18話 召喚将との戦い
いよいよ召喚将戦がやってきた。
召喚将戦はランキング戦と同じくトーナメント形式。
ただし前回とは違い個人戦である。よって三年生や二年生だけでなく同じ一年のジフとレイミーも敵となる。
会場は前回と同じ闘技場だが、召喚科のトップを決める戦いとあって観客席は満員だ。上級者達の戦いから何かを得ようという熱気が会場を包み込んでいる。
参加者総数九名。
召喚将と戦えるのはその内たった一人。
しのぎを削る苦しい戦いが予想される。
俺は一回戦を――苦もなく突破し二回戦も余裕で勝利した。
「杖が!? ぐあっ!??」
「命令に意識が向きすぎて自身の防御がおざなりになってますよ。先輩」
伸びた【アルケアの宝杖】が二年生を場外まで押し出した。
そのまま背中から壁へ叩きつけられ相手は気絶。
一瞬で杖をもとの大きさに戻し腰へ挿す。
「そろそろ私にも戦闘を。一度も戦わずに二回戦突破してしまいましたよ?」
「君が戦うほどの相手じゃなかったってことさ」
会場はざわついている。
当然か、一年が魔術も召喚獣も使わず物理のみで勝ち上がっているのだ。
好まれる戦い方じゃないのは俺もよく理解している。
しょうがないんだよ。デロンが渡してきたこの『魔術阻害の腕輪』が魔術の構築をどうやっても邪魔する。
事前にロロアの偵察から事情は聞いていた。
デロンがヘイオス達の提案を蹴ることができないことも。
デロンは付けなくてもいいと言っていたが、俺はあえて魔術を使わず勝利すると決めていた。勝利を諦めたからとかじゃない。物理のみで勝てると踏んだからこその判断だ。
控え室へ戻る途中、ジフとすれ違う。
「よぉウィル。さすがだな」
「君の戦いも見せて貰ったよ」
「レイミーの奴、ありゃ反則だ」
ジフは一回戦でレイミーに敗北した。
召喚獣同士の相性の悪さもあったが、それよりもジフを苦戦させたのはレイミーの弓である。常に気配が希薄な彼女が繰り出す水と氷の矢は、ジフを近づけることなく敗北させた。
とんでもないモンスターを作ってしまったかもしれない。レイミー、恐ろしい子。
会場で大きな歓声が起きる。
審判がレイミーの勝利と叫んでいた。
彼女も二回戦突破のようだ。
「悔しいな。オレには二年や三年に勝てるような武器がねぇ。今回は完全に思い出作りの試合だった」
「次がある。召喚将として挑戦を待っているぞ」
「もう勝利宣言か。気が早いぜ」
そうかもな。現召喚将マーカス・エルビーは強い。
使役する召喚獣も『第五階位』のドリアード。
状態異常系のスキルを使用し、麻痺・混乱・魅了の凶悪な攻撃で相手を確実に戦闘不能にする。
エルフェルがいなければ彼が竜将となっていたかもしれない。
強敵。魔術なしで戦うには厳しい相手だ。
◇
レイミーは続けて試合を行った。
相手はシード選手。前回の優勝者であり惜しくもマーカスに敗れた三年生だ。
だが、レイミーは圧勝してしまった。
レイミーが放った先制の矢が相手の防御を突破し、氷漬けにしてしまったのだ。しかも矢の陰に矢を射るなど高等テクニックを駆使しての勝利。
俺とジフはその急成長っぷりに戦慄した。
そして、決勝。
俺とレイミーが対峙する。
「君とやりあうことになるとは」
「ウィル君は、やっぱり召喚将になりたいの?」
「まぁな」
「へ、変なことを聞くけど、召喚将になっても友達のままでいてくれるかな……」
「裏切らないならな」
レイミーは口元を僅かに緩ませ手を上げる。
「この試合、辞退します」
ふぁ!?
レイミー!??
