29. ジャン、風紀委員辞めるってよ
俺たちは風紀委員の部屋に戻ってきた。
ジャンは本当に辞めてしまうようだ。
「困ったな」
オリヴィアが呟く。
それに同意するように俺も頷く。
「はい。困りましたね」
困った。
非常に困ったぞ。
ジャンがいなくなったら、俺の仕事量が増えそう。
いやまだ仕事してないんだけどさ。
「まさかあいつがあそこまで強情だとは……。普段はもっと順従なやつなのに」
オリヴィアがジャンを引き止めたが、ジャンは辞めると言って頑なに聞かなかった。
俺からすればいつもどおりのジャンにみえたが、オリヴィアからすれば違ったらしい。
もしかして俺のせい?
もしかしなくても俺のせいだよな。
ここは責任転嫁しとこう。
「勝負をそそのかしたオリヴィアさんが悪いですね」
うん。
悪いのはオリヴィアであって俺じゃないよね。
上司ってのは責任を持ってこそ上司だと思う。
だから俺は一生上司になりたくない。
「とどめを刺したのはお前だろう」
いや知らんがな。
俺だってあんな威力出るとは思わんかったし。
てか、魔力回路開き過ぎでしょ。
魔法陣もよくあの出力に耐えられたな。
まあ俺の使う魔法陣は特殊だからだろうけど。
「大丈夫です。アランくんは悪くありません」
え、天使かな?
ミーアありがとう。
とりあえず頭なでなでしとくか。
あ、しまった。
反射的に手が動いてしまった!?
悪いのは俺の手であって、俺ではないぞ。
まったく……部下を切り捨てるなんて、悪い上司だな。
でも責任転嫁って大事。
ミーアが嬉しそうに目を細めた。
あっ、怒ってないらしい。
なら問題ないか。
「そういうのは他所でやってくれ」
オリヴィアに怒られてしまった。
だから悪いのは手なんだけどなー。
俺に言われても困るよ。
手の責任なんだし。
まあ俺は偉いから、ちゃんと謝罪しておくけど。
「すみません」
「私はもっとやってくれてもいいですよ?」
「え、じゃあ――」
「本気で怒るぞ? アラン」
「すみません。冗談です」
てか、なんで俺だけ怒られるの?
いや、別にいいんだけどさ。
「それでどうするんですか?」
「もう一度ジャンの説得を試みる」
「駄目だった場合は?」
「諦めて他を当たるしかないだろ。来年以降のことを考えると、最低でも二人は一年が欲しい」
そりゃあ、そうなるだろう。
ジャンが辞めたせいで、一年は俺しかいない。
マジかよ、ヤバいじゃん。
これ先輩たちがいなくなったら絶望じゃね?
俺一人で風紀委員やってたらこの学校荒れるよ、絶対。
この際、俺も一緒にやめよっかな。
ジャンが辞めた責任を取って辞職します、みたいな。
おっ、なんか言い訳見つかった気がする。
「私が魔族だから……」
あ、ダメだ。
ミーアが自分を責めるモードに入っちゃった。
最近メンタルが強くなったと思ってたけど、まだまだ弱い部分も残ってるらしい。
「ミーアは悪くない……ていうか、そもそも僕とジャンがうまくいくはずなかったんですよ」
「そうらしいな。……はあ、頭が痛い」
なんかオリヴィア見てると、申し訳なくなってくる。
きっと生徒会ならシャーロットのカリスマ性だけで回るんだろうけど、オリヴィアは良い意味でも悪い意味でもシャーロットほどのカリスマ性はない。
いやオリヴィアもカリスマ性あるんだけどね。
シャーロットが飛び抜けているだけだ。
俺はオリヴィアのほうが親しみやすくて好きだよ?
そんな感じでオリヴィアを見ていると、ミーアがツンツンしてきた。
最近この子、ツンツンしてくることが増えたな。
「なに?」
「……なんでもないです」
ミーアがなぜか不満そうな顔をしている?
なんだったんだ?
まあいいか。
「新しい人材を増やすにしても、一年生から選ぶんですよね?」
「お前が今度も一人でやっていけるというなら、私は別に構わんぞ」
「いや無理です。死んじゃいます」
「だろうな。だが、もう目ぼしいやつは残っていない」
ジャンって意外と優秀だからなー。
伯爵家の長男でもあるし。
正直、ジャンに並ぶくらいの人材なんてほとんどいない。
クラリスも生徒会入っちゃったし。
生徒会と風紀委員の両立ってできないのか?
いや、さすがにオーバーワークだよな。
「あっ」
「なんだ?」
「知り合いに優秀な子がいます」
ジャンと似たような立場で、成績もかなり優秀。
実力も申し分ない人物だ。
「誰だ? クラリスなら生徒会に入ったぞ?」
「知ってます」
「となると、まさか……」
「そのまさかです。うちの妹が余ってますよ」
風紀委員に入る条件は満たしている。
実力はジャンよりも上だし。
ただ一つ、大きな問題を抱えていることを除けば、うってつけ人材だ。
「……妹さんですか?」
ミーアが首をかしげた。
「そっ。妹って言っても同じ学年なんだけどね」
「そうなんですね」
「まあでも、妹は無理ですよね」
妹の社交性は壊滅的だ。
以前の俺のように他人を見下すような性格の悪さはない。
そもそも他人に興味がないのがうちの妹だ。
常に無表情で感情がまったく動かない。
なまじ綺麗な顔をしているため、人形のようにみえてしまう。
「いや、ありかもしれない」
「え? ありですか?」
「仮にも兄だろ? 兄からの説得なら、なんとか応じてくれるんじゃないか?」
「本気でそう思っています? 僕たち全然仲良くないんですけど」
「大丈夫だ。この際、風紀委員で兄弟仲を深めたらどうだ?」
「それは……無理だと思います」
「アランくんならきっとできますよ」
ミーアさん、俺に対して信頼が厚すぎませんか?
俺、できないことのほうが多いよ?
結構ポンコツだからね?
「今後、お前一人でやっていけるというなら私は構わんがな」
「やりますよ、もう」
そんなこと言われたら、頑張るしかない。
ただでさえ風紀委員は忙しそうにしてるのに、一年生が俺一人となると来年が絶望的過ぎる。
ブラック企業も真っ青なくらいな労働になるだろうよ。
はあ……頑張って妹を説得するか。
俺の負担を少しでも減らすために!