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34. ファイア・ボール

「ふむふむ、なるほど。これは発火の魔法陣(イグニッション)だけど、ちょっと変わった作りをしてるね」


 先生が俺の描いた魔法陣を見ながら呟く。


 魔法陣は一から自分で描いたものであるが、かなり正確に描かれていると思う。


 ただし、魔力の伝搬率が低い紙やインクを使って描いたため、魔力を込めたところで魔法は発動しない。


 万が一発火でもしたら危険だからな。


「この魔方陣を上書きする形で他の術式を作りたいんですけど、できますか?」


「上書き? なんでそんなことを……って、まあいっか。発火(イグニッション)だから、できないこもないかな」


「え、ほんとですか?」


「うん。発火って、火系統の術式の中でも基礎となる術式でしょ?」


「はい」


発火の魔法陣(イグニッション)をもとにして、他の魔法陣を構築することもできるってこと。まあ普通の術式と比べたら、ちょっと複雑になるけどね。言ってる意味わかる?」


「なんとくなく……。つまり、発火の魔法陣(イグニッション)で作り出した火を、他の術式で変化させるってことですよね?」


「だいたいそんな感じ。さっきの雑な説明でよくわかったね」


「僕も同じこと考えてたことなので」


 火系統の魔術には、火を発生させる術式が組み込まれている。


 というのも、火魔術は一般的に、火を作り出してから、それを変化させていく術式構成になっているからだ。


 たとえば火球(ファイア・ボール)の展開術式は、火を発生させる術式、火を球状に変える術式、物質を加速させる術式などで構成されている。


 先生が言っていたのは、火を発生させる術式を、発火の魔法陣(イグニッション)で代用しようということだ。


「じゃあ、私が教えることはないね」


「へ? いや待ってください」


「なに?」


「もう少し付き合ってほしいです」


「生徒とそういう関係になるのはちょっと……」


 何言っとんねん、この教師。


 エロゲでもあるまいし……。


 はっ、まさかここはやっぱりエロゲ!?


 ってくだりは、もうそろそろやめよう。


 だって、さすがにエロゲ展開なさすぎるし。


 もしこれがユーザーだったら、「はよ、エロ寄越せ」って怒ってるところだ。


 ここまでエロがないエロゲとか、絶対に需要ないだろうよ。


「ん、わかった」


 先生がちょこんと俺の前に座る。


「で、何がわからないの?」


 おお、意外といい先生やん。


 休日も生徒のために頑張る教師か……。


 え、ブラック企業かな?


 まあ俺が頼んだんだけどね。


発火の魔法陣(イグニッション)を術式の一部にすることはわかりました。でも、そこから他の術式とどう組み合わせていくかとか、そもそも他の術式にはどんなのがあるかとか……ぶっちゃけ魔法陣の作成に関して、まったくわからないって感じです」


「そりゃあ、そうだよ。魔法陣の作成は一年生の範囲を超えてるんだし。なんなら三年生でもできない人が大半だからね」


 魔法陣は単純に術式が組み合わせればいいわけではない。


 ノイズや熱対策のために配置をしっかり考える必要があるし、安全性にも気を配らなければならない。


 術式が誤作動して大事件を起こした例も少なくない。


 そのため、ちゃんと魔術師として働きたければ、魔術師ライセンスを取得する必要がある。


「そういえば先生はライセンス持ってるんですか?」


「魔術師ライセンスのこと?」


「はい」


「持ってるよ。一応一級をね」


「え? すごっ」


 さらっととんでもないこと言うな、この人。


 魔術師ライセンスは三級からあるが、その三級の取得でさえかなり難しいと言われている。


 学園の生徒も卒業までに三級を取れる人はほとんどいないらしい。


 一級ともなると、国内に100人もいないんじゃないか?


 まあ正確な数なんて知らんけど。


「どう? 見直した?」


「はい。逆にそれだけ凄いのに、なんで詠唱学の先生なんてやってるんですか?」


「え、だって魔術教えるの面倒じゃん。教わる気のない子たちに教えるとか、絶対にイヤ」


 あ~、なるほど。


 それなら納得だ。


 この魔法学園、国内では一、二を争う名門校らしいけど、それでも魔術に対する関心は薄い。


「じゃあ僕に教えてくれるのは、どうしてですか?」


「学びたい生徒を教え導くのが、教師の務めなんじゃない?」


 この人、良い先生やん。


 昔の俺(アラン)がこの人から無視されてたのは、何も学ぼうとしなかったからなんだろうな。


 いまの俺とは、かなり相性が良い気がする。


「それにアランくんって興味深いんだよね。色々と観察のしがいがある」


 ん、どういうこと?


 俺を観察したところで何も出てこないよ?


◇ ◇ ◇


 あの後、先生と一緒に発火の魔法陣を改造し、火球の魔法陣(ファイア・ボール)を完成させた。


 ついでに色々といじって、火を球以外の形にも変えられるようにしてある。


 まあ、ほとんど先生がやっくれたんだけど。


 でも、魔法陣についての理解がかなり深まって良かった。


 アランの頭が優秀で助かったわ。


 次からは自分一人でもなんとかできるかも……って、それはうぬぼれ過ぎか。


火球の魔法陣(ファイア・ボール)を作ったはいいけど、このあとどうすればいいんだ?」


 作成した魔法陣を魔法領域に入れる必要がある。


 でも、魔法陣への入れ方なんて知らんよ?


「あっ、いいこと思いついた」


 俺は『ゼロから始める無詠唱魔法』の魔法陣が描かれたページを開く。


「これを使えばいいんだ」


 ここに描かれた魔法陣は2つの術式で構成されている。


 発火の術式と、魔法領域に魔法陣を刻み込む術式だ。


 発火の術式に修正を加え、火球の術式に変えちゃえばいいんだ。


 というわけで、さっそく魔法陣を描き始める。


 本の上に描くのはいけないから、魔力伝導率が高い紙――魔法紙を用意し、インクも伝導率が高いものを使う。


 そして魔法陣を描くこと数時間――。


「よし、できた。これでいけるはず」


 魔法陣に手を添える。


 そして魔力を流してみた。


 直後、魔法陣が赤く光る。


「――――」


 次の瞬間、ぐるんぐるんと目が回るような感覚に襲われる。


 この気持ち悪さは前に経験したものと似ている。


 だが、前のときよりも早く不快感がなくなった。


「でき……たのか?」


 魔法領域に意識を集中させてみる。


「え、できてる」


 頭の中に火球の魔法陣がインプットされていた。


 すげぇ。


 俺、新しい魔法覚えちゃったよ。


 この調子で魔法陣をバンバン頭の中に入れちゃえば、色んな魔法使えるようになるんじゃね?


 あ、でもさすがにメモリ不足になるかもな。


 詠唱魔法も覚えられる数が決まっていると聞くし。


 まあ、なんにしても良かった。


 これで俺は発火(イグニッション)以外も使えるようになったわけだし。


 さっそく試してみるか……。


◇ ◇ ◇


 それから数時間後。


 火球を使って遊んでたら、誤って公園にあった木を燃やしてしまった。


 オリヴィアに呼び出された俺は、日本の伝統である土下座をした。


 変な目で見られたが、俺の必死さが伝わったのか、なんとか許してもらえた。


 やはり土下座は最高の謝り方である。

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