愛が重かった故、断罪されました
気が付いたら、ある乙女ゲームの悪役令嬢に転生していました。
赤毛縦ロールに、猫の様に少し吊り上がった紅茶色の瞳が愛らしい侯爵令嬢です。
ネット小説のテンプレのような展開に、もっと捻りは無いのかと思わないでもなかったですが……なってしまったものはしかたないですね。
転生する直前、事故に遭う瞬間の記憶も在るには在るのですが、テンプレ部分の回想は皆さん似たりよったりかと思うので思い切ってカットしたいと思います。
ちなみに私、特にこのゲームに思い入れはなく、特に推しと言えるほどの存在はいませんでした。
(ホント、なのに何で転生先がこのゲームだったのでしょう。どうせなら獣人の国でモフモフする別のゲームの方に転生したかったです)
なので、子どもの頃からの婚約者であった、このゲームの攻略対象である見目麗しい王太子のリュシアン様を、誠実に愛したつもりだったのですが……。
何故か疎まれてテンプレ通り卒業パーティーにて婚約破棄されてしまいました。
くぅ!
何故だ?!
ヒロインに奪われないようあんなに頑張ったのにぃぃ。
これがゲームの強制力というやつでしょうか??
そう嘆いていたら、親切にもリュシアン様が私の悪かったところを手短に教えてくれました。
何でも、
①勘違い、思い込みが激しいところ
②常に思考の中心が『リュシアン様』と愛が重いところ
③経済政策や福祉面等、統治の仕方に口を挟むところ
④リュシアン様のファッションやお金の使い方、食生活等、私生活に口を挟むところ
⑤頼まれてもいないのに勝手に手作りのお菓子を作ってきたり、勝手にメイド達では手を出せない散らかった資料整理をしたりと世話を焼き過ぎるところ
⑤季節の折り目ごとにリュシアン様とお付き合いのある方にお手紙や贈り物を妻気取りでするところ
等々が許せなかったらしいです。
言われてみれば、心当たりしかありません。
「でも、リュシアン様のことを思って……」
そう反論すれば、
「だからそこが重いんだよ!!」
と、一刀両断されてしまいました。
そうですか、重かったですか……。
『もっと、リュシアン様のその想いに気づけていれば……』
そんな風に反省していたら、新たなリュシアン様の婚約者となったこのゲームのヒロインちゃんを虐めた濡れ衣を着せられ修道院送りになってしまいました。
もちろん無罪を主張しましたが、既に根回しは済んでいたのでしょう。
私の声が通ることはありませんでした。
侯爵令嬢である私をただの心変わりで婚約者から降ろすことは出来ない為、何かしらの理由が必要だったのだと思われます。
幸い実家へのお咎めはないようでしたし、
『それでリュシアン様が本当に愛する方と結ばれて幸せになれるのなら……』
とも思ったので、言われるがまま王都を去る事にしました。
これから向かう修道院は随分鄙びた所にあるのだとか。
ただの侯爵令嬢には田舎暮らしはきつかったかもしれませんが、こちとら日本のド田舎でワイルドに育った元転生者です。
新天地でもまぁ、楽しくやって行けるでしょう。
王都を去るついでに、リュシアン様への思慕も綺麗さっぱり忘れることにしました。
愛は重めかもしれませんが、切り替えが早いところが私の良いトコロと言われています。
そんな事を考えていたら、深い森の中で、修道院に向かっているはずの馬車が急に止まりました。
休憩かな?
