表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/35

19. 憎しみ

 古い記憶。


 ミーアの隣には父がいる。


 ミーアは二人に連れられて町を歩く。


「仲良しさんですね」


 近所のおばちゃんがミーアたちに笑いかける。


「ははっ。僕の大切な娘です。可愛いでしょ」


 父が笑う。


 嬉しそうな笑顔だ。


 楽しかった。


 父といる時間が幸せだった。


 なのに……ぐにゃり。


 突然、視界が潰れる。


「なあミーア」


 そして次の瞬間、父の歪んだ顔がみえた。


「お前なんて生まれて来なければよかった」


 そこに優しかった父の面影はない。


「なんで……」


――なんでそんなこと言うの?


「お前のせいで僕の人生は台無しだ」


「違う」


「お前がいたから母さんは死んだ。全部、お前が壊したんだ」


「違う!」


 ミーアは父から逃げた。


◇ ◇ ◇


 気がつくと、ミーアは女子寮の前に来ていた。


「うわっ、魔族の子よ」


「穢らわしい」


 見慣れたはずの視線がミーアに突き刺さる。


――なんで私だけこんな目に遭うの?


 みんな毎日楽しく学園生活を送っている。


 友人がいて、家族に愛されて、何不自由なく生きている。


 それなのにミーアだけが不幸だった。


 魔族の血を引くというだけで、ミーアは差別される。


「気味が悪いわね」


 聞き慣れた言葉がミーアの耳に届く。


「こっち見てきた。なにあの目。やっぱり卑しい魔族だわ」


 赤い目が忌み嫌われている。


 ずっとそうだった。


 幼いからずっとミーアの居場所はなかった。


 誰も手を差し伸べてくれなかった。


 石を投げられて、白い目で見られて、暴言を浴びせられて。


 それでもミーアは耐えてきた。


 自分が耐えれば、すべてが丸く収まると思った。


 だが限界だった。


――だって、こんなにも世界は不公平で……醜いんだから。もう我慢する必要なんてないよね?


 心の奥底から憎悪が溢れ出す。


「みんな死ねばいいんですよ」


 ミーアの体から大量の魔力が流れ出た。


 そして――


「――風の暴走(トルネイド)


 次の瞬間、彼女を中心として、荒く激しい風が吹き始めた。


 まるで何もかもを拒絶するかのように……。


◇ ◇ ◇


 黒いフードを被った(・・)が、遠くからこっそりとミーアの様子を伺っている。


 認識阻害を使って性別の誤認させるのは、彼女の常套手段だ。


 そうすることで、自分の正体がよりバレにくくなる。


 女はミーアが殺意と暴風を撒き散らす様子を冷静な目で観察していた。


「魔族とは本当に穢らわしい存在ですね。ですが良い実験体でもあります」


 ミーアに刺した短剣には、精神と魔法領域の両方に影響を与える特殊な術式が施されていた。


 簡単にいえば、感情と魔力を暴走させる術式だ。


 一般的に負の感情が強いほど、魔法のコントロールが効きにくくなると言われている。


 ミーアは今まで差別されて生きてきた。


 蓄積されてきた負の感情は相当なものだろう、と女は考えていた。


 短剣に組み込まれた術式によって、感情が暴走し、魔力暴走を起こす。


 彼女の目論見通り、ミーアの力は解放された。


「すでに暴走状態に達しています……が、まだまだ足りません。彼女ならもう1段階解放できるはずです」


 女の目的は、魔法道具(マジックアイテム)の効果を測ること。


 心を操り、魔力を暴走させ、意のままに操れる兵隊を作ることが、この実験の最終目標である。


 ただし、あくまでもそれは実験の目標であって彼女の目的は別にある。


 と、それはさておき。


 実験体として、ミーアのような少女は最適であった。


 豊富な魔力量に魔族としての壊れにくい体。


 魔力量や耐久力などを測るのに、魔族ほどちょうど良い素材はない。


 しかし、推定していたほどの暴走に達していないことが気がかりであった。


「予想の範囲内ではありますが……やはり少ないですね」


 誤差というよりは何かしらの原因があるとみるべきだろう。


 ただそれでも、今のミーアを止められる人物は学園にはほとんどいない。


 相当な被害が出るだろう、と女は見込んでいる。


 実験に犠牲はつきものと考えている彼女からすれば、多少(・・・)被害が出たところで全く気にしない。


 それよりも研究が進むことのほうがよっぽど重要であった。


 そんな彼女の視線の先で、ふとミーアの動きが止まる。


「ん、どうしました?」


 すでにミーアの力は暴走している。


 発現している魔力量から推定すると、すでにミーアが自我を失っていてもおかしくない。


 何もかもを破壊するだけの道具へと変貌しているはずだ。


 だからこそ「止まる」という行動に違和感を覚えた。


 女はミーアの視線の先を見る。


 そこには――


「アラン・フォードですか」


 茶髪の小太りな少年がミーアを見つめて佇んでいた。


「所詮、フォード家の落ちこぼれ。大したことないでしょう」


 すでに短剣の術式は起動している。


 暴走が止まるまで短剣は引き抜けないようにできている。


 そして短剣が引き抜けるときは術者が死んだ時。


 そもそも風の暴走(トルネイド)はかなり強力な魔法である。


 無能と呼ばれるアランでは近づくことさえ無理だろう。


 女はミーアとアランの行方を冷徹な目で見つめていた。


◇ ◇ ◇


 ふふふんふふん。


 スキップ、スキップ、ランランラン。


 今からエロゲーのイベンドが待ってるなんて最高だな。


 期待に胸が膨らむぜ。


 ようやく俺にも春が来たってことか。


 ここまでの道のりは長かった。


 デブに転生(憑依?)して、周りから白い目を向けられながら、必死に頑張ってきた。


 俺、頑張ったんだんよ。


 だから、報われてもいいはずだ。


 エロゲ主人公ルート突っ走るぜ!


 心臓がバクバク言い始める。


 俺の第六感(シックス・センス)が今から起こることを告げているようだ。


 フハハハは!


 今からゆくぞ、このアラン・フォード様が!


 待っておれよ、エロゲイベント!


「ん? なんか悲鳴が聞こえてくるんだけど」


 まさか、ハードなエロゲだった?


 俺、そういうのあんまり好きじゃないんだよね。


 てか、女子寮の様子おかしくね?


 びゅんびゅんと風が吹いてるし。


 ちょっと嫌な予感がしてきた。


 女子寮にたどり着く。


「マジか……。なんか知らんけど、ヤバいことになってる」


 女の子たちがバッタバッタ倒れてた。


 あ~、なるほどね。


 そういうことね。


 うん。


 事情はわからんけど、これだけは理解できる。


 エロゲイベントじゃないわ、これ。


 俺の期待を返してくれ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