8月20日 2ヶ月 その4
先程の現ちゃんの勢いには少し驚かされましたが、どうやら現ちゃんと凪さんのお二人は、何故か妙に相性がいいようです。
それにしても、お腹の大きな男女……外見的にはどう見ても大人の女性と子供……が手を取り合っているのは、なんとゆうか不思議に圧倒される光景です。
「まあ、うちでは基本的に帝王切開なんだけど……一応、気持ち的に」
「分かります分かります! だから――お願いがあります」
その手をぎゅっと握りしめ、現ちゃんは本題に入りました。
「なあに?」
「ボクの子供に、会わせてください!」
「子供……」
凪さんの目がすうと細められました。
今までくっきりと見えていた凪さんの感情が、ふいに切断されたかのように。
「そういえば貴女は去年出産した受胎者16号」
「現です。子供に会うために、再びここに妊娠しに来たんです」
「会うために……」
凪さんは表情を引き締めると、現さんの手をそっと外して立ち上がりました。
「そちらの職員から聞いてると思うけど、出産後、受胎者は自らが出産した子供とは会えないわよ」
「どうして!? 母親なら、子供に会いたいと思うのは当然でしょー?」
「……こちらの子供は、昨年10月出産されたそうです」
応援するでもなく淡々と、せーらさんが口を挟みました。
「10月……受胎者16号」
凪さんがふと目を細めました。
何かを思い出そうとするように。
「……そしたら、U―1保育シップね」
「そこにいるの!?」
現さんは意気込んで身を乗り出します。
が、おや?
第三者である聖良さんが、その言葉にあからさまにほっとしたような表情を見せているではありませんか。
「あの……」
思わず声をかけようとしたその時です。
凪さんがにこりと笑うと、現さんに身を寄せました。
その瞳を覗き込むように、出来る限り距離を縮めて。
「何故、会いたいと思うのかしら?」
「理由なんてないよ。きっと……ボクは、その子を、愛してるから」
「愛してる……」
凪さんは目を見開きました。
そして肩を震わせます。
まるで、笑っているかのように。
いえ、うふふとほくそ笑む声が風のように耳に入って来ます。
「ところで、ご存知ですか? この施設で、ひとりの受胎者が生んだ子供の最大数は3人なのです」
ふいと現さんから身を離すと、凪さんは歌うように説明を始めました。
「知ってます。資料にありました」
「いい子ねえ。そんな16……現さんにチャンスをあげましょうか」
「くれるの!?」
「4人」
凪さんは長い指を4本立てました。
「現さんは今、二人目のお子さんを妊娠中ね。あと2人……全部で4人の子供を産んだらその時に、全ての子供を会わせてあげましょう」
「あと2人…… 全部で、4人」
「不満?」
「……ううん! 本当だよね! 4人産んだら、会わせてくれるんだよね!」
「勿論」
「やったぁ!」
凪さんから引き出したその約束に、現ちゃんはぴょんぴょんと跳ねました。
いえ、お腹の子を気遣ってか、気持ちだけで跳んでいます。
ああ、良かったです。
ついに、現ちゃんの目的は達成したのですから。
あれ、ですが、そうすると。
この探検も、終了……?
突然訪れた幕引きに、しかもほとんど自分は何もできないまま終わってしまうこの現実に、唐突な置いてけぼり感が否めません。
心の中で、今まさにぼろぼろと穴が開いていくような。
……いえ、そんなネガティブな事を考えてはいけません。
嬉しいことなのですから、喜んでさしあげなければ。
心の中に湧いた感情、寂しさを覆い隠すようにヴェールをいっぱいに張り巡らせ、些細な感情を隙間から零してしまいます。




