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第6話 球技大会(の練習)

 再来週の球技大会に向けて、学活の時間に練習することになった。


(運動、苦手なんだよね。それも球技が一番悲惨だってのに。やりたい人だけ参加で良いのになー。)


 球技が苦手な人は大体ドッチボールに追いやられる。それこそボールを取れない投げれないなのだから、逃げるしかなくて、とてつもなくつまらないのに。


(アキトは野球かな?)


 暁翔は子供の頃は野球少年だった。なぜか理由はしらないが、途中で辞めてしまった。野球は好きなはずで、今回の球技大会でも野球のメンバーになっている。

 練習場所は運動場。運動場の半分で野球、残りの半分でバレーボールとドッチボール。

 ドッチボールに練習もクソもないので、ちょっと遊んだらそのまま、ドッチボールのメンバーはコートから追い出されてしまった。仕方がないので皆で校舎へ向かって歩いていた。


「危ない!!」


 莉都子の耳にそんな声が聞こえた瞬間、頭にガツンと鈍い音が響いて、そのまま意識が飛んだ。


◆◇◆


 ーーリッコ、リッコ!


(誰かが私を呼んでいる?)


 ーーゴメン!痛かっただろ?もう野球はやらないから!ゴメン!


(なんで?痛い?何が??)


 莉都子の側頭部がズキンと痛んだ。


「痛い………。」

「井口!?」


 莉都子がぼんやりうっすら目を開けると、誰かが顔を覗き込んでいた。


「痛いよぅ……。よく見えない……。誰??」

「井口!」


 莉都子は意識がはっきりしないまま、余りの痛さなのか、涙を溢していた。ふにゃふにゃとなんだかわからない泣き声を上げている。

 保健の先生が莉都子の様子を見に来て、これはダメだ、と救急車で病院に運ぶことになった。


◆◇◆


 頭を冷やされ、CTやらなんやら検査をされているうちに、意識がはっきりしてきた。

 仕事を早退して帰ってきたらしい母親が傍に付いている。


「大きなタンコブだけど、特に異常がないみたいで良かったわ。にしても、アンタ、どんくさいわね。」

「後ろには目が付いてないんだもん、避けられないよ。」

「そりゃそうだけど、ねぇ。」

「すみません。ぶつけたの、俺なんで……。」

「えっ!?」


 病室の隅に暁翔が居たことに、今、気がついた。


「な、な、なんで?なんでア……せ、瀬上が居るの!?」

「そりゃ、俺の打ったファールボールがお前の頭に当たったからだよ。ずっとふにゃふにゃ言ってるし、目覚めなかったらどうしようかと心配で。」

「わ、わけわかんない。ずっと付いてたの?」

「目覚めるまでは安心できなくて。……ごめん。悪かった。」

「べ、別に、瀬上に謝って貰わなくったって……。」

「打球直撃だったんだぞ。そんなに速い球じゃなかったけど、もし死んだり、何か障害でも残ったらどうしようかって。」

「え、やだ、大袈裟な……。」


 あはは、と力なく笑ってみたけど、静寂な時間が流れる。暁翔の真剣な眼差しが痛い。


「え?そんなに大変なことだったの!?」

「そうだよ。俺……、もう野球やらないって言ったのに。球技大会ですら、こんなことになるなんて。」

「野球やらない……?ん?あれ?なんだったっけ……?」


 朧気に思い出す、暁翔の泣き顔。

 猛烈に頭が締め付けられるような。平衡感覚がなくなる。ベッドが大きく揺さぶられているような感覚に陥る。莉都子は思わず両手で、顔を覆った。


「おい?大丈夫か?」

「あっくんが野球辞めたのって……、私のせい??」


 幼い頃、夏によく着ていたお気に入りの白いワンピース。そのスカートが真っ赤な血で染まるのを見た。

 小学低学年くらいだろうか、瀬上家の家の庭でキャッチボールをしていた。暁翔の投げたボールを取り損ね、顔面直撃。当たり処が悪くて、大量の鼻血を出したのだ。

 痛いのとビックリしたのとで固まっていると、暁翔の方が半狂乱で駆け寄ってきた。取り乱す暁翔を見た莉都子も泣き出して、泣き声の大合唱を聞き付けた暁翔の母親がリビングから飛び出して来て……という記憶を今、思い出した。


「あっくんのせいじゃないよ……。私が下手くそだっただけだもん……。」


 あのお気に入りのワンピース。何処にいったんだろう?って思っていたけれど、きっと血の跡が取れなくて捨てたのだろう。あんなに盛大に鼻血を出したのに、今まで忘れていたなんて。

 それを境に、暁翔と遊ぶ機会も減っていって、運動できない私とじゃつまらないから、嫌われたんだろうなって思ってた。成長するにしたがって出てくる性差もあるし、仕方がないものだって思っていた。


「今日は鼻血も出してないし、大したことないよ。」


 覆っていた両手を外し、笑いかけようとしたところで固まった。暁翔が目を真っ赤にして、今にも涙が零れそうだったから。


「……怖かったんだからな。あの時も、今日も!」


 なんて答えたらいいかわからなくて、あわあわしていたら、母親が割り込んできた。


「はいはーい。盛り上がってるとこ、悪いんだけど、お母さん、ちょっとお医者さんとお話ししてくるからね。入院せずに帰れそうってことで、お父さんが車で迎えに来てくれるから。あっくんも一緒に送ってあげるし、ここで待っててね。」


 パタンとドアが閉まる音が響いた。


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