番外編 リュシアンとチョコレート④ (リュシアンside)
不意打ちのキスにアーデが真っ赤な顔をして出て行った後で。
ズボンの左右のポケット、上着の左右のポケットそして内ポケットから出した紙を灰皿の上に乗せ、ネザリアから僕に贈られた魔道具でボッと火をつけた。
『マカロン』『クッキー』『ケーキ』『パイ』『キャンディー』と思いつく限りの菓子が書かれた紙は、あっという間に燃え上がって白い灰と化していく。
アーデは僕の言葉を中々信じてくれない。
タイミングなんて関係ない。
僕はアーデが僕の事を思って時間を割いてくれたこと、それ自体がいつだって本当に嬉しいというのに。
いつになったらこの思いが届くだろう。
自分としては、彼女に会った時よりもずっと大人になったつもりではあるのだけれど。
年の差の様に埋まらないこの思いがもどかしい。
少し感傷的に浸ってみた後でそうだったと思い出し、この国を攻め落とす為戦略を書き込んだ地図を隠しポケットから取り出した。
改めて冷静に眺めて見て、更なる詰めは必要だが割合良い線を行くのではないかと自画自賛した後、魔具を使って先ほどの菓子を書いた紙と同様に火をつけた。
イライアスは天性の人たらしだった。
彼が城に滞在している間、普段は冷静な侍女や従者達が彼に魅せられ彼の関心を引く為、彼の気持ちを察し我先に自ら率先して様々なものを彼に差し出していた。
その姿ははっきり言って異常だったが、イライアスからすれば生まれた時からそれが普通だったのだろう。
彼は何の疑いも、さしたる感動も無く、さも当然のようにそれを享受していた。
僕は生憎魔術には詳しくない為正確な所は分からないが、確かイライアスの母の家系は強い魔力を有する魔女の家系だ。
もしかしたらイライアスには生まれながらに魅了の魔法の様なものがかかっているのかもしれない。
イライアスは遊学と称してこちらに滞在していたが、その真の目的はアーデを懐柔し自らの後ろ盾に引き込もうと思ってのことだったのだろう。
イライアスの母国であるネザリアの王都は一見華やかだが、古参の貴族の中にはゼイムスの治世に不満を持つ者も多いと聞いている。
実際、先日僕の元にもクーデターを起こそうと画策している辺境領主から助力を乞う使節が内密に送られてきたばかりだ。
イライアス様は恐らく辺境領主と我が国が結託して戦になる前に何とかしないと、と一人勝手に焦れているのだろう。
一方でイライアスの父であり君主のゼイムスは『こんな国、滅ぶなら滅んでしまえばいい』という破滅主義者だ。
もし戦になれば、ゼイムスは『死なば諸共』とばかりにジワジワこちらの戦意と戦力を削る消耗戦を仕掛けてくるに違いない。
イライアスが何かしなくても、元々そんな国と戦うなんて御免だ。
割に合わなさすぎる。
狩でうっかり従者達とはぐれた風を装って、二人きりになったタイミングでイライアスに
「アーデやこの国ではなく、僕個人につけ」
そう言ってやった。
「そうすれば僕の母国とこの国両サイドに接触してきた不穏分子の情報をやるし、もしアーデが僕を捨てる時が来るならこの国を滅ぼして国土の一部をお前にやる」
木立の中見えた鹿に狙いを定め弓を引き絞ったまま
「どうだ? 悪い話ではないだろう?」
そう言いながら『うっかり』イライアスの方を振り返り嗤えば、イライアスは僕が想像していた通り一瞬顔を青ざめさせたが、しかし意外な事にすぐ腹を抱える様にして笑い出しながら
「いいでしょう。貴方個人につきますよ」
そう即答した。
親子そろって破滅主義者なのだろうか。
本来ならそんな不確定要素をはらむ酔狂なヤツと組むなんて御免だが……背に腹は代えられない。
イライアスを改めてうっとおしく思った時だった。
「そのかわり、僕と友達になってください」
イライアスが更に予想の斜め上を行く事を言いだした。
余りに悪趣味な提案に、思わず学生だった頃のように繕う事も忘れ盛大に顔を引きつらせれば
「そうだ! 来年の夏には今度は貴方がボクの国に友人として滞在しに来てください」
イライアスはそんな追い討ちまでかけてきた。
「ボクずっと兄弟が欲しかったんです。でも父も母も『兄弟など煩わしいだけだ』と言ってその願いだけは叶えてくれなかったんです」
イライアスのそんな言葉を聞いて、久しぶりに自国の弟の顔を薄ぼんやり思い出した。
そして
「嬉しいな、兄のような友人が出来て」
そんなイライアスの呑気そうな声を聞いて、破滅主義だろうが何だろうがゼイムスの方がよっぽど友人になれそうだと酷い頭痛を覚えた。
「来年の夏いらして下さると約束して下さるまでボク、帰りませんよ?」
アーデの前でそう脅されて。
頭痛を堪えながら渋々頷いた事で、煩わしいばかりだったイライアスの長い滞在がようやく終わった。
翌年、渋々夏にネザリアを訪れた際、宰相から
「貴方のせいでイライアス様の女性に対する愛情表現が歪んだんですけど??」
と、トンデモない言いがかりをつけられるのだが……。
まぁそれはまた別の話だ。
リュシアンがキーキー言う話のハズが、リュシアンがシャーシャー言う話になってしまいましたが、最後まで読んで下さって本当にありがとうございました。
またネタが降りて来たタイミングで番外編を追加出来たらいいなと思っています(そのうち以前リクエストいただいていた陛下御懐妊のお話も書きたい)ので、もしよろしければブックマーク残しておいて気長に待ってていていただけると嬉しいです。
イライアスsideのお話は『悪役令嬢は壁になりたい』に番外編として書きたいなと思っています。
少しお待たせしてしまうかもしれませんので、もしよろしければブックマークなど挟んでおいて更新した際に通知が行くようにしておいていただけるととってもありがたいです(*´ω`*)




