回想と言う名の愚痴
ゲームや漫画の世界に転移してみたい、もしくは、転生したいと思った方は何人いるだろうか?
仮に、転生できたとしても、モブキャラと主要キャラのどちらかに転生と言う事になる。転移も同様だろう。
モブか主要かはさて置き、ゲームや漫画の世界で起きる事を予め知っている状態で、命がけのやり取りやハートフル(もしくはハートフルボッコ)なイベントを体験したいと思います? 自分は嫌です。
さて、何故こんな事を冒頭に語ったのかと言うと、悲しい事に自分には『ゲームか漫画の世界に転生した』と言う経験があるのだ。
自分の場合、作品の世界に転生しようがそもそも『作品とは無関係な存在』なので、今いる世界が作品の世界だと『知る機会がほぼ存在しない』のだ。貴族であろうが、平民であろうが、知る機会が無ければ無関係でいられるのだ。
無知と無関係って素晴らしいと実感する瞬間でもある。
ここで逆の場合はどうなるって、思った方はいるだろう。いなくても進めるが。
逆の場合、悲しいと言うか、絶望的と言うか、何故か『メインかモブのヒロインか主人公(どっちも同じか)』扱いにされてしまう。
何故こんな恐ろしい事が起きるのか、未だに解明できない謎だ。悔しい。
たまたま出会い仲良くなった『やたらと顔の良い知人、友人、親戚、遠縁』と何年後に〇〇に一緒に行こうと約束すると、何故か約束の少し前に、病か事故で亡くなったりする。
そうなると一人で行かなくてはならない。ここで行くのを止めるとな~ぜ~か、『何が有っても必ず行け』と周囲が後押しするから謎だ。
そして、一人で向かい、あれこれ絡まれ、事件に巻き込まれ、『ここは〇〇って言う作品の世界だよ』と絡んで来た人達――自分と同じくこの世界に転生し、ここが作品の世界だと知っている人――に教えられる。その際、自分が数年前に病か事故で一緒に行こうと約束した亡くなった人物について語ると『その子が主人公!』と驚かれるのだ。
自分でも何を言っているか分からないが、要は『主人公から代理を託された』状態なのだ。
どう言う原理が働いたかは不明だが、自分と約束した『主人公になる筈だった子』は、『約束を果たしてね』と、自分を代理として作品の舞台に送り出している。
つまり、作品とは無関係なのに、主人公かヒロインをやれと強制されるのだ。
全くもって、冗談ではない。
全力で逃げても、運命(もしくは宿命か)の強制力なのか、全く知らない未知のイベントが起きる。そして、泣きたい位に巻き込まれる。
無駄に美形な男に絡まれ、女からの嫉妬の嵐で、最悪極まりない!
逃げても強制力は発動するのか、イベントで足止めされる始末。
一度状況にキレて、『やってやれるか―!!』と何のイベントか知らずに、ちゃぶ台返しをするような事をした。
とっても怒られたよ。色んな人に。
でもね、押し付けるんじゃねーよと、キレても良いと思う状況を作っておいてさ、怒るなとか何様だよ。特に王子とか、王族とか。
縁切り宣言されるような事を散々やらかしておいて、『待って、ごめん、考え直して』はないと思う。
こう言う事が起きるのは主に、異様に流行った『乙女ゲームの悪役令嬢に転生しちゃった系』の作品の世界。
断罪回避を目指してこちらとの関わりを減らすのは良い方。
悪い方は、悪役令嬢の婚約者が『婚約解消は嫌だ』とヒロイン代理な自分に嫌がらせをして来る事。何もしていないのに悪者にされるからたまったもんではない。相手が王子だとなお悪い。何故かって? 権力者だからだよ。
王子に睨まれているからと、家から追い出されるのはまだマシ。
だって、いつか家から出て行く予定だしね。まぁ、当の王子に『何もしていないのに、貴方に睨まれていると言うだけで家を追い出されました。国からも出て行くので、二度と関わらないでくださいね』とお願いすると、大体、謝って来るか、そんなつもりはなかったと青ざめるかの二択か両方だ。
無実なのに濡れ衣を着せて、追い出しにかかって来る奴とか稀にいた。こっちの場合は、濡れ衣を証明後、王子に処罰が下るからいいんだけどね。悪役令嬢が『王子の罪を軽くする為に擁護して』とか馬鹿を言い出す時もあったな。王子を止めなかったからと言う理由で無視したけど。王子の両親から謝罪後、悪役令嬢から作品の解説が入るが、『巻き込むな、知らん』と突き放す。
と言うかね、ヒロインの手を借りないと滅亡一直線なシナリオを知っておいて『好かれると困るからヒロインを虐める』ってどうよ?
ヒロインが悪役令嬢と同じ転生者だったらと言う展開が思いつけないのか、ある意味思いついているのか。
逆ハー狙うヒロインかどうかも調べずに一方的に決め付けてかかり、嫌われる事しかしていないのに、助けろとかさ、阿保じゃない?
