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第8話 ヒロタカ

 登校した途端に早退させられる。実質欠席。

 莉都子が帰宅すると、出勤直前の母親が玄関で待っていて、迎え入れてくれた。


「お母さん、仕事に行ってくるけど、無理せず寝てるのよ?お昼用意してないから、カップ麺かなにか食べてて。」

「はい。行ってらっしゃい。」


 そうして母親は入れ違いで出掛けていった。莉都子は玄関の戸締まりをして自室に上がる。


「なんでこんなことになっちゃったんだろ……。」


(迷惑だなんて思ってないのに。寧ろこっちが迷惑かけてるのにね。)


 部屋着に着替えて、ベッドに横たわる。スマホを手に取り、ヒロタカの動画を見る。


「ヒロタカさん……。どんな人なんだろ。もっと色んな歌が聞きたいな。トークとかも聞きたい。声が聞きたい。顔も見たい……。」


 何度も聞いているヒロタカの歌。櫻田宏孝に似た声で、ちょっと掠れた囁き声なんかはゾクゾクしてしまう。


(ん?)


 動画の音を聴きながらうとうとしていた。一瞬、なんだか変な既視感が莉都子の脳裏を過った。


(なんだか、この息遣いというか、ブレスの時のしゃくり方が、どこかで聞いたことがある気がする。)


 つい最近聞いた男子の声と言えば、暁翔しか居ない。


(………。いや、ないない。サクラダのモノマネをしてるんだから……。サクラダの出てるアニメかなにかで聞いたに違いない。)


『ヒロタカさんの声が大好き。ヒロタカさんの声をもっと聞きたいです。今日はちょっと落ち込むことがあったけど、ヒロタカさんの声を聞いて元気出したいです。』


 ヒロタカのチャンネルのコメントに書き込んだ。動画はたまにしかアップされないから、ちょっとでも早く次の配信があれば良いなと思った。


◆◇◆


 夕方、帰宅した暁翔はすぐに自室に上がった。


(リッコ!)


 鞄を床に置くと窓に駆け寄る。カーテンと窓を開けて、莉都子の部屋の窓を窺う。


(うーん、窓際には居なさそうだ。寝てるのか、リビングに居るのか。)


 莉都子の様子がわからないので、制服から着替えて、日課の動画サイトのチェックをする。


「んー?コメント増えてる。Rit.さんって前も書き込んでくれてたな。」


(声を聞きたい。なるほど、サクラダに似せてるから?歌じゃなくても良いのか?)


 暁翔はいささか不満に思いつつも、俺の声で元気になってくれるならと、いつもはやらないトークだけの短い動画を撮ることにした。


 ーーいつも応援してくれている皆さんへ


『こんにちは。ヒロタカです。今日はいつもと違う配信です。歌はまだ出来てなくて、ほんの数分の短いトークなんですが、よろしくお願いします。』


 手持ち無沙汰なので、いつものギターは抱えている。BGM代わりにちょっとしたコードを弾いてみたりしている。


『僕、このチャンネルのコメントをほぼ毎日チェックしてます。はは。訪問者も多くはないし、コメント無い日の方が多いんですけど、それでも皆さんのコメントで励まされてます。本当にありがとうございます。』


 暁翔は最近のコメントをいくつか読んで、それぞれのアカウントに感想とお礼を言う。


『Rit.さん、コメントありがとうございます。僕の声でちょっとでも元気出てくれたら良いなと思って、トークだけの配信をしようと思いました。』


『僕もちょっと落ち込んでて。どうしたらいいかわからなくて。でも、できることをやっていくしかないから。』


『そうだな、こう、なにか前向きで楽しいことを考えられたら良いなって思います。例えば、なにか好きなものってないですか?美味しいケーキが食べたいなとか。』


『自分の好きなものでも良いし、僕の場合は好きな人のを考えたりします。好きな人が美味しそうにケーキ食べたりするところが見たいなって。へにゃってなってかわいいです。想像したら、僕もにやけてきちゃいますね。顔が映らなくて良かった!多分めちゃくちゃ恥ずかしい顔してます、今。』


『Rit.さんも元気出ますように。皆さんも。また次回の配信でお会いしましょう!不定期だけどね。今後ともよろしくお願いします!』


◆◇◆


 その日の夜、ヒロタカの動画を見た莉都子は驚いた。まさか、ヒロタカが自分に向けてメッセージを送ってくるとは思っても見なかったからだ。


「ひ、ヒロタカが動画で私のコトを喋ってる!!」


 ヒロタカの声はサクラダに似ている。トークで全部を似せるのが難しいのか、時々、ヒロタカの地声になっているみたいだが、それでも、高音になって、鼻にかかったりするところとか、サクラダっぽいところがある。


(好きな人か……。ヒロタカさんの好きな人ってどんな人なんだろうなぁ。かわいい人なんだろうね。……私の好きな人はアキトだけど、ふにゃっとするところとか想像できない。)


 無理やり想像してみたら、おかしくって、声を上げて笑った。


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