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3分読み切り短編集

激闘!アンデッド氷柱ちゃん!

作者: 庵アルス

 空は久しぶりの快晴、眼下は一面の雪化粧。

 決戦の地は我が家のベランダ。

 僕の装備はコートに防水手袋、そして妻から託された神の槍(グングニル)

 相手は、雪国が生んだ、忌まわしき不滅の魔物。




 それは僕と妻の茶番から始まった。

「ダーリン! 討伐クエストを依頼します!」

「なんだってハニー、僕を指名するってことは、相手はかなり骨のあるやつなんだろうな?」

「骨はありません!」

「おっと、ナメクジなら勘弁してくれよ、僕はアイツだけはゴメンだね」

「ダーリン、外をご覧なさい、一面の雪景色じゃない。ナメクジなんか凍ってるわ」

「はっはっは、それもそうだな」

「相手は氷のゾンビよ」

「⋯⋯え、なんて?」

 なんのことか全くわからなかった僕は、茶番モードを止めた。

 けれど、妻は妙にノリノリで続けている。

「神ノ(グングニル)をダーリンに託すわ」

「え?」

 そう言って渡されたのは、身の丈ほどもある凶器。

 ⋯⋯ではなく、『雪庇(せっぴ)落とし』という、ホームセンターでも買える道具なのだが、知らずに見ると武器にも見える。

 金属製の長い柄の先端に、これまた金属製の板が付いている。この板は鋸のようにギザギザしており、その名の通り雪庇を削ったり叩いたりして落とす為の道具だ。

 雪庇とは、屋根に振り積もった雪が迫り出した状態をいう。しかし単なる雪ではない。屋内の熱や雪自身の重みで溶け、再び凍って分厚くなる。

 これが人に落ちようものなら無事では済まない。だから落雪の前に、人の手で落とすのだ。

 しかしこの雪庇、寒い時期には絶え間なく発生する。落とせど落とせど復活する。何度だって僕たちの前に現れる。




「まるでゾンビだよなぁ」

 ガツガツと雪庇を鋸状の歯で叩きながら言ちる。

「氷のゾンビ?」

 換気のため、ベランダを少し開けていたので、妻の茶々が入る。彼女は身重なので、暖かい部屋で安静にしながら、万が一の事故に備えて見張りをしている。

「なんか面白い名前ない?」

「雪庇の?」

「うん、討伐クエストなんだし、やりがいありそうな名前ない?」

「槍だけに?」

「槍だけに」

 実際、雪庇落としの使い方は槍と似ている気がする。氷の塊に刃を突き刺し、振りかぶり、薙ぎ払う(と言っても、槍を使ったことはないのだが)。

「氷の壁とかは?」

 律儀に妻が提案する。

「弾幕系シューティングのボスみたい」

「じゃあ氷の牙と書いてアイスファング」

「お、同名の武器を落としそう」

「アンデッド氷柱(つらら)ちゃん」

「中ボスっぽい」

 ちょうど、グングニルの一撃が決まり、雪庇が砕けてゴトンと落ちる。

 妻が拍手した。僕は雪庇落としを掲げ、英雄よろしく室内に凱旋を遂げた。




 それから一週間と経たずして、妻が言った。

「討伐クエストを依頼します!」

 ベランダを見れば、数日の雪によって、白く、厚く、固くなって蘇ったアンデッド氷柱ちゃんか、僕を嘲笑うかのように待っているのだった。

2021/01/11

アンデッド氷柱ちゃんは調子がいいと一日で復活します(実体験)。

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