6. コミュニケーション
ジャン・エリクソン。
ブラッド伯爵の長男であり、このクラスではクラリスに続いて、優秀な成績を誇っている。
エリクソン家とフォード家は同じ伯爵という身分であるか、フォード家のほうが発言権がある。
なんでも魔法の名門であるフォード家は一目置かれる存在らしい。
そのくせ俺はまったく魔法が使えないけどな……。
「心を入れ替えた? 笑わせるな。どうせまた何か企んでるんだろ?」
ジャンが俺を睨みながらいう。
いや、嘘じゃないんだけどな。
さすがに人格が変わったって言っても信じてもらえない気がする。
突拍子もなさすぎるし。
「企む? なんで?」
「最近は大人しくしているようだが、人なんてそんな簡単に変わるもんじゃねぇ。お前のことだ。裏でコソコソ悪巧みでもしてるんだろ」
ジャンが俺を疑うのも尤もだ。
あんなに横暴だった俺がいきなり静かになったんだ。
おかしいと思うのが自然だろう。
わかるよ、君の気持ち。
「どうして黙ってる?」
「いや、なんか俺嫌われてるなって」
今の俺にとっては普通のことをしてるだけなのに、疑われてしまう。
ヘイト溜まりすぎだろ。
疑うなってのも無理な話だけど、本当に何も悪いことしてないからね?
だから嫌いにならないで。
「はっ。何をいまさら。今までの行動を振り返ってみろ。魔法が使えないデブ。名門フォード家の落ちこぼれ。そのくせ態度だけはでかいときた。傲慢で他人を見下してきたお前が嫌われないとでも思ったのか?」
ジャンの言うこと全部正しい。
全くもってそのとおりだ。
何も言い返せん。
だって今までの俺が全部悪いから。
嫌われても当然だと思っている。
にしても入学から三ヶ月でここまで嫌われるのか。
アラン、お前やりすぎだよ。
もうちょっとみんなと仲良くしとけよ。
さすがにこの状況はどうにかしなければ……。
嫌われる続けるのは嫌だし、ボッチに慣れたなんてのは嘘だ。
全然慣れてないし、普通にみんなと話したい。
そのためにも、まずはクラスメイトの評価を改めさせる必要がある。
ちょうどいま俺らの会話をみんなが聞いてるようだから、この機会を使ってアランの評価を上げてしまおう。
「そうだな。お前の言う通りだ。俺は落ちこぼれで態度だけはでかい無能だったよ。他人の話は聞かず、自分の思い通りじゃないと癇癪を起こす。最低最悪のクズだったと思う」
自分が悪いと思ったら、まずは自分の非を認める必要がある。
素直になるって大事だよな。
まあ、他人事だからこんなに言えるんだけどね。
だって、昔のアランと俺はもう別人だし。
「……お前、本当にアランか?」
「それ以外に見えるか?」
「いや、まあうん。そうだよな……。うん」
ジャンが戸惑った顔をする。
ふっふっふ。
スキを見せたな、ジャンよ。
ここで一気に攻め込んでやる!
「今まで迷惑かけてすまん。自分がいかに愚かだったか、最近ようやく気づいたんだ。今後はみんなに迷惑かけないようにする。本当にすまなかった」
謝罪って大事だよな!
「……お前、本当にアランだよな?」
「もちろんだ」
「俺はお前を信用できない。態度が変わりすぎて不気味なんだよ」
まあ、そりゃあそうなるよな。
中身が変わったのなんて、他人から見てわかるはずないし。
さすがにこれだけ態度が変わったら不気味だよな。
「私はいまのアラン良いと思うよ」
「く、クラリス!?」
ジャンが驚いたようにいう。
クラリスまじ天使!
「でもこいつは、あのアランだぞ?」
「昔よりも話しやすくていいんじゃない? 何よりも昨日お世話になったしね」
「……」
ジャンが黙る。
さすがにクラリス相手には何も言えないか。
いやー、にしてもクラリスは本当に良い子だな。
マジ天使。
教室を左から右へとささ~っと見る。
ほとんどがジャンと同じように、俺に疑いの目を向けている。
仕方ないよな。
今までの俺に問題があるんだし。
これからどうにしかしていくしかない。
「みんなからよく思われていないのは理解してる。今までの俺の態度が原因だから、嫌われるのは当然だと思う。でもこれからは態度を改めて真面目に生きていきたいし、みんなとの仲良くなっていきたいと思ってる」
こういうことはちゃんと宣言したほうが良い。
ジャンが釈然としない顔をしている。
ジャンに関わらず、他のクラスメイトも同じような反応だ。
その中でクラリスだけはニコニコしている。
「これからよろしくね、アラン」
「よろしく」
「はい、これ。お礼のクッキー。お近づきの印ってことで」
「ありがとう」
クラリスからクッキーを受け取る。
その瞬間、男子どもに若干殺意ある目で見られた気がする。
こわっ。
まだまだ俺は嫌われ者だけど、これからは地道に良い人アピールして、名誉挽回していこうと思う。
クラスの人気者になろうとは思わないけど、普通にみんなと話せる程度にはなりたいし。
それはそうとして、クラリスのクッキーは美味しかった。
美少女で料理上手とか最高かよ。