呑気にそんなことを思ったその時です。
剣を持った騎士が急に押し入って来ました。
……そうですか。
ゲームのシナリオにははっきり書かれていなかったけれど、ここで暗殺されるんですか。
今回の人生は前世よりも更に短かったですね。
余りのショッキングな出来事に、どこかぼんやりした気持ちでそんな事を想いながら刀身がこちらに向くのをスローモーションで見ていた時でした。
別の騎士がその騎士の襟首を引っ掴んで後ろに思い切り引き倒しました。
「貴様! 裏切るのか!! 約束された地位も褒賞も全てふいになるのだぞ?!」
私を襲った騎士が、馬車から転げ落ち、尻餅をつきながらそんな慌てふためいた声を出します。
しかし、私を助けてくれた騎士は落ち着いた声で
「オレは利益じゃ動かねーよ」
そう言うと、こんな緊迫した状況の中なのに、ニヤッと大胆不敵に笑って見せました。
剣での打ち合いが少し続いた後、勝てないと悟ったのであろう私に剣を向けた騎士は、何やら捨て台詞を吐きながら御者と一緒にどこかに逃げ去って行きました。
私を助けてくれたのは、無精ひげにややルーズに制服を着崩したジャンという三十前の騎士でした。
髪の色は麦の穂を思わせる少しくすんだ金髪で、その少し濃い蒼い瞳は秋晴れの空を思わせます。
ジャンは少し癖のある前髪が長く、無精ひげのせいで一見くたびれたオッサン風に見えますが、鬱陶しそうに前髪をかき上げたその横顔は、実は綺麗に整っていることが分かりました。
「怪我はないか?」
そう言ってジャンがニカッと豪快に歯を見せて笑いながらその大きくゴツゴツした手を差し伸べて下さったその時、私は私の思考の中心が『リュシアン様』から『ジャン様』に変わってしまった事に気づきました。
「はい、助けて下さってありがとうございます。このご恩は一生忘れません」
そう言って、私は物凄い事に気づきます。
「一生ご恩を忘れない=一生尽くす=結婚ですよね? ジャン様、私が貴方の事を必ず幸せにして見せます。だから私と結婚してください!!」
突然のプロポーズだったにも関わらず、キラキラ目を輝かせる私に向かいジャン様は慌てた様子も見せず爽やかに言い切りました。
「結婚? あー、それは無理だな!」
その代わりジャン様は、私を襲った騎士と共に逃げ出してしまった御者に代わり手綱を取ると、私をちゃんと修道院まで送り届けて下さいました。
ジャン様は、私が送られる修道院がある領地を治める子爵家の御子息でもありました。
私を助けた事で、中央から睨まれたジャン様は何だかんだ理由をこじつけられ騎士の任を解かれてしまったのですが、本人は
「どの道、近いうちに騎士を辞めて領地を継ぐ予定だったから関係ないさ」
と全く気にした素振りも見せず、気さくに私の様子を心配して孤児院を兼ねた修道院を訪れて下さいます。
無精ひげを生やしたまま、騎士服を脱ぎ農民と変わらない服装をしたジャン様はとても貴族には見えませんでした。
でもその飾り気のない笑顔こそが素敵で、私は会う度会う度
「しばしば私の事を気にしてこちらを訪れて下さる=デートを重ねている=結婚ですね! ジャン様、貴方の事は生涯私が全力で守ります、だから私と結婚してください!! そして、子ども達の住居区部分の雨漏りやら隙間風やらを防ぎたいので孤児院への支援額をもっと増やして下さい!!」
とプロポーズするのですが、ジャン様はその逆プロポーズと孤児院へのさらなる資金援助を
「コレはデートじゃなくてただの慰問だ。結婚? あー、それは無理だな!」
と、人好きのする笑顔でサラッと断りました。
その代わり、ジャン様は自ら道具を用意すると、騎士団で培われた機能なのか貴族の子息とは思えない程の手際の良さで雨漏りと隙間風の修繕をして下さったのでした。
読んでくださり本当にありがとうございました。
連続投稿予定で、日曜日までには完結させたいと思っています。
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悪役令嬢物、ムーンの方でも書いて沢山の方に評価していただけたので、勇気をいただき憧れだった『なろう』の方にも挑戦しにやってきました。
これからどうぞよろしくお願いいたします。