23. ギャルゲー?
ミーアの唇が俺の額から離れる。
そしてミーアの暴走止まっていた。
なるほど。
よくわからんけど、キスが暴走を止める手段だったってことか。
やっぱりこれギャルゲー?
キスによって力が左右されるとか、まさにギャルゲーじゃね?
ミーアの見た目は幼いけど、年上だからアウトじゃないと思う。
あっ、でも前世のこと考えれば、俺のほうが全然年上だ。
なんにしろ神様よ。
俺をギャルゲー世界に転生させてくれてありがとう。
いやでもあれか。
額にキスって親愛の証とかでもありそう。
ギャルゲーと思うのは時期尚早かもしれない。
それよりも最後の仕上げと行きますか。
力の暴走は止まったが、ミーアの腹にはいまだ短剣がぶっささっている。
いまなら取れそうな気がする。
俺は短剣の柄を持って、思いっきり引っ張った。
両腕に魔力を集中させる。
そして、
「うおわっ」
思った以上に簡単に、短剣がスッポ抜けた。
その勢いで、俺は仰向けに倒れる。
引き抜いた短剣は、ボロボロと形を崩れていった。
ふぅ、これで一段落だな。
と思ったが――
「ぐぅ……ッ……」
体が熱い。
全身が異様なほどに気怠い。
頭がガンガンする。
気持ち悪い。
全身の細胞が悲鳴を上げている。
血管がはち切れそうな勢いで膨張する。
魔力回路が断ち切れているかもしれない。
あんだけ無茶したから当然か。
もっと魔力コントロールがうまければ、こんなことにならなかった。
まだまだ修行不足だ。
魔力不足により、強烈な乾きを覚えた。
酸素を思いっきり吸い込むが、
「ゲホ、ゲホ……」
呼吸がうまくできない。
ダメだ。
これガチでやばいやつ。
「アランくん!?」
ミーアの悲壮な声が響く。
もう魔力が残ってないはずなのに、内側から次々と魔力が溢れていく。
命が削られていく感じがする。
俺、このままだと死ぬよね?
え? 嫌だよ。
「ッ……」
あ~、ダメだ。
もう意識保ってるのがやっとだ。
俺、もう死ぬかも……。
「お願い! 死なないでください! アランくん!」
やめて、ミーア。
そのセリフは死亡フラグだから。
次回、アラン、死す。
みたいなタイトルが思い浮かんでくる。
「気をしっかり保て。馬鹿者」
誰だ?
こんなときに俺を馬鹿者扱いするのは……。
ってオリヴィアじゃん。
「無茶をしやがる。私がいなければお前、死んでたぞ?」
そういいながら、オリヴィアは俺の頬に触れた。
すると、体がスーッと冷えて楽になった。
そして、
「もう大丈夫だ。安心して寝ろ」
オリヴィアがそういった瞬間、俺の意識は糸が切れたようにプツンと切れた。
◇ ◇ ◇
――面白いですね。
黒ローブの女が口の端を歪ませた。
「アラン・フォードですか」
実験は想像していたような成果を得ることができなかった。
しかし、それも実験結果の一つである。
それよりも彼女はアラン・フォードという人物に興味を抱いた。
「フォード家の落ちこぼれとは……いやはや噂とは大概信用ならないものですね」
女は研究の失敗よりも、アランへの興味が上回っていた。
そもそも実験の失敗の原因も大方予想がついている。
ミーアの憎悪が想定よりも小さかったせいだ。
あるいは、憎しみとは別の強い感情に支配された可能性だ。
感情という不特定要素を実験に織り込んでいたため、想定通りにいかない可能性も考慮していた。
まさか、こんなにあっけなく問題が解決するとは、彼女も思っていなかったが。
感情ではなく憎しみを増幅させるような術式であれば、今回の実験は違う結果になっていただろう。
しかしそれは呪術の分野だ。
彼女は魔法使いであって、呪術師ではない。
その方面に詳しくないのも無理はなかった。
過ぎたことは仕方ない、と彼女は割り切る。
そんなことよりも――
「彼のあの魔力量と精神性は非常に興味深いです」
尋常でない魔力量は、人間の限界を確実に超えている。
どうしたらそこまでの魔力量を内包し、出力することができたのか。
彼女の疑問はつきない。
「本当にお面白いものが見られました。新しい研究対象ができて私は嬉しいですよ」
この後、アランが無詠唱魔法を使えると知った彼女は、アランに並々ならぬ執着を抱くようになる。