11話 訓練訓練訓練
次の日から猛特訓が始まった。
リーディアを相手にジフとレイミーが攻撃を続ける。
「ファイヤーボールだ」
「わんっ」
フレイムドッグの撃った炎の球をリーディアはたやすく握りつぶす。
時間差でレイミーがマーメイドを使って水流を放つ。
だが、リーディアは詠唱もなく土の壁を創り防いだ。
壁が崩れるとそこにはすでに彼女の姿はない。
「どこ!?」
「後ろです」
「ひぃ」
電撃によってレイミーとマーメイドは気絶させられる。
「レイミー!? まじかよ、本当に同じ『第二階位』なのか! ほとんど化け物じゃねぇか!」
「炎を扱うならせめてこのくらいはやらないと」
再び詠唱のない遠距離攻撃。
ジフとフレイムドッグのすぐ近くで爆発が起き一人と一匹は吹き飛ばされる。
ジフも戦闘不能となった。
「いかがでした」
「試しに二人に戦って貰ったが、課題は山積みだな。まず個々の攻撃力がなさ過ぎる。次の攻撃へのシフトが遅い。召喚者と召喚獣との意思疎通もできていない。あと召喚者が完全に弱点になっている」
召喚士の最大の欠点は主である召喚者が弱いってことだ。
だからこそ召喚獣を頼っているので元も子もない話なのだが、やはり上を目指すならこの最大の穴を埋めなければならない。
もしくはそれをカバーできるくらいに召喚獣を強くするか。
できるなら両方を満たしたい。
「偉そうにしているが、ウィルはどうなんだよ。てめぇだってオレ達と変わらないくらい……」
「これでもレインズ家にいたんだぞ。単独で君達を相手にできるくらいの魔術を習得している」
「「ふぎゃ」」
加重術で二人の体重を増やす。
レイミーは「どうしてレイミーも!?」と涙目になっていた。
すまん。つい。
術を解いてひとまず家の中で作戦会議を行う。
今回どこまでのラインを目標にするか決めなければならない。
「どうぞ」
「サンキュウ。ウィルの召喚獣は気が利くな」
「ほんとうですね。まるで人みたいです」
ジフもレイミーもリーディアを未だにドッペルゲンガーと認識している。
人のようではなくほぼ人なんだがな。
面倒なのであえて説明はしない。
「すでに伝えたがランキング戦を勝ち抜くには、こなさなければならない課題が山積みだ。召喚者と召喚獣の質を上げるのはもちろん、双方の連携、それからチームでの連携、もう一つ言えば敵の能力の把握だ。ロロア」
「お呼びのようじゃな」
影からロロアが出てくる。
二人は驚いて壁際へ逃げた。
「なんだそいつ!?」
「明らかにヤバそうなんですけど!?」
「召喚獣のロロアだ。噛みついたりしないから戻ってこい」
「くくく、うっかり燃やすかもしれぬがな」
「「ひぃいい」」
無駄に脅すな。
話が進まないだろ。
ロロアにちょっとした質問をする。
「誰にもバレずにクラスメイトを調べることは可能か?」
「たやすい。見ておれ」
ロロアの足下から闇が広がり無数のカラスが出てくる。
一羽のカラスが俺の肩に留まり人語を発した。
「これは儂が偵察などに使う分身じゃ。高度な隠蔽を施しておるので魔術師の張り巡らせた結界にも引っかからん」
結界に引っかからない偵察用の術って。
なるほどかつての魔術師が畏敬の念を抱くわけだ。
召喚獣でありながら魔術師を超える魔術師とは。
窓を開けるとカラス達は一斉に飛び立つ。
これで情報収集の件はクリア。
「ロロアもお茶を」
「すまぬな」
ロロアも席に座り会議に加わる。
「影の中から話は聞いておった。そこで儂から案がある」
「聞かせてもらおう」
「うむ、儂は基本的に魔術を主力としておる。反対にリーディアは対魔術に特化した能力を有しておってな、連携の前にまずは召喚獣と召喚者をそれぞれに預け、鍛えるのが最良ではないか」
連携うんぬんの前に、個々の能力をしっかり鍛えなければならないか。
全くもってその通りだ。一から鍛え直すべきだな。
ロロアは続ける。
「それから主にも特訓があるぞ。お主は儂らと相性こそいいが、まだ能力の全てを引き出せるほど開花しておらん。せめて三割くらい引き出してもらわねば」
「ちょ、待ってくれ。今の俺は君達の力をどれくらい引き出せているんだ」
「せいぜい一割じゃ。安心せい。かつての召喚者共は十年かけてようやくそのくらいじゃった。主なら二週間もあれば届くわい」
あれで一割。トロールを一撃で倒したあれで。
もし百%引き出せたなら、兄にも勝てるかもしれない。
あの天才と呼ばれる最強の兄に。
◇
無数の火球が降り注ぐ。
