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勇者様、人望無いんですか!?


「さて、リン。不本意ながらこれから俺たちは一緒に旅をしていくことになる。だがその前に聞きたいことがいくつかある」


 時間と場所は少し飛んで、リンと出会ってから半日以上が過ぎた。街道から少し離れた窪地で、俺たちは1夜を明かすため、就寝の準備をしていた。


「いいですよ、なんでも聞いちゃってください! あれですか、スリーサイズとか聞きますか? えっと、上から……」


「いや、別に聞きたくないし興味もないわ」


「えー……じゃあじゃあリンの好きな男の人のタイプとかっ! 」


「あーのーな、そんな色ボケた話じゃないことくらい分かるだろ。お前現状怪しすぎるんだよ。そんな奴をむざむざ旅の仲間として引き入れた俺が言えたことじゃないかもしれないが、少しは信用できる要素を示せ」


「信用できる要素を示せ、と言われましても……そんなのどやって示すんですか」


「そうだな……まずお前キョンシーとか言ってたけど誰に何で作られたんだよ。自然発生するシロモンじゃねーだろ」


「分かんないです」


 はぁ?


「分かんないってどういう事だよ」


「そのままの意味です。リンは気づいたら魔王城の近くにいて、そこからふらふらと歩いていたら勇者様に出会ったんです。そこから前の記憶は何にも残ってないです」


 いやいや、そんな事有り得るのか? キョンシーは言わば使い魔の1種。死体を使うという特性上、倫理的な問題などもあり、人前には出さないようにするのが屍道士の暗黙の了解のはずだ。それなのに、作りたてのキョンシーを放置? それも魔王城の近くに? 


 ……余りにも怪しすぎる話だが、どうにも嘘をついているようには見えない。


「…………じゃあ、生前の記憶とかも? 」


「無いです。全く」


「はぁ……じゃいいや。次の質問行くけど何でお前そんな俺に懐いてんの? 完全なる初対面だよな? 多分」


「んー……説明が難しいんですが、2つの感情……というか1つの行動原理と1つの感情がありまして。今も頭の中でガンガンに響いてる行動原理。こっちは勇者ニ同行セヨって感じです」


「ふーん? で、感情の方は? 」


「えー、そんなの決まってるじゃないですかっ。ゆ、う、しゃ、さ、ま、Loveですよっ」


「うわ、うっざ……おっと失礼」


 つい本音が出てしまった。しかしまあほとんど何もわからなかったな。こいつの件は保留だ。うざくはあるが絡んでいて楽しくないわけじゃないので、ある程度は気にかけてやろうと思う。


「おら、明日も早いんだからさっさと寝とけ」


「おやすみのちゅーをどうぞこの口に! 頬でも可! 」


「え、何? おやすみのグー? よし、歯を食いしばれ」


「すっ、すやぁ……」






 ラーノ村。王都レイニーから街道を徒歩で1日ほど進んだ先にある小さな村。何か特産品があったりする訳では無いが、レイニーに訪ねてきた観光客や行商人がひと休みするのに利用することが多いので、村の規模の小ささに見合わぬ発展を遂げているらしい。


 らしい、というのはあくまで人づてに聞いた話だからだ。今までこの村に来た時は、滞在しても1泊で終わっていたため、ろくに村を見て回ったことはない。だが、仲間の愛想の良さや勇者としての功績や名声などが幸いしてか、村人の当たりは強くなかったはずだ。



「……だから冷遇されることは無い。勇者様、そう言ってませんでしたかぁ? 」


「いや、だって……うーん? 」


「確かに冷遇では無いですけどね、さすがにこんなとこ滞在する意味は無いんじゃないですか? 」


 そう、ラーノ村に着いた俺たちを待っていたのは物陰から感じる奇異の視線と場違いなものを見るような視線。そこには過去に幾度も村を助けた勇者に対する感謝の意思は全く含まれていなかった。


「勇者様歩くの早いし、村に着いたら少しはゆっくりできるかなーって思ってたんですけどねー……」


 う、責めるとまでは行かなくともちょっと残念なものを見るような視線が痛い。


 ……そんなことを言われたって、俺だってこんな態度とられるような心当たりは全くない。城での出来事と合わせてちょっと涙が出そうだ。世界が俺に対して優しくない。


「ま、良いですよ。見た感じ宿屋くらいならまだ生きてるみたいですし向かいましょう? 」


「へーい」


 村の入口から宿屋に向かうまでの道は何度も通っているはずなのに、何故か見慣れない道を通っているような、そんな違和感を感じながら歩く。空気は重いし、視線は痛いし、旅を始めてまだ1日経ったか経ってないかというくらいなのにもう心が折れそうだ。