幾ら転生したからって『悪役にされる』って怯えるなら、『悪役にならない』方法を考えればいいのに。
て言うかね、ヒロインではなく、『ヒロインに該当しそう』ってだけで、会った事もない人間を『婚約者を篭絡する女』とか、『自分を貶める女』って判断するとか、何を考えてんの?
しかも、『嫌っていると分からせて、鼻っ柱を折って謙虚になってもらい、困った時に手を借りる』とか、はっきり言って、馬鹿の一言に尽きる。
この展開が一回あった。
滅亡の序章っぽい所で、縋るような目で見て来たので『嫌われている相手に縋らないと滅びるなら滅びてしまえ』って突き放して逃亡した。
逃亡と言うより、先に避難した、が正しいか。
でも、避難中に巻き込まれ、しょうがなく倒した。その後、公表内容の打ち合わせ云々、言い出した王子を無視して現場から逃亡し、約一か月半顔を合わせないようにした。
用が出来たので変装して王都に入るも、王城に連行され、王子達に引き合わせられた。あの時の媚びた作り笑顔は忘れん。
怒りをぶちまけて、二度と寄るなって言っても、国王が出てきて頭を下げないで、お願いと言う『命令』をするから、本当に腹が立った。
愛国心はないのか、貴族の義務だ、どう言う教育を受けたとか、喚くから嫌だった。
愛国心? そんなもの、王子達から受けた冷遇で消えたわ。
義務? 義務で王子助けて暗殺云々と疑われたから、御前でもう二度と誰も助けませんって、宣言しましたが?
教育? 完全放置だが。両親の顔すら知りません。機会があれば縁切りにかかる親だぜ。
喚く連中に王子から受けた冷遇全部暴露した。国王夫妻、宰相、将軍、宮廷魔法士団長が顔面蒼白になったが『自分が王子達を良く思わない』原因は理解しただろう。
復讐に走らないだけ感謝して欲しいぐらいだ。
――でも結局、紆余曲折の果てにヒロイン代理をこなす羽目になった。
この後、他国に『救国者と仲が良いよアピールの為に』婚約者がいない方の王子が『婚約して』とか言い出したから、張り倒して断った。頷くまで逃がさんって空気を出したから、国外に逃亡した。
逃亡直前、国王が『王族との婚約に何が不満なの?』的な事をほざいたので、何が何でも拒む姿勢を貫いたんだっけか。この王に王子が、散々、自分に何をやったか聞かせたのに、何故か、忘れ去られていた――と言うか、無かった事にされていた。これにもマジで腹を立てたんだよね。と言うかね、散々嫌がらせをして来た野郎と婚約して喜ぶ、嗜虐癖を持ったの女がいるのか? 自分は願い下げだね。
国外逃亡をあっさりと決められたのは『国に対する愛着』と『身分に対する誇り』が無いから。恐らく、実の両親に拒まれて育つので『愛国心? 誇り? 何それ?』状態で放置されているからだと思う。国に対する思いや貴族としての在り方を語る親不在が原因。
国外逃亡は中々に大変――ではなかった。
何故かって?
それは、簡単な話さ。
その世界では『いつものように探す九人がいなかった上に、研究時間がない』のだ。ぶっちゃけ、やりたい事が出来ない状態だった。
時間が空けば、いつもなら武器の手入れや、魔法の開発と研究――と言う名の、漫画やゲームの魔法再現――を行うのだが、転生した世界によっては後回しにする。
追手が放たれているのに、逃げながら暢気に研究とか出来ない。
故に、こう言う時は『安全な場所に避難後、早急に転生魔法を起動させて、世界から去る』と言う選択を取る。
人生をまた一からやり直す手間を思うと、正直、この選択はしたくない。
でも、確実に逃げ切れるので、選択せざるを得ないのもまた事実。
国外逃亡から数か月後。自分はこの世界から旅立った。
正直に言うと、乙女ゲーム系の世界はいい思い出が無い。
思い出すのは嫉妬や嫌がらせを受けた時の事ばかり。比率もこっちが多いからね。王族を始めとした高位貴族も良く思えない。悪印象しか残ってない。だからと言って下位の貴族の方が好印象だったかと言うとそうでもない。何とも難しい。
では、乙女ゲーム系以外の作品の世界に転生した時は良かったのかと言うとそうでもない。
そもそも、作品の世界の時点で良い事が無い。
お尋ねの九人のうちの何人かと合流出来れば『多少はマシ』になるが、基本的に良い事はない。
作品の世界の運命(いや宿命か)の力は強い。出会えた事はないが、運命を司る神がいるのではないかと疑うほどに。
運命に干渉できる神がいる世界でも良い事はないが、作品の世界よりはましだ。奇妙な出来事の仕掛人がいる事は分かっているので、こちらから探し出し、(徹底的にボコるか脅迫して)不干渉を誓わせる事は出来る。代わりに厄介な仕事を押し付けられる事があるんだけどね。
自分の場合、記憶を取り戻す過程に問題があるからか、どこの世界に転生してもいい思い出は少ない。
終わらない旅。まだ見ぬ終焉を求めて、どこかの世界にまた転生する。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
菊理が『漫画の世界に転生した』時の設定を回想風に描き出したら、仕上がったのが今回のお話しです。