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狂気の村


 宿屋の1室にて気持ちのいい朝を迎え、朝食をもっきゅもっきゅと頂く。


「ゆ、勇者様ぁ……そろそろ機嫌直してくださいよー」


「いやだから別に怒ってはないって」


「怒ってはないんでしょうけど、気にはしてますよね? 」


 う……思い当たる節はあるので目をそらす。違うんだ、別に何かラッキースケベ的イベントがあったわけじゃないんだ。ただ互いの経験値に結構差があったというか、俺の想定以上にリンが初心だったというか。


 ……俺は誰に釈明してるんだ? アイリスか、脳内アイリスなのか。


「……ああもうこの話は終わりだ、おーわーりー。今後の予定を話し合うぞ」


「はーい、と言ってもリンはやりたいこととか特にないですし、勇者様のお好きなようにって感じなんですが」


「ふむ……」


 とにかく昨日感じた違和感を探るには宿屋の親父を直撃するのがいちばん早いのだろうが、それにはリンの存在が邪魔になる。ここは別行動させる方がいいか。


「んじゃ別行動で」


「えぇー…………」


「んだよ、なんか文句あんのか? 」


「何かこう、簡単には言い表せないようなもやもやがあります。端的に言うとリンにもっとかまって欲しいです」


「あー……後でな後で。早ければ今日の午後にでも構ってやるから」


「ホントですかっ! 言質取りましたからね、言質っ! あ、じゃあリンは適当に村の中ぶらついてるので、何かあればお呼びくださいっ! 」


 それではっ! と言い残しどこかに走り去ってくリン。……さて。


「親父さん、少々お話よろしいですか? 」


 手元にあったお茶のような何かを飲み干し、切り込む。気分はまるで容疑者の取り調べを行う警察官だ。


「……お話、とは? ……私が勇者様に話せるようなことなど……何もありはしませんよ……」


「いやいや、そう冷たい事を言わないでくださいよ。ほら、色々あるでしょう? 最近あったこととか、親父さんの近況とか……リンのこととか」


 やはり、と言うべきかリンのことを話題に出すと少し親父の目が泳いだ。別に親父に罪はないが洗いざらいその心当たり吐いてもらおう。


「……勇者様のお仲間のことは私には分かりかねますが……そうですね……ではこの村の近況でもお話しましょうか……? 」


「ええ、そうですね。お願いします」


「……とはいえある程度昔の事情は、ご存知かと思いますので……最近……村の住人が疎開先に移動した辺りから話しましょうか……」


 疎開。俺の元いたところでも過去にされていたとかいなかったとからしいが、とにかく魔王軍や魔物の攻勢が激しくなっていた最近では、前線にほど近い村や街の住人は比較的戦争の被害が少ない僻地へと移動させられていたはずだ。というか何度かそういった人たちの護衛をしたこともあるし。


「……ここよりはるか北にある小国テニカ。私たちラーノ村の住民は……そこの国の各所へと疎開しました。そこはあまり食料などが豊富な国ではなかったので……子供たちがお腹を空かせることなどもありましたが、毎日のように命の危機を感じていた頃と比べれば……遥かに真っ当な日々でした……」


 ふむふむ。


「そしてそんな日々はごく最近まで続いていたんです……本当に最近まで……」


 ……ん? その口ぶりだと何かテニカ方面であったような感じだけど……そんな報告入ってたか? あるいは本当に魔王城に殴り込みをかけたあたりの出来事だったとか?


「……何が、あったんでしょうか? 」


「……」


 口をとざす親父。いや、ぱくぱくさせてるから言う気がないという訳では無いのか、それほどに言い難い内容なのか? それこそ大規模な襲撃でもあったとか……



「――――全滅です」


「…………は? 」


 親父の言っていることが理解できないうちに、親父の様子がどんどん激変していく。先程まで目の下に隈が浮かび、全身から生気が失われているといった風貌だった彼が力強くテーブルを叩きながら叫び出す。


「……正確に言えば、ほぼ全滅、というのが正しいのでしょうか。ですが、私はっ……今でもあの光景を……! 平穏な暮らしをしていたのに、魔物が大量に押し寄せてきて……! 妻も娘も無惨に……あああっ!!

あの男、あの男が……!! 」


「親父さん!? 落ち着いて、深呼吸を……! 」


「落ち着けるわけが無いだろうがっ!!? 」


「んん!? 」


「あぁあ゛……勇者、様! お前が……違う、あの男……お前のせいだ……がああっ! 人間の男が……!! 油断してた、みんな…………!!! ああああああああぁぁぁっ!!!! 」


 やべぇ、非常にやばい予感がする。


「ゔうゔぅぁあああ…………ゆ、じゃざば、ぎをづげでぇ……まものどいっしょ……にんげん……ゔぇあぁああ……」


 明らかな異常事態。だが、何故か俺の心はそこまで平静を失ってはいない。何故だろうか? この展開を予想していた? この村の異常性に気づいていた?


 いや、それは無い。少なくとも俺は親父に話を振る前までは呑気にしていた。



 ……そうだ、始めからおかしいんだ。この村の住人は皆、疎開して遠くにちらばっている。誰か人が残っているはずはない。それなのに何故俺はこの村に来ようとした? 誰かが戻ってきているとでも思っていたのか? 魔王が倒されたのはつい先日だと言うのに?


「勇者様っ!!」


「リンっ!? 」


 力強くドアを開ける音が入口から響き、思考の渦の中から俺の意識が引き戻される。目を向ければ足を高々と振り上げたリンの姿……え? 蹴り開けた?


 などと思っている余裕もなく。


「やっぱりこの村は変です、やばいです、激ヤバですって!! 早く離れっ……!? 」


 考えるよりも先に体が動く。宿屋の床を蹴り砕くと同時に抜刀。リンへと肉薄する。


「きゃあああっ…………ってあれ? 」


 そのままリンを抱え、後ろに迫っていた屍体……ゾンビを粉々に切り捨て、その勢いのまま外へ。……ふーん?


「リン、掴まってな。どうやらこいつだけじゃないらしい」


 外へ出てみれば、晴れた空はどこへやら。暗く淀んだ雲の下、大量の亡者たちが廃墟となった村の各所から湧き出ていた。


「……気になることは多いが、とりあえず斬るか。全員そこに並びな、知った顔かどうかは分かんないけど苦しまないように送ってやろう」

 


 

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