13話 クラス内ランキング戦(2)
ハウゼスが立ち上がって拍手をする。
やや遅れてエルフェルと召喚将も拍手。
それを皮切りに三年生達も拍手を始めた。
「デロン君も人が悪いな。ランクアップを黙っているなんて。もしかして我々を驚かせる為にサプライズを準備していたのかな。だとしたらここへ来たのは申し訳なかったね」
「バレてしまいましたか。ご指摘通り皆様を驚かせようとお披露目を延ばしておりました」
「うんうん。今年の一年は豊作だね」
ハウゼスは実に楽しそうだ。
ちょっとしたサプライズを喜んでいる雰囲気。
三年生も短期間でランクアップさせた後輩に感心している。
対照的に観戦するクラスメイトは沈黙していた。
彼らの感情は読めないが少なくとも二人の急成長ぶりに何も思わない奴はいない。
俺は戦闘を終えた二人へねぎらいの声をかける。
「良い戦いだったぞ」
「ロロア師匠との修行に比べればあれくらいぬるいぜ」
「皆がレイミー達に注目してますよ。レイミーはちゃんと生きてる。幽霊とかじゃなくここに存在してる。嬉しい」
俺達は地獄の修行を経て強くなった。
この結果はごく当たり前だ。
それでも今はこの時をかみしめたい。
あの日、届かないと思ったヘイオスとエリーゼの背中をはっきりと捉えた。
デロンが近づき尋ねる。
「次の試合はできそうか?」
「問題ありません」
彼は頷きヘイオスチームを呼んだ。
ヘイオス、エリーゼ、ダットの三人は闘技場へと上がる。
さて、どんな挑発をしてくれるのか。
「まだ理解していないようだな。僕の使役するレッドドラゴンに貴様らの雑魚召喚獣が敵うわけないだろ。そもそも格が違うんだよ」
「わたくしのフェニックスの特性は不死。貴方がたゴミでは一生かかっても倒すことなんて叶いませんの」
「ひぃいいいいいいい。ウィルがいるぅううう」
想像を超えない陳腐な言い回し。
言葉とは裏腹に顔は少し青い。
俺には手に取るように分かるよ、貴様らビビっているだろう?
もう知っているんだよ。碌に訓練もせずにランキング戦に挑んだってことは。
さすがに少しくらいは鍛えてくるだろうと予想していたが、ロロアが日々寄越す情報で勝利を確信したよ。
こいつら召喚獣の強さにあぐらをかいて無策で参加したのだ。
だからダットなんて適当な奴を選んだんだろ。
ぜーんぶ把握しているんだよ。
あとダット、君は次の召喚獣を喚び出すことを考えておいた方がいい。
「レッドドラゴンもフェニックスも不幸だな。こんな冴えない奴らに使役されて」
「貴様!?」
「ゴミの分際で!」
俺は力を込めて言葉を発する。
「俺は出来損ないの小物だ。だから小物らしく卑怯に大物を屈服させてやるよ」
開始の合図が告げられる。
先に動いたのはジフ。
クリムゾンウルフと共に飛び出しヘイオス&レッドドラゴンへ攻撃を仕掛ける。
クリムゾンウルフの爪はレッドドラゴンの鱗に弾かれていた。反撃として前足で押しつぶそうとするが速度で勝るウルフに当たらない。周囲に仲間がいることで範囲攻撃のブレスも尾撃も放つことができないレッドドラゴンは格下相手に完全に翻弄されていた。
一方のジフは直接戦闘でヘイオスを圧倒する。
ちなみにだがランキング戦では『身代わり人形』と呼ばれる全てのダメージを引き受けてくれる魔道具が参加者全員に与えられている。これのおかげで生徒は死ぬ心配はない。
「ちっ、召喚者同士で戦うなんて。これだから一般人は」
「早く攻撃魔術を撃てよ。避けてばかりじゃいずれ負けるぜ」
「言われなくとも! 爆裂炎!」
炎の魔術が放たれる。
ニヤリとしたジフは躱すどころか爆発に真正面から向かう。
得意魔術はすでに把握済みだ。
「それを待ってたんだよ!」
「なにぃいいいいい!?」
ジフの得意魔術は『反射術』だ。
扱いの非常に難しい術であり、タイミングを誤るとモロにダメージを受けてしまう。しかし、成功すればノーダメージで相手へ攻撃を返すことができる諸刃の剣だ。
爆炎はそのまま術者へ反射された。
「僕の、魔術が。よくも。名家の生まれでもない一般人ごときが」
ヘイオスはよろけつつ立ち上がる。
