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第2話 妄想と現実

 久々に朝寝坊をした莉都子は、ご飯もそこそこに家を飛び出す。

 色んなことをそこそこにしたお陰でいつもよりも五分程早く家を出た。

 そこまではよかった。学校の通用門の少し前で違和感を感じて、制服の胸ポケットを探る。


(な、ない!生徒手帳!出掛ける前にちゃんと入れたはずなのに!)


 生徒手帳には暁翔と二人で写っている幼稚園の頃の写真が挟んである。幼稚園の制服を着ていて、一緒に手を繋いで登園する途中に撮って貰ったものだ。あの頃は私もアキトも素直で可愛くて、幼稚園でも家でもずっと一緒に仲良く遊んでいたっけ……。いやいや、それより生徒手帳。誰かに見られると困る。当人に見られるなど以ての外だ。

 慌てて踵を返し、来た道を戻る。生徒手帳が落ちていないか、下を見ながら小走りする。


「危ないっ!」

「えっ!?」


 顔を上げると暁翔だった。ぶつかる寸前で暁翔が莉都子の両肩を掴んで止めたのでぶつからずに済んだ。

 莉都子は驚きのあまり、口をパクパクさせてしまう。謝りたいけど声が出ない。生徒手帳を落としたショックもあって切羽詰まって泣きそうなのに、よりによって暁翔がここに居る。


「忘れ物?」

「あ、あの、生徒手帳、落としちゃって。」

「見なかったけどな……。遅刻しないように気をつけて。」

「うん、ありがと。ごめんね。」


 真っ赤になる顔を見せないように俯いたまま、莉都子は暁翔の横をすり抜け、家に向かう。家の近くで妹の実乃理と暁翔の妹の晴留(はる)と出くわした。二人は中一で同じクラスなのだ。


「あ、お姉ちゃん、玄関に生徒手帳落としてたよ。」

「ミノリ!ありがとう!」


 実乃理が生徒手帳を莉都子に差し出す。莉都子が受け取ろうとしたところで、実乃理がスッと手を引いた。


「お姉ちゃん、あっくんの写真なんか挟んじゃって!」

「ちょ!人の手帳の中身を勝手に見るな!」

「りっこちゃん、お兄ちゃんのこと好きなの!?」

「ち、違う、そうじゃない。誤解よ。()()子供の時の写真を見せるって友達と約束したからよ。アキトが写ってるのはたまたまよ。」


 ニヤニヤする実乃理と驚く晴留を前に、莉都子は写真の言い訳をしつつ生徒手帳を奪い返して胸ポケットに入れた。


「じゃあ、先に行くからね!」


 五分早く出たはずが、結局いつもより遅い時間になってしまった。走ったから汗だくで、髪も乱れている。暁翔にぶつかりそうになるし、今日はツイてない。一瞬だけ、暁翔の顔を間近に見れたのは、ちょっとラッキーだったかもしれない。少し低くなった暁翔の囁くような声もまだ耳に残ってる。


『忘れ物?』


 目を閉じて、暁翔が囁く声を思い出す。肩を掴んだ感触を思い出す。驚いたような心配そうな顔で私の顔を見たのを思い出す。


(ちょっと……。いや、かなり……。否、マジ萌えなんですけど……。)


 私がアキトのこと好きって分かってるんだろうか?アキトも私のこと好きだったら良いのに。


「井口、具合悪いのか?」

「え?あ?いえ、大丈夫です。ちょっと暑かっただけで。」

「そうか。シャキッとしろよ?」


 先生に声を掛けられて焦る。莉都子はあははと笑ってごまかしながら、ちらと左の方を見遣る。暁翔がこちらを見ていた。

 暁翔は莉都子をゴミクズを見るような冷めた目で見ていた。莉都子は驚いて視線を前に戻す。もう一度そっと左の方を見たけれど、暁翔はもう何事もなかったように教科書を開いて読んでいた。


(今朝のイベントは私の妄想の産物か?やっぱり現実はコッチよね。私なんてゴミクズも同然だもの。)


 莉都子は、はぁっと小さな溜め息を吐いて、一時限目の準備をした。


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