第3話 写真
暁翔は風呂上がりにリビングにやって来た。麦茶を飲みながらテレビを見始めると、入れ替わりに風呂に入ろうとしている晴留が暁翔に声を掛けた。
「お兄ちゃん、学校で子供の頃の写真を見せるの、流行ってるの?」
「は?そんなことねえよ。」
「ふうん。今日、りっこちゃんがね、子供の頃の写真を友達に見せるんだって言ってたから。」
「へぇ。リッコとその友達だけで見せあってただけなんじゃねえの?」
「そっか……。」
「なんで急にそんなこと言い出すんだよ?」
「りっこちゃん、生徒手帳にお兄ちゃんと写ってる写真を挟んでたんだよ。」
「!!」
暁翔がブハーっと豪快にお茶を吹き出す。
「だ、大丈夫?」
「いや……。鼻に入った。それからなんか拭くもの……。」
ティッシュをバサバサと取り出して、机の上を拭いた。
「晴留、リッコの生徒手帳見たの?」
「ううん。ミノリがりっこちゃんの生徒手帳拾って、戻ってきたりっこちゃんに手渡すときに、『あっくんの写真なんか挟んじゃって!』って言ってたから。生徒手帳に挟むものって言ったら、好きな人の写真よねぇ?と思って聞いたら『違う、友達に見せるためだ』って。」
「へぇ。どんな写真挟んでんだろうな。俺も写ってんだろ?変なヤツじゃなきゃいいんだけど。」
ほら早く風呂入れ、と晴留をリビングから追い出した。また麦茶を注ぎ、テレビを見ながら考える。
写真か……。俺とリッコが一緒に写ってる写真は数枚しかない。多分、幼稚園のときの写真だろうな。あれは二人だけだから。
それにしても、朝のアイツの焦りようったら。最近は近くに寄ることもなかったから、あんなに間近で顔を見るのは久し振りだった。泣きそうな顔してると思ったら、みるみるうちに顔が真っ赤になって。
「かわいかったなぁ……。」
「何か言った?」
「えっ!?いや、なんでもない。」
思わず心の声が漏れてしまった。誰も居ないと思ったのに、母がリビングにやって来た。母は怪訝な顔をしながらソファに座った。
「あ、母さん、子供の頃の写真ってデータあるかな?」
「何よ、急に。」
「ちょっと、授業で写真がいるんだけど、折れたりすると嫌だから、一枚、プリントしようと思って。」
「んー、ちょっと待ってね。」
小さな嘘を吐いてしまった。急に子供の頃の写真なんて不自然すぎるし。
母がリビングの隅にあるパソコンを起動する。CDケースから写真データが入っているCD-Rを取り出して、パソコンで読み出した。
「あー、これかな。後は自分でやって、片付けといてね。」
「ありがとう。」
そしてまた、母はソファに座ってテレビを見出した。
パソコンのフォトビューアーで子供の頃の写真を見る。家族での写真が多いので、晴留や母さんとの写真が多い。たまに井口家と一緒に写ってる写真がある。そのときは大体、俺とリッコと晴留と実乃理の四人だ。
(……あった。これだ。)
はにかんだ笑顔のリッコと俺。ギュっと握った手。
(かわいいな……。今もこうやって手を繋げたらな。)
プリンタに写真用の紙を入れ、プリントアウトした。CD-Rを仕舞い、プリンタとパソコンの電源を落とす。出来た写真を見て、ニヤニヤしてしまう。
「なによ、暁翔。ニヤニヤして気持ち悪いなぁ。」
「な、なんでもない。ほっといて。」
「はいはい。」
「もう上に上がるから。おやすみ。」
「おやすみ。」
暁翔は自室で生徒手帳を出した。さっきの写真を切り取り、生徒手帳に挟む。ちょうど二人の上半身だけになるくらいの大きさだ。
(リッコもコレを挟んでるんだよな。お揃いだと思うと、ちょっと嬉しい。)
もっと気軽に話せたらいいのに。折角同じクラスになったのに、ほとんど話すことはない。リッコは俺のことを時折見ているが、俺が気付くとサッと視線を逸らしてしまう。
(アイツ、よくわからんのだよな。俺のコト、好きなのかな?ってちょっと思う時もあるけど、やたら避けられるし、やっぱり嫌われてるのかな?とか……。)
昨日も窓のカーテンを閉めるときに、ちょっと目が合ったのに。やっぱり一瞬で避けられてしまって。まあ、話すこともないし、仕方がないんだけど。
「はああぁ。どうしたらリッコと仲良くなれるんだろう……。」
暁翔の大きな溜め息が宙に溶けた。
なーんだ、どっちも好きなんじゃん!(笑)
さて、ここからどうやってくっつくのか(笑)