表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/35

18. 復讐

 ミーアは浮かれていた。


 アランと別れたミーアは女子寮に向かって歩く。


 彼女は最近の学園生活を楽しいと感じるようになっていた。


 こんなに楽しい時間を過ごすのは初めてだった。


 すべてはアランのおかげ。


 依然として周りから疎まれるミーアだが、アランが側にいてくれるだけで心強かった。


 アランに迷惑をかけてるかもしれないと思う一方、彼と過ごす時間を失いたくないと考えていた。


「こんにちは」


 夜の暗闇の中、突如、ミーアは後ろから声をかけられる。


 振り返るとそこには、黒いローブを着た男が立っていた。


 フードで顔を隠している。


 ミーアはフードの中の男の顔を見ようとするが、うまく認識(・・・)できない。


「そんなに警戒してないでください。あなたと仲良くしにきただけですよ」


 ミーアは聞き覚えのある声だと思った。


 だが思い出せない。


「認識阻害を使ってる相手に警戒しないほうが無理だと思います」


 おそらくローブに認識阻害の術式が組み込まれているのだろう。


 男の顔を認識できないようになっている。


 そもそもフード付きの黒いローブで顔を隠している男など、誰がみても怪しさ満点だ。


「それもそうですね」


「なにか用ですか?」


 ミーアはいつでも逃げられるように体制を整える。


「復讐したくありませんか?」


 復讐。


 それはかつてのミーアが望んでいたことだ。


 ミーアを化け物と罵ってくる父や祖父。


 暴言を浴びせてくる学園の生徒たち。


 見て見ぬふりをしていた人たちも同罪だ。


 誰も助けてはくれなかった。


 憎いと思った。


 彼女は何度も復讐を考えてきた。


 そのたびに思いとどまれたのは、母の影響が大きい。


 彼女の母は最期まで強く、凛々しく、そして優しい人だった。


 そんな母がいたからこそ、ミーアは本物の化け物にならずにすんだ。


 そして今の彼女にはアランがいる。


「……復讐などしたくありません。そんなこと今はもう望んでいません」


 この世界は彼女に優しくない。


 それはずっと昔からわかっていたことだ。


 それでもミーアは復讐する気にはなれなかった。


 大事なものがあるから。


今は(・・・)、ですか。それでは思い出させてあげましょう」


 男の口の端を吊り上げ、ミーアに近づく。


 ミーアは男への警戒を強め、牽制する。


「来ないでください。それ以上近づいたら容赦しません」


「わかりました。私(・・)もうこれ以上近づきません」


 男の言葉に引っかかりを感じる。


 しかし、次の瞬間――彼女は別のことで意識を奪われる。


「……ッ」


 へその上に強烈な違和感を覚えた。


――熱い。


 直後、腹が燃えるように熱を帯びた。


 ミーアは自分の腹の確認すると、短剣が突き刺さっていた。


「いつの間に……」


 男がいつの間にか短剣を投擲していたのだ。


「っ……!?」


 刺された箇所が疼く。


 傷口から何かがミーアの体に入り込んできた。


 ――なんですか。この、気持ちが悪いものは……。


 体に虫が入り込んできたような、そんな不快感を抱く。


 ミーアはとっさにナイフを引き抜こうとする。


「……抜けない」


 だが、ナイフを抜こうにも力が入らなかった。


「どうですか? 復讐する気になりましたか?」


「そんなこと私は――」


――望んでいない。


 そう言おうとしたが、声に出せなかかった。


 吐息が漏れる。


「くぅ……」


 ミーアの意識が混濁していく。


――憎い。


 頭の中で誰かがそう囁いた。


 過去が光景が脳裏によみがえる。


――殺してやる。


 ミーアの奥底に沈殿していた感情が溢れ出す。


 殺意が芽生えてくる。


――なんで私だけこんな目に遭うの?


 今までずっと虐げられてきた。


 魔族であるという、ただそれだけの理由で。


 復讐したいと思った。


 蓋をしていた感情が(せき)を切ったように流れ出す。


――憎い、殺したい、憎い、殺したい、憎い、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい。


「殺してやる。全部。私の手で――」


 彼女の赤い瞳が暗闇の中で爛々と光る。


◇ ◇ ◇


 ~アラン視点~


 今日も俺、頑張ったな!


 やっぱ運動って気持ちいいわ。


 魔法の訓練を運動というのかはわからんけど。


 まあでも汗かくし、運動のようなもんだろ。


 お腹の脂肪もだいぶなくなってきた気がする。


 これも全部ミーアのおかげだな。


 強化術の訓練は、魔力の出しすぎて最悪死ぬこともあるらしいし。


 教えてくれる人がいないとかなり危険なんだと。


 強化術の授業が二年生からなのも、魔力操作に慣れてない段階だと危ないからだ。


 たぶん俺ミーアに出会わなかったら自力で頑張って自信あるわ。


 あぶねぇ。


 ミーアさまさまだぜ。


「あっ、そういえばブレスレット、ミーアに返してなかったな……。これミーアの大切なものなんだよな」


 母親の形見なのに、俺の腕が太いせいで完全に形が変化しちゃってる。


 いやマジですまん。


 今度デラックスランチ奢ってあげるから、許してほしい。


 返すのは明日でも良さそうな気がするけど。


「今日中に返すべきだよなぁ……」


 こういうのはなるべく早く返したほうが良いと思っている。


 友達から借りたものって、その日に返さないと忘れちゃうんだよね。


 10年以上借りパクしてた、なんてこともよくある。


 それに相手の大事なものなら、なおさら早く返す必要があるしな。


 なくしたら取り返しがつかない。


「ミーアは今頃、女子寮かな?」


 なんか夜の女子寮ってドキドキする。


 今から何かが起こりそうな予感がしてきた。


 まさか女の子とのイベントとか!?


 俺はまだこの世界がギャルゲーである可能性を信じている。


 なんならエロゲーでも良い。


 いや、むしろエロゲーが良い!


 なんかテンション上がってきた!


 待ってろよ、俺のエロゲーイベント!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