「もう、勇者様。いつまでどんよりした顔してるんですか。こんなに可愛い女の子と一緒にいるんですから元気だしてください! 」


「…………はぁ」


「え、なんですかその顔、そしてため息! リンの何が不満なんですかっ! 」


 そんなことを言われて元気を出すのはなんだか癪なのでじっとりと見つめてみたのだがどうにもお気に召さなかったらしい。だが、気がほぐれたのは事実なので適当に頭をぐしゃぐしゃと掻き回す。


 ……髪が乱れるーとか言いながらも、顔が緩んでる。分かりやすいヤツめ。うりうり、もっと撫で回しちゃる。


 …………はっ!? 気を許さないとつい先日誓ったばかりなのにもう絆されてる!? リン、恐ろしいヤツめ。



「……何を……なさっているのですか? ……勇者様」


「きゃあっ!? ……って、ああ宿屋の人でしょうか? 」


 意識の外から話しかけられたので割と俺もびっくりしたのは秘密だが、リンの言う通り、話しかけてきたのはここの宿屋の親父だった。


「え、ええ。無事魔王も倒したのでね、今までお世話になった人達のところを周る旅にでも出ようかと思いまして」


「っ! 魔王を、倒したのですか……!? 」


「!? ちょ、親父さん、痛いですって! 」


 魔王を倒したと伝えた瞬間、宿屋の親父の様子が急に変わり強く俺の両腕を掴んできた。だが、それも当然のことだろう。ラーノ村はかなり魔王軍や魔物の被害を受けていたはずだ。その元凶が無くなったと聞けば、こんな強い反応を見せるのも不思議ではない。


「あ、ああ……すみません。つい、興奮してしまい……そうですか、魔王が……」


「はい。……守れなかった俺が言えたことではないかもしれませんが、ようやく犠牲になられた方たちに報いることが出来ました」


「……そう、ですね。あなたはそういう御方でした。……宿を探しているのでしょう? どうぞ、部屋は幾らでも空いていますから」


「あっ、すみません。お借りします。ほら、リン行くぞ」


「はーいっ」


「てかお前やたら静かだったじゃん。どしたの? 」


「リンは一人前のレディですので。当然空気を読んで黙るくらいのことはしますよー」


「……一人前、ねぇ」


 何やら少し後ろに下がり静かにしていたリンを呼び、少々の雑談を……うん?


「あの、親父さん? リン……この子がなにか? 」


 何故か宿屋の親父が強くリンのことを見つめていた。確かにリンはその格好の異様さとやたらと良い顔とが相まって、2度見をされてもおかしくない見た目をしているが……客商売をしている人がこんな露骨な反応を示すかね?


「……いえ、なんでも。ですがお客様、1つ質問をしてもよろしいでしょうか……」


「リンに、ですか? ……良いですけど」


「では……お客様はどの辺りの出身でしょうか」


「……さぁ? リンはその辺の記憶はぜーんぶどこかに落としてきちゃいましたので。もう良いですか? 」


「……はい、お引き留めして申し訳ありませんでした」


「別に、構いませんよ。さ、勇者様っ! 行きましょう! 」


 宿屋の親父に対応していた時の冷徹な顔と比べると別人のような笑顔を浮かべ、鼻歌を歌いながら階段を登るリン。



「……2人部屋〜、同衾〜、情事〜……」



 ……何やら不穏な歌を歌っているのはともかく……何だ、今の会話。明らかに2人とも何かを隠している。


 リンの方は、キョンシーは生前の記憶を無くしていることもあるらしいので嘘とも真実とも取れるが、親父の方は明らかに何かある。


 こりゃそれなりの期間滞在する必要があるか? いや別にリンの過去をほじくり返す気は無いのだが、親父との関係性は気になるので。


「それじゃあ、失礼します。部屋、お借りしますね」


 親父から鍵を1つ預かり、2階へ。…………あれっ? 1つ?

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