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28. 模擬戦

 俺はジャンと向かい合って立っている。


 場所は学園にある訓練場の一つ。


 特殊な壁は術式が施されており、魔法攻撃への耐性があるらしい。


 観客はミーアだけだ。


 次にミーアも戦うから、観客というより選手という感じだ。


 他の風紀委員は仕事があるらしく、ここにはいない。


 ていうか、まだ他の人たちと挨拶すらしていないんだが。


 なんでも今は特に忙しいらしく、挨拶の時間を取れなかったんだとか。


 オリヴィアが人手を欲した理由もわかる。


 まさに猫の手も借りたいくらいだ。


 なんなら、そこらへんにいる猫を捕まえてこようか?


 俺よりは役に立つかもよ?


 ていうか風紀委員で活動するよりも、図書館に行ったり、魔法の訓練したりしたい。


 あっ、でも魔法の訓練はオリヴィアがやってくれるらしい。


 それは実際、かなりありがたい。


 学園において最強の一角でもあるオリヴィアから直に訓練を受けられるのは、願ってもない機会だ。


 訓練は相当厳しいらしいから、ぜひ手加減して欲しい。


「俺はお前が風紀委員にいることは認めていない」


 ジャンが俺を強く睨みながらいってくる。


「うん、わかってるよ」


 さっきからそれ、めちゃくちゃ言ってくるもんな。


 もう耳にタコができるくらい聞いたわ。


 あとジャンが俺を嫌いなことも知っている。


 教室ではいつも睨んでくるし。


 あれかな?


 俺がクラリスと仲良くしてるのが気に入らないのかな?


 大丈夫。


 クラリスとはただのお友達だよ。


「お前はまだいい。仮にもフォード家の三男だからな。だが、人食いは駄目だ」


「なんで?」


「学園の秩序を守るためだ。風紀を乱す存在が風紀委員をやるなど言語道断だろ」


 まあジャンのような考えが一般的だろうな。


「実力があれば問題ないって、オリヴィアさんが言ってなかったっけ?」


「そんなの建前に過ぎん。忠告しておくぞ、アラン。これ以上魔族と親しくするようなら、お前まで白い目で見られるぞ」


 白い目で見られるだって?


 そんなのいまさらだろ。


「ご忠告どうもありがとう。じゃあ俺からも一ついい?」


「なんだ?」


「次にミーアを侮蔑するような発言したら、マジで容赦しないからな?」


 俺の体内からボワッと魔力が流れ出る。


「……ッ」


 ジャンが一歩後ろに引いた。


 しまったな。


 感情的になると、つい制御が効かなくなるんだよな。


 また魔力暴走で死にかけるなんてごめんだ。


 俺たちの言い争いを見ていたオリヴィアが口をはさむ。


「口論はそこまでにしとけ」


「すみません」


「申し訳ありません」


 俺とジャンは同時に謝る。


「では位置に付け」


「はい」


「わかりました」


 俺たちはそれぞれ頷く。


 オリヴィアが右手を上げる。


「それでは、はじめ!」


 開始の合図と同時に、俺は大量の魔力を放出した。


 一度死にかけたおかげで魔力回路がかなり開いている。


 扱える魔力量も格段に増えた。


 三途の川を渡ったかいがある。


 いや、渡ってはいないか。


 ついでに目に魔力を込めておく。


 ジャンが詠唱を唱え始める。


火球(ファイア・ボール)


 ジャンの手前に魔力の塊がみえた。


魔力破壊(ディストラクション)


 俺はジャンの魔力に自身の魔力をぶつけた。


 するとジャンが目を見開く。


「なぜ魔法が発動しない!?」


 簡単なことだ。


 俺の魔力量がジャンの魔力量を上回ったからだ。


 ミーアとの件からヒントを得た技だ。


 魔力をぶつけることで、魔法の発動を阻止することができる。


 単純な原理だ。


 でも、これは俺の魔力量が多いからこそできる芸当だ。


 魔力を無駄遣いするし、スマートさの欠片もない。


 技術を度外視し、力で押し切る戦法だ。


 魔力の消費が大きすぎて、普通の人には無理だろう。


 なお、魔力破壊(デストラクション)という名前は俺が勝手に考えてつけた。


 もちろん詠唱魔法ではない。


 やっぱり詠唱したほうがかっこいいだろ?