「レイミーは友達とは戦いたくないから。それよりも背中を押して応援してあげたい。お兄さんと戦うんでしょ、協力するから皆を見返そうよ」
「いいのか?」
「レイミーは他より少し裕福だから無理して上を目指す必要もないし」
自慢か。金持ち自慢か。
無欲すぎて逆に怖いな。あとで変な要求されないよな。
レイミーの敗北が決まった。
◇
召喚将戦クライマックス。
俺は現召喚将マーカスと対峙する。
一年での召喚将との対戦は非常に珍しい。
経験不足が目立つ一年生では勝ち上がることすら困難だからである。一年で挑戦権を得たのはエルフェル以来だそうだ。
あの兄は一年で召喚将となり、一年の終わりに竜将となった。
召喚科史上最短記録である。
俺はその記録を破るつもりだ。
小物からのささやかな復讐。俺を見限った者達にぶつける最初の一発だ。
ドリアードを喚び寄せたマーカスは、余裕の笑みで挨拶する。
「やあ、エルフェルの『元』弟君。召喚ができなくて一族を追い出されたそうだね。召喚のできない召喚士とか、もうそれ召喚士って呼べないよね。他人が召喚した召喚獣を使役するなんてみっともないと思わないのかい」
「この国は実力主義を謳っている。つまり経緯はどうあれ強ければ正義だ」
「生意気な一年生だ。特にそのエルフェルとよく似た顔に虫唾が走る。でも、僕は君のことは嫌いじゃないんだよ? あの天才と比べられて育ってきた憐れな出来損ないに同情を禁じ得ないからね」
「同情なら俺もしている。今日ここで俺と戦うことになった貴方に」
影からリーディアを喚び出す。
ドリアードは何かを察し警戒態勢となった。
会場に緩い風が吹き、リーディアの銀髪が揺れる。
あの日、召喚不能者だと知った召喚儀式。
俺は一度全てを諦めかけた。召喚士にもなれずこのまま落ちて行くのかと。
彼女と出会えたからこそ俺は明日へ希望を抱いた。
俺は幸運に支えられて立っているだけの小物。そのくらい自覚している。
だからこそ彼女を使役できるくらい強くならなければならない。
「リーディア、最速で叩くぞ」
「御意」
魔術は使わない。
物理のみで仕留める。
ドリアードはリーディアに相手をさせ俺はマーカスにだけ専念する。
観ているかエルフェル。
あんたが魔術を使って勝利した召喚将戦、俺は舐めプで勝ってやるよ。
これは改めて叩きつける挑戦状だ。
杖を抜いて構える。
対するマーカスもマスクを付けて杖を抜いた。
あのマスクは……恐らくドリアードの攻撃を避ける道具だ。
ドリアードの得意とする胞子拡散は範囲攻撃である。攻撃指定ができない弱点をマスクを装着することにより解決したのだろう。
「始め!」
審判の開始が告げられる。
マーカスとドリアードはほぼ同時に攻撃を開始した。
さすがだ三年生。指示なしの連携かよ。
ドリアードは状態異常を引き起こす胞子をまき散らす。
だが、こっちも無策ではない。
リーディアの肩へ手を置くと、彼女は俺ごと跳躍する。
「疾風斬――なにっ!?」
「*☆▽!?」
術を放ったマーカスとドリアードが馬鹿みたいに見上げている。
【アルケアの宝杖】を槍に変え、単身でマーカスの前に着地。
胞子が辺りに漂っているので呼吸はできない。
息を止めている間に、こいつをやる。
「しまっ、次の詠唱を――がっ!?」
「させるか」
矛先でマーカスの喉を突く。
試合中のダメージは全て『身代わり人形』が引き受けてくれる。だが、痛みまでは消してくれない。たとえノーダメージだろうと頭は傷を負ったと錯覚する。
つまり喉が回復するまで術の行使は行えない。
一方のリーディアもドリアードと格闘戦をしている。
対人スキルが高いのかドリアードの拳を紙一重で躱し、攻撃の内側へ潜り込み腹部へ蹴りを打ち込む。ドリアードは場外の壁へ轟音と共に叩きつけられた。
ドリアードは気絶しダウン。
「ド、リア゛!?」
「よそ見している場合じゃないですよ、先輩」
俺もマーカスの股間を蹴り上げ、痛みに身体をくの字にしたところで、槍の柄で後頭部へ思いっきり殴打する。
「こんな、みとめな……」
マーカスは気絶。
会場は一分にも満たない戦いに絶句していた。
いやぁ、ずいぶん苦戦したな。疲れた疲れた。