ジフとレイミーは衝撃で宙を舞う。
「くくく、なんじゃこの程度で音を上げるのか。ゴミ虫め。悔しくないのか。ランキング戦とやらで一位になりたくないのか。ほれほれ」
二人は立ち上がる。
「オレは騎士団に入る。だからもっと鍛えてくれ」
「レイミーは強くなって沢山の人達に覚えて貰いたい。存在感ないね、影みたいだね、なんて二度と言わせない」
一方の俺はロロアの影(複数)と熾烈に殺し合いをしていた。
魔術の使用は禁止。
使う武器は【アルケアの宝杖】だけだ。
剣と化したロロア(影)の右手を槍で弾き、紙一重で背後からの攻撃を躱しつつ蹴りを打ち込む。
契約があるので本気で俺を殺すことはできないはずだが、卓越した魔術の知識を有するロロアが抜け道を見つけていないとも限らない。故に気を抜くことはできない。
◇
ジフの拳がロロア(影)の腹を撃ち抜く。
すでに満身創痍。至る所から血が垂れていた。
「やべぇ、死ぬ。ロロアさん半端ねぇ」
「もう音を上げるのか若造。レイミーを見てみろ」
「あいつは特殊なんだよ」
水の魔術で創り出した矢でロロア(影)を射貫いていく。
発射後は即座に離脱、ロロアの攻撃魔術を回避しつつ安全な位置を見つけ瞬時に攻撃準備。一秒にも満たない時間で照準を合わせ発射。
俺は二人の努力を眺めつつ独特な魔力操作に苦戦していた。
ロロアが過去に学んだ古代魔術を教えてくれたのだが、魔力の操作も呪文も術式構築も現代魔術とは全くの別物であった。
最初は現代魔術で応用すればどうにかなるとか考えてた。
過去の自分を殴りたい気分だ。
知れば知るほど理解する。
現代魔術は古代魔術の表層をくみ取っただけの簡易な術であると。
古代魔術研究会が古代魔術を復活させたい気持ちも今なら理解できる。
真の魔術とは古代魔術のことを指すのだ。
「それで召喚獣のつもりですか!」
「くぅん」
「ぴちぴち」
リーディアが召喚獣をしごいている。
いつにも増して厳しい。
フレイムドッグとマーメイドには、対魔術師の技術を伝授しつつ鍛える予定であったが、むしろ自信を喪失させ逆効果になっている様な気もする。
このまま彼女に任せて大丈夫だろうか。
◇
訓練開始から一週間と数日が経過した。
ランキング戦までもう日がない。個別訓練は終了し本日から連携の訓練に移る予定だ。
「ジフ君、ずいぶん逞しくなりましたよ。魔術の威力も格段に上がりましたし」
「まぁな」
ジフは一回り大きくなった印象だ。
炎の魔術と格闘戦を得意とし、魔術抜きなら俺でも負けるかもしれない。
「けど、レイミーも強くなったじゃないか。正直、今のお前に勝てる気がしないぜ」
「えへへ。少しは存在感アップしました?」
レイミーは外見こそ変わらないが、その実力は大きく変化している。
元々存在感が薄かった彼女は弓を使うことで短所を長所へと変えた。おまけに驚くべきはその腕前。百メートル以内ならほぼ百%命中。今も尚、その距離と精度は伸びている。
「ウィルはあんまし変わんないな」
「ですね」
「五月蠅い」
俺も見た目こそ変わらないが基礎能力は格段に上がっている。
いくつかの古代魔術も習得し、以前とはレベチである。
さて、リーディアが鍛えていた召喚獣の方だが、どうなったのだろうか。
「来なさい。貴方達の訓練の成果をお見せするのです」
「グルゥ」
「ハイ」
のそりと姿を見せたのは体長三メートル近くある紅の狼だった。
以前の愛らしい犬の姿とは似ても似つかない凶暴な面構えに俺達は後ずさりする。
犬じゃなくなってる!?
どうなってるの!?
マーメイドの方もか弱い少女の姿から美しい大人の女性へと変貌していた。しなやかな肉体にうっすら筋肉が浮かび手には大きな三つ叉の槍を握っている。
まさかこれはランクアップ!?
階位を上げたのか!??
召喚獣には稀にだが上の階位へ上がることがある。条件は不明。長く使役している召喚獣で起きることが多いそうだ。こんな短期間で起きていいレア現象ではない。
「まさかクリムゾンウルフになったのか? 第三階位だぞ?」
「グルルル」
「第五階位のガーディアンマーメイドになったの?」
「レイミー、ウレシイ?」
あ、マーメイドが喋ってる。
人語を解する召喚獣は結構いるが、この短期間であそこまで流暢に話せるようになるなんて。
「いかがでしょうかウィル様。ご満足いただけましたか」
「み、見事だ。予想を超える結果に驚いた」
「頑張った甲斐がありました」
頑張って済むレベルなのか、これ。






