第15話 未遂
ドアが開いた向こうに、ひまりと亜子がいた。
ベッドのドアに近い方に莉都子が座っていて、こちらを向いて、ドアに背を向けている状態だ。暁翔はその莉都子と向き合っていて、ドアの向こうのひまりとバッチリ目が合ってしまった。
「どうも、お邪魔様……。」
「あ、いや!誤解だ!」
暁翔にしなだれかかっていた莉都子は、その声を聞いてパッと姿勢を正した。
「やっ、あっ、瀬上、ごめんねっ!なんか変な感じになっちゃった。あの、あの、今の忘れてっ!!」
真っ赤になった莉都子が立ち上がって、部屋から出ていった。
「ほんと、邪魔してごめんって。そんな怖い顔で睨まないでよ。」
「いやいや、邪魔して良かったんだよ。いぐっちゃんの性格だったら、あのまま流されてたと思うよー。未遂で良かったね、瀬上。」
ひまりがバツ悪そうに謝った。その後ろで亜子が呆れ顔をしている。
「わ、悪かった。理性が飛びそうになってた。リッコ……井口の様子、見てきて。」
わかった、と亜子が階段を降りていった。残ったひまりが暁翔に問うた。
「瀬上はいぐっちゃんのこと好きなの?」
「……。」
「好きなんだよね……?好きじゃないのにあんなことしたら、私、許さないから。」
「好き、だよ。」
「ほんと、いぐっちゃんに早く言ったげてよ。周りから見てたら丸分かりなのにさ。あの子、自分に自信がないから、あり得ないって思い込んでるんだよ。」
さあ降りようと階段を降り始めたところで、階下から大きな声がした。
「ねぇ!いぐっちゃん、どうしたの!?」
バタバタと音がして、玄関から誰かが出ていった。どうやら莉都子が荷物を持って、家に帰ってしまったようだ。そのあとを亜子が無言で追いかけていった。
リビングに入ると、残された面々が茫然としていた。
「ねぇ、一体どうしたの?」
ひかりがひまりに聞いた。舞と結愛もゲームのコントローラーを握ったまま、様子を窺っている。
「いやー、瀬上がフライングしてね。いぐっちゃん、私達に見られて正気に戻っちゃって、悶絶してるとこなんだよ……。」
「えー!瀬上ー!」
女子達に責められ、恥ずかしくて顔も上げられない。
「いや、ほんと、全面的に俺が悪い。井口に謝っといて欲しい。自分で謝るのが筋なんだろうけど……ちょっと落ち着いた方が良さそうだから。」
「わかった……。今日は急に無理矢理押し掛けたし、ごめんね。」
「また落ち着いたら一緒に宿題しよ?いぐっちゃん、多分、自分では言い出せないから。」
「ああ……。」
女子達はゲーム機を片付け、コップやお皿をお盆に集めた。ごちそうさまでしたとお礼を言って帰っていった。
◆◇◆
(アキトがヒロタカだった!)
その事実だけでも頭が沸騰しそうなのに、流されてあんな状態になってしまって、恥ずかしくて自己嫌悪だ。
櫻田に似た声で耳元で優しく囁かれて。耳から理性が吹っ飛んで、何もかもをアキトに委ねたくなった。耳も唇も胸もお尻も太股も。あの声で囁かれながら、身体中をまさぐられたかった。ぎこちない指が余計にくすぐったくて、下腹部がじゅんと湿るのがわかった。
(私、どんな顔してたんだろ。もうちょっとでキスしそうな距離だった。間近で惚けた顔を見られちゃった。アキトも視線が熱くて、興奮してそうだったけど……。)
自室に戻ってベッドに突っ伏した。莉都子の後を追って、亜子が部屋に入ってきた。
「いぐっちゃん、大丈夫?」
「アコ……。」
「痛いところとかない?酷いことされてない?」
「うん、大丈夫。私の方が悪かったの。変な気持ちになっちゃって。今もまだ、変な感じがする。」
「変な感じ?」
「ちょっとエッチな感じ。……アキトが、瀬上がヒロタカだったの!」
「ええっ!?ヒロタカって、あの動画の?」
「そう。それで、櫻田の真似してって頼んだら、耳元で囁かれて……。そしたら、もう、我慢できなくなって。そのままエッチしてもいいかな、と思えるくらい。」
「ダメだよ!」
「うん。でも、ずっと好きだったアキトがヒロタカで。アキトが私のためだけに囁いてくれて、もう、何も要らないと思えるくらい、何も考えられなくなって。」
「いぐっちゃん。」
亜子に強い調子で名前を呼ばれ、沈黙する。
冷静になって考えてみると、あの場で流されてそんなことになっていたら、とてもじゃないけれど、次はどんな顔をして会えば良いのかがわからない。
(うわぁぁぁぁぁ!)
莉都子は悶絶した。流されなかったけれど、次、暁翔と会ったときにどんな顔をすればよいのか!
「いぐっちゃん??」
「アコぉ!今頃になってめちゃくちゃ恥ずかしくなってきた!!次、アキトと会ったらどうしよう??」
「ど、どうしようったって……。普通にするしかないでしょ?」
「そうなんだけどぉ。」
「心配するな!向こうもおんなじように悶絶してるって。瀬上も同じくらい恥ずかしかっただろうから、おあいこじゃない?寧ろ、いぐっちゃんの可愛い顔見た、ラッキー!くらいかもよ?」
「そ、そんなことある?」
「あるある。好きな子のことは可愛く見えるのだよ。」
「好きな子!?」
「そ。脈ない訳ないじゃん。何でわかんないかなー。」
「そんな訳ナイナイ。」
「ほんと、いっぺん告白してみ?うまく行くと思うから。」
莉都子が落ち着いた頃に残りのメンバーも莉都子の部屋に戻ってきた。斯々然々、事の顛末を悶絶しながら話すと、告白の結果を楽しみにしてるねー!と、皆、ニヤニヤしながら帰っていった。