「くそっ! 何が起こっている!?」


 ジャンの焦りが手にとるようにわかる。


 だが、冷静になる時間を与えるつもりはない。


 俺は発火(イグニッション)の魔法陣を展開させる。


 発火(イグニッション)は、一見かなり便利な魔法にみえる。


 だが、実はかなりコスパの悪い魔法である。


 魔力の消費量が半端ない。


 同じ魔力量なら、例えば火炎(ファイア)のほうが断然出力が大きい。


 それに距離が遠ければ遠いほどほど、魔力が減衰し、威力が落ちる。


 遠くにいる相手に発火(イグニッション)を使うともなれば、かなりの魔力消費だ。


 さらにいえば、相手が発している魔力のせいで、魔法が発動しない可能性もある。


 俺が発火(イグニッション)を使えているのも、魔力が十分にあるからだ。


 今まではそんなこと知らずに、何気なく使ってたんだけど。


 魔法陣をジャンの手前に展開させる。


 まだジャンは冷静になれていないようだ。


 このスキを逃す気はない。


 動けばタダでは済まんから、くれぐれも動くんじゃねーぞ?


 俺は魔法陣に大量の魔力を込めた。


発火(イグニッション)


 次の瞬間。


――ドゴォォォォォォン!


 え?


 爆発したんだけど……。


 ジャンの手前で火が破裂したようだ。


「……まじかよ」


 やべぇ。


 ちょっと魔力込めすぎたわ。


 やっちまったわ、これ。


 発火(イグニッション)っていうより爆発(エクスプロージョン)になってるじゃん。


 ちょっと力加減間違えちゃったよ、てへ。


 ていうか、魔力回路が開きすぎて手加減できんかったわ。


 ジャンが尻もちをつき、呆然としている。


「馬鹿な……あれが発火(イグニッション)だと……」


 まあ驚くのも無理はないだろう。


 あれはどうみても発火(イグニッション)じゃないからな。


 魔法を使った俺も驚いてるくらいだし。


「え~と……どうする? まだやる? 次はマジで当てるけど」


「くっ……まだだ!」


 なるほどね。


 やる気があるのは良いことだ。


 でも、やる気だけだとどうにもならないこともあるんだよ?


 俺も人のこと言えないけどさ。


 まあ俺は優しいから、もう終わりにしてあげよう。


発火(イグニッション)


 今度はちゃんと魔力を調整し、ジャンの体に当てた。


「ぐああああ!?」


 ジャンの体が燃える。


 この世界にはちゃんと治癒魔法がある。


 だから、多少燃えようがなんとかなるだろう。


 なんか、段々とこの世界に慣れてきてる気がする。


 人を燃やすのにも躊躇なくなってるもん。


 あれ? もしかして俺って、サイコキラー?


 いやいやそんなことはずはない。


 燃やすのは手段であって目的ではないし。


「そこまで! 勝者アラン!」


 オリヴィアが宣言した。


 いや~、危なげなく勝てたな。


 やっぱ俺ってかなりのチートじゃね?


 魔力量だけで圧倒的なのに、初級魔法とはいえ無詠唱で発火(イグニッション)を使える。


 ごめん、ジャンよ。


 お前が弱かったんじゃない。


 俺が強すぎただけだ。


 ドヤッ!


 とまあ調子に乗るのは良くないな。


 上には上がいるし。


 その後、ジャンはミーアとも勝負し、見事に敗北した。


 そして勝負に負けたジャンは、最初に宣言した通り、風紀委員を辞めてしまった。

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