第16話 謝罪
翌日。
莉都子は朝食の後、自室の机に向かう。昨日、結局手につかなかった宿題の続きをするためだ。
当然乗り気ではないが、やらないと終わらないので仕方がない。まだ、昨日の事が思い出されて悶々とする。
集中、集中と唱えながら英語を片付ける。一時間位経った頃にスマホの通知に気が付いた。
(なんだろ?)
スマホを手に取り通知を見る。なにかメッセージか来ている。
(ヒロタカ……アキトから!?)
『昨日はすまない。悪かった』
『こちらこそごめんなさい』
返信するとまたすぐにメッセージが来た。
『直接謝りたい。どこかで会えないかな?ミスドとかどう?』
『わかった。14時でどうかな?』
『いいよ。それくらいに家の前で待ってる』
今日は昨日のメンバーで宿題をやる予定だったけど、取り止めてもらった。多分、残りの誰かの家で集まるだろう。
(アキトとドーナツ。……何着ていこうか?)
莉都子は普段、女友達としか過ごしていない。きょうだいも妹なので、男子と行動するのに不慣れだ。
服装についてはある意味、女子同士の方が気を遣うというか、見栄を張りたくなるものだ。男子と出掛けるとなれば、どんな服装が良いのだろうか。
莉都子の服の趣味はどちらかというとガーリーではあるが、自分の容姿に自信がなくて、ワードローブは地味でシンプルなものばかり。
ただドーナツを食べるだけだし、本題も謝罪するだけなのだから、きっと小一時間も掛からない。そんなに気合いを入れた服装では浮いてしまうだろう。
(昨日はTシャツにデニムスカートだったし、北陵に行ったときはパーカーとチェックのプリーツスカート。)
うーん、と唸ってベッドの上にクローゼットの中身を並べた。
◆◇◆
「ご、ごめん、待たせちゃった?」
「大丈夫。待ってないから。」
玄関を出たら、暁翔はもうそこに立っていた。
Tシャツに水色のストライプシャツを羽織ってアイボリーのチノハーフパンツを穿いている。
莉都子は白いレースのノースリーブブラウスに黒のハーフパンツの出で立ちだ。
(変じゃないかな?)
莉都子は暁翔の顔色を窺ってみるが、特に表情は変わらず、というか、顔を背けているせいでわからなかった。
幹線道路に向かってしばらく歩く。ロードサイドにファーストフード店がいくつか並んでいて、そのうちのひとつがミスドだ。
親子連れが多くてざわつく店内の奥の席を確保して、ドーナツとドリンクを注文した。二人でそれぞれ会計してトレーを運び、席に着く。
ドーナツと飲み物を前に沈黙が流れる。
「……井口、昨日はゴメン。」
「……ううん、私も何か変な感じになっちゃってゴメン。」
お互い謝ったけど、やっぱり沈黙が流れる。
「あ、あのさ……、俺。気付いてると思うけど……。」
眉間にシワを寄せて、苦悶の表情を浮かべる暁翔。
莉都子は固唾を飲んで、続く言葉を待っている。
(謝罪だけじゃなかったの?お説教されるのか、告白もしてないのにフラれるのか。告白はまさかないよね?)
心臓がバクバクして、冷房が効いているはずの店内が暑く感じる。亜子が言っていたように私の事が好きとかそんなことがあるのか。淡い期待が心臓の鼓動を早くする。
「俺、リッコが好きなんだ………、ずっと前から。」
周りの音が何も聞こえなくなる。鼓動と荒い息の音だけが頭の中に響き、夢か現か、わからなくなる。耳鳴りなのか、盛大な鐘が鳴り響いているような感覚になって、意識が遠退きそうだ。
「リッコ……?」
「……。」
「井口?」
「………えっ?あっ?あの、その。あ、ありがとう。の、喉乾いちゃったなー!」
莉都子は目の前にあるメロンソーダのグラスにストローを刺し、一口飲んだ。
「あ、あの、私も、瀬上のコト、好きです。」
俯きながら、小さく消え入りそうな声でそう告げるのが精一杯だった。
「ふふ、ありがとう。……ドーナツ、食べよっか。」
「うん。」
好きな人の前でドーナツにかぶりつく。なかなかハードルが高い。昨日もクッキーを食べたのに。子供の頃から、一緒におやつもご飯も食べてたし、何なら食べ過ぎてお腹を壊したりするくらい、日常を過ごしてきたのに、急に恥ずかしくなってしまった。
「食べさせてやろうか?」
「ば、ばか!自分で食べれるよ!」
暁翔はさっきまで眉間にシワを寄せて死にそうな顔をしてたくせに、告白してスッキリしたのか晴れ晴れとした表情をしていた。いつもはあまり表情を出さないのに、今はすごく自然に微笑んでいた。




