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2月26日 0日 ――誕生日 その2

「う……」

 私の意識は覚醒と半覚醒の間を、記憶と現在を彷徨います。

 目の前に、いつもの、見なければいけないものを隠していた時のような心のヴェールとは違う、本当の膜が張られていました。

 私の下半身で何が起きているのか、どうしても分からなくて、痛みを感じない筈なのにズキズキとお腹が痛くて。

 そして、気が付いたらベッドに一人、寝かされていました。

 全てが終わったんだと気付いた瞬間に、嵐がやってきました。

 怒涛のような、不快感。

 私の軽いヴェールなどとうに吹き飛ばしてしまい、ごうごうと嵐は私の中で暴れます。

 全身が気持ち悪くて、身動きをとろうと思っても、そう思うだけで全身が捩れるほどの不快感が襲ってきます。

 ……ごめん。

 ……ごめんなさい。

 嵐の中、私はずっと謝っていました。

 聖良さんに、凪さんに……お腹の中の、子供に。

 抱き締めてあげることも叶わないまま、手術で除去されてしまったその子に。

 産んであげられなくて、ごめんなさい。

 生かせてあげられなくて、ごめんなさい。

 形作ってあげられなくて。

 崩してしまって……

 お腹の中の子供は、元気で育っているものだと思っていました。

 産まれてくることを信じて疑いませんでした。

 それなのに……それなのに。

 私が、いけなかったのです。


 気付いてしまいました。

 あの時、『子宮』から落ちた時。

 研究棟の女性の胎内ダンジョンを彷徨っている時から。

 私は子供よりも聖良さんのことを大切に感じていたのだと。

 ……お茶を、入れてくれたから?

 ……匂いを感じたから?

 どのような理由でも、同じです。

 いくら言葉を飾っても、変わりません。

 私が、子供より聖良さんの方を向いてしまったから。

 子供が教えてくれたものを、聖良さんに向けてしまったから。

 だから、私の子供は死んでしまったのです……


 ――急いで、こちらも開腹手術へ!


 嵐の中で、声が聞こえました。

 どこか熱い興奮を抑えている、凪さんの声です。


 ――大丈夫。産まれてくる“A”を迎えてあげましょう。

 ――そう。ヒルコじゃない。

 ――もうU―2保全シップじゃない。NICU(新生児特定集中治療室)に!


 ……産まれる?

 ああ、聖良さんの子供が。

 聖良さんたちは、無事だったのですね。

 ほっとして全身から力が抜ける中、気になる単語がいくつかひっかかりました。

 ……うーつーほぜんシップ?

 次第に、私は嵐の中。

 吹き飛ばされ、やがて吹き寄せられて集まってたくさんのヴェールに囲まれていました。

 私を取り囲むヴェールの正体は、今まで読んだ、本のページ。


 光の君が姫君を求め彷徨い。

 許されざる家柄の恋人同士が死んで。

 蛆の湧いた恋人に追いかけられた男が逃げ。

 踊り子が生首に口づけします。

 手足のない産まれた子供を、葦の船で流し――


 あ。

 その光景が、どこかに引っかかりました。

 ヒルコ。

 産まれた、ヒルコは、うーつーほぜんシップへ……

 葦船……うつほ船で、流して……


 あ。

 ああ、あ。

 何かが頭の片隅を過ぎりました。

 いつもなら、ヴェールの向こうで気が付かない、気が付いても放っておく、何か。

 だけど今は、それを抱きしめて、ぎゅうっと抱きしめて。

 ぐるぐると、思考を開始します。

 ぐるぐると。

 ぐるぐるぐるぐるぐるぐる……


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