身代わり人形はダメージは引き受けてくれるが痛みまでは消してくれない。
「ヘイオス何をしているの!? 早く、こいつらを倒して!」
「氷結三連射」
レイミーの氷の矢がエリーゼを狙う。
エリーゼは防御魔術で矢を防ぐも舞台端に追い詰められていた。
同じくフェニックスもガーディアンマーメイドと戦闘を繰り広げているが、相性の悪さからフェニックスは攻めきれずにいる。
そして、俺の前にはグリフォンを連れたダットがいた。
「君の相手をしなければならないようだ」
「ひぃ!?」
「リーディア。グリフォンを切り刻んでやれ」
「やめてくれ、こいつだけは!」
ダットはグリフォンを庇うように抱きつく。
憐れすぎて闘志が萎える。
「もういい。場外に出ろ」
「はひぃ」
グリフォンと共にダットはあっさり場外へと逃げた。
これで邪魔者は消え、状況はより有利となった。
できればリーディアの正体はまだ伏せておきたい。
俺は先の召喚戦を見据えている。ここで召喚将と三年に余計な情報を与えれば対策に走らせてしまうだろう。できれば警戒の対象は俺にしておきたい。
「レッドドラゴンを押し出すぞ」
「はっ」
「ジフ!」
「分かってるよ!」
ジフが引きつけている間に俺は古代魔術の構築を始める。
この場で最も厄介なのはレッドドラゴン。
フェニックスはマーメイドの存在が牽制となって地上には近づけない。だが、ドラゴンはウルフでは止められない。完全な上位互換。相性が悪い。
かといってリーディアでたたき伏せるのは先に述べたように目立ちすぎる。
そこで俺だ。
「闇王ノ一本槍」
十メートルはある漆黒の大槍が出現する。
宝杖の力を使わずにこれだ。本気でやれば会場が吹き飛ぶんじゃないか。
大槍はレッドドラゴンの肩を貫き場外にある壁へと縫い止めた。
会場が激しく揺れ観客は逃げ始める。
レッドドラゴンは激痛に悶え苦しみ悲鳴をあげていた。
「レッドドラゴン!?」
「よそ見をしてる場合じゃないぜ」
「ぶぎっ!?」
ジフの一撃がヘイオスの横面にめり込む。
さらに追い打ちを掛けるように俺が杖を伸ばす。
杖の先はヘイオスの鳩尾を突き、そのまま場外へ押し出し壁へと叩きつけた。
「リーディアさん、お願いします」
「お任せを」
氷の矢を防ぐエリーゼへ、リーディアが隙をついて肉薄する。
強烈なアッパーがエリーゼの顎を真下から叩いた。
フェニックスが駆けつけようと急降下するが、マーメイドの水流攻撃により地上へ落とされる。
空中で綺麗に高速回転するエリーゼ。
思わず美しい光景だと拍手したくなった。
婚約おめでとう。
今日の君は輝いて見えるよ。
「ぶへっ!?」
べちゃと地面に落ちたエリーゼは動かなくなった。
会場は激しくざわついていた。
優勝候補があっさり敗北したのだ。
俺からすれば当然の結果だが。
ただ、ハウゼスは微笑みを浮かべ、エルフェルは無表情のままだった。
「手に汗握る見事な戦いだった。僕は感動したよ。今日この場に立ち会えたことは幸運だった。さぁ、勝者に拍手を」
ハウゼスの声が響き拍手が会場を包んだ。
◇
カップとカップが打ち合わされる。
「かんぱーい」
「かんぱいです」
「ああ」
ジフの提案で祝勝会が開かれることになったのだ。
会場はもちろん俺の家。
リーディアがテーブルへ鍋を置いた。
蓋を開けるとくたくたになった野菜と艶のある鳥肉が入っている。
リーディアは「いつかフェニックス鍋ができればいいですね」といい笑顔で語っていた。
……フェニックスって食えるのか?
「ウィルと組んで良かったよ。このオレが召喚将戦に出場できるんだぜ!」
「クラス内ランキング一位ですよ! このレイミーが目立ちまくってます! こんなに嬉しいの人生で初めてかもしれません!」
大げさだな。
ただの通過点じゃないか。
お、この鳥肉美味いな。
エプロン姿のリーディアが器に具を入れてくれる。
「次の試合はすぐでしょうか?」
「いや、今月の召喚将トーナメントはすでに終了している。出るなら来月だな」
不意に家のドアが叩かれた。
リーディアが「はい」とドアを開ける――。
そこには兄であるエルフェルの姿があった。






