これは尻に敷かれるフラグですね……
「あー……よく分からんけど要するにリンさん? はキョンシーなのね」
「あっ、全然敬語とか使わないでいいですよ。さん付けも無しでいいです。リン、そういうの苦手なんで」
「ハイハイ、じゃあリン。何でキョンシーが俺に話しかけてきて尚且つ同行しようとしてんの? なんか企んでるなら……」
斬る。そんな意図を含めつつ、剣に手をかける。
が、リンはこちらの意志を理解していないのか、あるいは理解していてわざとしているのかは知らないが呑気に話を口を開く。
「企んでいると言えば企んでますよー、勇者様とのラブラブ2人旅とかっ! 」
すごいな、この世界に来てからウザイとか感じたことないのに。何かウザくなってきたし置いてこうかなという気持ちになってきた。語尾にいちいち星が付いてそう。
「そっかー、うん。そんな相手が見つかるといいな、じゃあ俺は行くから」
いい笑顔(当社比)を浮かべ、和やかにこの場を去ろうとしたのだが何故か捕まってしまった。解せぬ。
「ちょっ!? この世界に貴方以外に勇者がいるんですか、いないですよねぇ!? 」
「ええい、腕を引っ張るな! お前みたいな怪しさ大爆発してる地雷連れてけるわけないだろが! 」
「っはァー!? 言うに事欠いて地雷ぃ!? ヤッバイですね、勇者様! 女心理解するとか以前にお年頃の女の子相手にしてるって自覚無いんですか!? 」
「幾ら若い女性相手だろうが不審者にはそれ相応の対応しますけどぉ!? 」
なんだこいつ。初対面で馴れ馴れしい、何故か俺が勇者だと知っている、妙に好意的と疑わなくていい要素がない。以前あった事があるかとか思ったけど、こんなやつと会ってたら間違いなく覚えてるだろう。
「はぁ……あのなぁ、真面目に答えないなら本当に置いてく……」
「勇者様」
何だよ、急に殊勝な顔つきして。さっきまでとはテンション感があまりにも違いすぎるんだが情緒どうした?
「……んだよ」
「お願いします、貴方のそばにいさせてください。リンは、もう……勇者様のお側を離れたくない……」
「む……」
はぁ……我ながらチョロいとは思う。とても思う。危機管理能力が足りてないんじゃないか、とかお前は女なら誰でもいいのか、とかも思う。
とはいえ、とはいえだ。幾らこんな怪しさはなまる満点の女でも見てくれはただの少女。そして俺は勇者。世界を救う旅の中で、幾度となく人々を助けてきた以上、こうして真剣に救いを求めてきた相手を無碍に扱うことなど出来はしない。職業病だな、もはや。
「……っはぁー…………わーったわーった。いいよ、もう。好きにしなよ」
「っ、はいっ!! 」
こんな突き放したような適当なセリフでも、そんな分かりやすく喜ぶのか。幾ら初対面とはいえ、そんなに嬉しそうな様子を見せられたら、こちらとしても悪い気はしない……アイリスも歳の割に幼めの容姿だし、俺はひょっとしてロリコンなのか……?
いや、この思考は止めよう。ろくな結論に行き着かない気がしてきた。とりあえずアレだ、1発威厳を醸し出しとこう。上下関係をハッキリさせとこう。
「だがアレだぞ、俺は厳しいからな。お前の存在が邪魔だと思ったらすぐに放り出すからな、分かったか! 」
「……ふふっ、はーい。分かりました」
分かってんのか、こいつ。……何かもうダメな気がする。
「さて勇者様、これからどうしましょうか」
「そだな、今んとこ特に目的はないから、今までの旅で行ったとことかお世話になった人のところを回ろうかなと」
「おっけーです! じゃあ行きましょうかっ」
そう言うと、俺の右腕に腕を絡めて嬉しそうに歩き出すリン。しかし、成り行きで王都を離れることとなってしまったがあんな急に離れてきて大丈夫だっただろうか。
……まあ、魔王は倒したんだし勇者の存在はもう要らないだろう。これで聖剣を返せ泥棒! とか言われたら困るが。
左腰に提げた聖剣を見ながらそんなことを考え、街道を進んでいく。とりあえず最初の目的地は王都から歩いて1日ほどの距離にある小さな村、ラーノ村だな。あそこの村人のことは昔よく助けたりしてるからなぁ。冷遇されることは無いだろう。