10. グエッ
――私は化け物だ。
ミーア・ミネルヴァは自分のことが嫌いだった。
赤い瞳とそれを隠すように伸びた白髪。
そして成長が遅い体。
彼女の母親は魔族であり、彼女自身も魔族の特徴を持って生まれた。
この国では、魔族は忌み嫌らわれている。
そのせいで幼い頃から疎まれ、虐待を受けてきた。
自分の居場所などどこにもなかった。
「化け物め。お前のせいですべてが台無しだ」
父親にそう言われたのを覚えている。
「生かしてやってるだけありがたいと思え」
祖父にそう罵られたことを覚えている。
守ってくれる存在などいなかった。
唯一自分を愛してくれた母もいなくなってしまった。
どこに行っても疎まれる存在。
それがミーアだった。
魔法学園に入学したからも状況は変わらなかった。
敵意を向けられ、侮辱され、疎まれ、蔑まれる。
家にいたときと変わらない。
ただ暴力がない分だけ家よりもマシだったかもしれない。
その程度の話だ。
他人の目から隠れるように学園生活を過ごしていた。
誰の目にも止まらないように自分の存在を消す。
ミーアが一番落ち着ける場所は木の上だった。
魔族の性なのか、木の上は彼女の心を安らげた。
それに木の上なら誰にも見つかる心配はない。
風が心地よい。
ささーっと葉が揺れる音がする。
唯一安らげるときを過ごしていた。
しかし、そんなときだ。
「ここには誰もいないようだな」
茶髪の小太りな少年が木の下で腰を下ろした。
ミーアは自分の大事な時間を奪われたような気がして、嫌な気がした。
少年に見つからないよう息を潜めた。
◇ ◇ ◇
~アラン視点~
最近、学校では前のように避けられなくなってきた。
まだ俺に対して不信感を抱いてるクラスメイトも多いが、良い傾向だと思っている。
ただジャンとは全然仲良くできる気がしない。
あいつ俺を目の敵にしてるし。
まあでもボッチを避けられたから良しとしよう。
クラリスとも仲良くなれたしな!
と言いたいところなんだけど、昼食はまだボッチのままだ。
クラリスと仲良くなったけど、彼女は他の子達と一緒に食べている。
クラリスに一緒に食べないかと誘われたけど、女子の集団に混ぜてもらうのは気まずい。
他に一緒にご飯を食べる仲の人はいない。
「もしかして俺ってまだボッチだった?」
驚愕の事実に気がついてしまった。
俺、ボッチ脱却できてないじゃん。
まじか、凹むわ。
ということで、俺はひとり飯ができる場所を探すため校庭を歩いている。
この学園は広い。
というか広すぎる。
学園全体で一つの島になっている。
さらに全寮制の学園のため、全生徒が暮らせるように小さな町が出来上がっている。
学園街ってやつだ。
校舎もかなりの大きさだ。
お金かけてるな~っと思う。
まあ魔法使いはほとんどが貴族だし、このくらい当然なんだろうけど。
広い校舎を散策する。
初めて歩く場所もあり、新鮮だった。
こうして歩いているのも、いつもボッチ飯に使用してる場所をカップルに占領されたせいだ。
忌々しいやつらめ。
なにが「あ〜ん」だ、この野郎。
イチャイチャを見せつけられた俺は燃やしてやろうかと思った。
「リア充め、爆発しろ」
マジで爆発させられるからな?
発火使ったろか?
髪の毛爆発させてチリチリにしてやろか?
もちろん、そんなことはしなかったけど。
そういう経緯もあり、ボッチ飯の場所を探していた。
すると、ちょうどいい場所を発見した。
人気がない場所に大きな木が一本立っている。
「ここピクニックっぽくていいな」
人気のない静かな場所か。
こういうところ女の子と二人だったら楽しいんだろうな。
制服デートとか憧れるし。
校舎裏ってなんかそそられるよな。
色々と妄想が広がる。
だめだ。
さっき見たカップルのせいで変なこと考えてしまう。
やっぱあいつら燃やしとけば良かった。
次カップル見つけたら髪の毛チリチリにしとこ。
木の近くまで来てから、周りをぐるっと見渡す。
「ここには誰もいないようだな」
わざわざこんな人気のないところに来るなんて、俺のようなボッチくらいだろう。
もしもこんなところに来るようなやつがいたら、そいつもきっとボッチだ。
友達になれる自信がある。
ボッチ同士仲良くやっていきたい。
「ぐうぅぅぅ」
俺の腹が飯を食わせろと主張してきた。
「よっこらせっ」とおじさんっぽい声を出しながら座る。
そして食堂で買った弁当を開ける。
野菜ばっかりだ。
野菜、野菜、野菜、野菜、野菜、野菜、野菜、野菜。
なんて健康的なんだ!
もちろん野菜だけではない。
ちゃんと肉もある。
鶏肉だけどな!
あと魚!
アランは脂っこいものばっかり食べてから太ったのだ。
食べるものを変えてダイエットするぞ!
ちなみに無理に食べる量を減らすの良くないらしい。
リバウンドしやすいという話だ。
前世で仕入れたダイエット知識をもとに、ヘルシーな弁当を買うようにしている。
「ぐうううう」
また腹の音が……ってあれ?
今のって俺の腹から?
違うところから聞こえた気がする。
気の所為か?
「ぐぅぅぅぅぅぅ」
……どうやら気の所為じゃないらしい。
真上から聞こえてきたような……ん?
「は?」
白髪の少女が木の上に座っている。
赤い目が特徴的な少女だ。
え、あの子なにしてんの?
「あうぅぅぅぅ」
少女が恥ずかしそうな声をだす。
よくわからんけど、大丈夫?
「あの~」
そう声をかけると、彼女の肩がビクッと動き――
「……えっ?」
空から少女が落ちてきた。
これが巷で言われるボーイ・ミーツ・ガールってやつか?
――ドスン。
「グエっ」
少女の体を受け止めた俺は喉から蛙が潰れたような音が漏らした。