中に入って貰え」
奥から魔術によって増幅しただろう中性的な声が響いた。
ここは闘技場の入り口だ。
なのに俺達が来たことを察知したのか。
俺と同じく一年で将になった特待生――経験が浅さから倒しやすいと踏んでいたが、もしかすると挑戦は一番最後にするべきだったかな。
闘技場へ入ると、舞台では複数の相手と戦う長身の人物がいた。
ショートヘアーに中性的で整った顔立ち。常に涼しげな表情をしており時折揺れる胸は大きすぎず小さすぎず程よいサイズ。
あれ!? 剣武将って女なの!?
どう考えてもあの子が将だよな。
なんとなく名前から男をイメージしていたが女性だったとは。
やるな剣武将、俺を騙すなんて。
アルマが本気でないことは明らかだ。これは恐らくクラスメイトを鍛える意味で行っている訓練。クラスメイトに信頼されているのが雰囲気から伝わる。
「今日はこのくらいにしよう。で、君が挑戦者だね」
剣を鞘へ収めたアルマが意識を俺に向ける。
俺は礼儀として軽く挨拶をした。
「召喚将のウィルだ。突然の訪問にもかかわらず面会をお許しいただけたこと感謝する」
「君の噂は耳にしているよ。話題に事欠かない竜将の弟だったね」
「元ですがね。それで俺がここへ来た意味はご理解いただけているのでしょうか」
「うん。挑戦にきたんだよね」
アルマは舞台から生徒を下げ、どうぞと俺に上がるように指示を出す。
観客は剣武科一年の生徒だ。
剣武科とは『魔闘士』を育成する所謂”脳筋”の集まる場所だ。
魔闘士は魔術を併用しながら近接攻撃を行う対魔術師を念頭に置いた特殊職であり、エリート組織である『魔剣騎士団』は魔術師が最も恐れるものの一つだ。
つまり広義魔術師である俺が最も直接対決を避けなければならない相手。
「かしこまった言葉はあまり好きじゃない。いつも通りで良いよ」
「じゃあそうさせてもらう。単刀直入に言う。君を倒して竜将への挑戦権をいただく」
「そっか。ウィル君も目指しているのか……いいよ。受けて立つ」
「ウィル様! お下がりください!」
ほんの一瞬、気が緩んだ所を狙ってアルマは切り上げた。
だが、リーディアが剣で剣を止めて防ぐ。
いつ抜剣したのか見えなかった。
リーディアとアルマの間で金属の擦れる不快な音が響く。
「いきなり攻撃とは卑怯な」
「それは認めるよ。だけど相手は召喚獣連れの強力な魔術師だ。彼はレッドドラゴンを一撃で場外にしたらしいじゃないか。時間を与えないのは強いと認めているからだ」
俺がロロアを使って調べているように、彼女もこちらをある程度調査していたってことか。そして、虚を突くように仕掛けたのは強敵と認めているから。舞台に上がった時点で戦いは始まっていた。卑怯と訴えるのは筋違いだ。
杖を抜いてリーディアに指示を出す。
「詠唱を行う、アルマを近づけるな」
「はっ!」
さらに後方に下がり詠唱を開始する。
二人はその場で苛烈に剣と剣を交えていた。
「ワタシに付いてこられるなんて君すごいね」
「お褒めいただき感謝します。貴方もなかなかですよ」
「あははははっ! ソードマンの寵児と呼ばれるワタシをなかなかと評するか!」
アルマの移動速度がさらに上がる。
対するリーディアもなんなく速度を上げてついて行く。
すでに二人の動きは常人には見えない領域へと突入していた。
俺には何をしているのかさっぱりだ。
音で剣を打ち合っているのは辛うじて分かるが。
「できた、下がれリーディア!」
「させるか!」
「しまっ――」
攻撃の壁をすり抜け、アルマが俺へと肉薄する。
俺は『身体向上術』を発動させ、彼女の目の前で杖を投げ捨てた。
アルマの目が杖を追いかけ、驚愕で大きく見開く。
「え!? ええええええええっ!?」
「でりゃ!!」
紙一重で攻撃を躱しつつ腕を掴むと背負い投げをした。
身体向上術は文字通り身体能力を向上させる術だ。副次的に意識の加速も行える。彼女の速度に追いつくには、この手段しかなかった。
アルマを床へたたきつけた俺は、にっこり微笑んだ。
さらにリーディアが切っ先を首筋に当てる。
「認める。負けたよ」
アルマはあっさり敗北を認めた。
彼女は必ず俺を狙うだろうと予想していた。強力な魔術師なんて事前情報があればなおさらだ。だからこそあえて魔術を構築すると教え、リーディアに予測しやすいアルマの移動ラインを作らせたのだ。
来ると分かっていれば対応はたやすい。
「まさか召喚士に物理で負けるなんて。完敗だよ」
「リーディアがいなければ負けていたのは俺だ。君の強さに敬服する」
アルマに手を貸して立たせる。
彼女は恥ずかしそうな表情を浮かべてから、振り返ってクラスメイトに謝罪した。
「みんなごめん! 期待してくれたのに負けてしまった!」
しかし、クラスメイトは穏やかな様子で拍手をする。
彼らは「あれなら俺も負けてた」「竜将の弟相手ならしょうがないよね」と納得した様子である。
その間に俺は杖を拾い上げる。
「彼女の実力はどうだった?」
「強いですね。まだまだ伸びしろもあります。経験を増やせば私でも苦戦する相手になるやもしれません」
経験を積む前に挑めたのは僥倖だったのかもな。
ただでさえ魔闘士は専門魔術師と並ぶ化け物だ。アルマが魔術師のようなずる賢い策を練るようになれば今日みたいな勝負はできなくなるだろう。
「ウィル、良ければ友達にならないか」
「……うん」
不意打ちのごとく差し出された手を思わず握り返す。
どうやら俺は、美人の笑顔に弱いらしい。
手は細くすべすべしてて尚且つ体温が高いのか温かい。
「あ、ごめん。汗っかきなんだ」
「いや」
顔を赤くしたアルマは手を引っ込めた。
かと思えばちらちら恥ずかしそうに見てくる。
何かを察したリーディアが何故か剣を握った。
「ま、待て。なぜ剣を握る!?」
「あの者は今すぐ殺しておかなければ」
「もういい、行くぞ!」
殺気を放つリーディアを連れて俺は急ぎ去る。
「ウィル~、今度お茶でも~!」
背後からアルマの声が聞こえた。






