16話 葉っぱよりも粉の方が儲けがデカい
俺は家から少し離れた場所で土を耕しマナ草を植えた。
畑にはリーディアとロロアを包んでいた青い石を粉末にして撒く。
この石は多量に魔力を含有している。
そこに目を付けた俺は、岩をマナ草の成育に利用することにしたのだ。
「しっかり成長しろよ」
「なんだか楽しそうですね」
ジョウロで水をやる。
背後で警護をするリーディアが不思議そうにしていた。
君にはまだ理解できないだろうな。
金の成る木だぞ。たった一枚の葉っぱが一万デラーだ。
うへ、うへへ。楽しいに決まってるじゃないか。
しかし、あの青い岩は他にも使い道がありそうだな。
一般的に魔力が結晶化したものを魔石と呼ぶのだが、青い岩は通常の魔石のそれとは含有量が桁が違う。そのまま先輩に売ってもいいが、出所を聞かれると困るので加工して流した方がいいかもな。
とりあえず粉にして先輩に見てもらうか。
◇
先輩に依頼の葉っぱ十枚を渡す。
「サイズもいいね。魔力の含有量も良さそうだ。じゃあこれ、約束のお金」
「ありがとうございます」
スカラ先輩は十万をポンと渡した。
とりあえずジフに渡した金の十分の一は回収できた。
ここからは九割を回収する為の交渉だ。
それとなく先輩に話を振る。
「ところでこれを鑑定していただけませんか」
「珍しい素材ならなんでも買うよ」
青い砂の入った袋をテーブルに置く。
彼は袋を持ち上げ中を覗いた。
途端に顔がこわばりわなわな震える。
「こ、これは、高密度魔力結晶!? どこでこれを!?」
「秘密です。先輩になら売っても構いませんが……誰から入手したなどは伏せてください」
さも危険な交渉を経て手に入れたように語る。
もちろん俺は高密度魔力結晶がなんなのかは知らない。先輩の表情から高額で取引できそうな代物だと判断しただけだ。
あと情報を伏せるのはリーディアとロロアの存在を学院の上に知らせたくないからだ。
岩のような塊なら目立つが、砂なら小分けにされて目に付きにくい。先輩がさらに別の人へ売り渡せば複数のルートができてより最初の売却者が俺だと分かりづらくなる。
「高密度魔力結晶は特定の条件下でないと生成できない特殊な素材なんだ。古代では安価に製造されていたようだけど、現代ではコストが高すぎて入手は非常に難しい。これで作った薬品や魔道具は通常の二倍から三倍の効果を発揮する」
なるほど。説明ありがとうございます。
すごい素材だとよく理解できました。
ようはブーストのような効果を秘めた素材なんですね。
「今のレートだとグラム一万五千デラーだね。一キロはありそうだから一千五百五十万デラーで買わせて貰うよ。五十万は今後も贔屓にしてもらうおまけさ」
一千五百五十万!?
そ、そんなにするの!??
そんな額をぽんと出す先輩にも引くけど。
スカラ先輩は一枚百万デラーの白金貨を出し、金貨と銀貨を積み上げる。
たった一回の商談で三年間の学費を余裕で支払える額を得てしまった。
「はぁぁ、思わぬところで最高の素材を手に入れたよ。これで回復薬を作ったらどれほどの効果の品ができるのか」
スカラ先輩は目が子供のように輝いている。
「今後も手に入れるなら優先してこちらに回してくれるとありがたいかな」
「なるほど。ではそうさせていただきます。ところで、できた回復薬を融通してもらうことはできますか?」
回復薬は貴重だ。特に戦いにおいては。
人も召喚獣も回復薬があるからこそ多少の怪我でも前に出ることができる。
リーディアもロロアもいつ大きな負傷をするか分からない。
せっかくできた縁を使わないのは勿体ない。
「お金を払ってくれるなら問題ないよ。安くはないけど」
「きちんとお支払いします。薬ができたら声をかけてください」
「オーケー、君とはウマが合いそうだ。HAHAHAHA」
ばしばし肩を叩かれる。
薬学っぽくないなこの人。
◇
リーディアと学院を出ると市場へと向かう。
どこも活気に溢れ度々学院の生徒ともすれ違う。
ここは学院都市で最も食材が集まる市場だ。
魔術学院がある学院都市は、バウレナス国において王都に次ぐ大きさを誇っている。
当然その台所を支える市場ともなれば規模はデカい。
大量に仕入れることにより比較的安価で提供することができ、おまけに学割もきくので俺のような貧乏学生は非常に重宝していた。
貧乏、それも昨日までの話だ。
くくく、今日の俺は財布がパンパンに膨らんでいるぞ。
節約に節約を重ねる苦しい生活にはハンカチを振って別れを告げた。
今日からは念願だったごく普通の生活を送ることができる。貯蓄もできて卒業までの学費も確保できた。ハッピーな気分だ。
隣を歩くリーディアが俺を見てニコニコしている。
「ウィル様が楽しそうだと私も楽しいです」
「ふっ、今日は好きなだけ食材を買って良いぞ。果実だって好きなだけとってこい」
「本当ですか!?」
「遠慮するな」
彼女はぱたぱた店に向かいあれこれ手に取る。
周囲に目を向けると老若男女が、足を止めて彼女の美貌に見入っている。
あの容姿だもんな目立って当たり前か。
スタイルも良いし、近づくといい匂いするしなぁ。
そ、そういえば夜伽がしたいとか訴えてたな……ごくり。
まぁ、人型の召喚獣とそういうことをする奴もいるって聞くしさ。
俺も年頃だから興味はなくもないわけで。
でも自分から『夜伽してくれ』とも言い出しづらくてさ。
そもそも心の準備が。
「よぉ、ウィル!」
「うひっ!?」
不意に声をかけられてビクンとする。
振り返ればジフがいた。
なんだ君か。驚かせるなよ。
「ウィルも夕飯の買い出しか?」
「まぁな」
「今日はリーディアちゃんと一緒みたいじゃん。美少女召喚獣とデートかよ。羨ましい」
このこのと肘で突いてくる。
やめろって。そんなんじゃない。
普通の買い出しだ。
「ウィル様、沢山買ってしまいました! これだけあれば一ヶ月は保ちますよ!」
大量の袋を抱えたリーディアが戻ってくる。
リーディア、それは精々一週間分だ。
考えてみれば彼女には『普通』を教えてなかったな。