第14話 宿題
結局、宿題を持っているのは莉都子だけなので、なし崩し的にゲーム大会になった。
最初の何回かは持ち主の暁翔が参加していたが、あとはご自由に、とコントローラーを近くにいた亜子に渡した。
「井口、宿題、どこまで進んでるんだ?」
「え?えっと、国語と英語が全然で。数学は半分くらい。理科と社会は終わったよ。」
「ふうん、俺も似たもんかな。理科と社会は終わってるけど、国語が半分、数学と英語が数ページ。」
「……。」
「で、どれやる?」
「ええっと、じゃあ、英語?」
「わかった。英語な。」
テレビの前の皆を尻目に、二人でテーブルの上にテキストを広げる。単語のスペルを気にしながら、設問に答えていく。お互いにわからない単語を質問しながら、順調に問題を解いていった。
「……ちょっと。辞書取ってくるから、待ってて。」
暁翔が莉都子に小声で囁いて、そっと立ち上がった。宿題のテキストだけで、辞書は持ってきていない。
「じゃ、私も……。」
「いや、晴留のを借りてくるから、いいよ、座ってて。」
そう言って静かにリビングから出ていって数分。暁翔はなかなか戻ってこない。莉都子の家の間取りとそう違いはなく、特別広い家でもないのに。気になって、莉都子も様子を見に行くことにした。
久しぶりの瀬上家。二階に上がるのも何年振りだろう。階段を上がってすぐの部屋。莉都子の部屋の向かいになる部屋だ。
「瀬上……?」
部屋のドアをかすかにノックした。返事がなくて、ちょっと待ったけど、気配がない。
「トイレかな?……さすがにトイレまで確認できないな。」
ノックしたドアは少し開いていて、中の光が漏れ出ている。
(アキトの部屋……。気になる!)
好きな人の部屋が気にならない訳がない。が、見られたら嫌な物もあるかもしれないし……と、莉都子は少し躊躇したが、好奇心には逆らえなかった。
(ごめん、アキト!)
ドアを少し押し開けて、部屋の中を覗く。
「えっ!?」
驚いてパタンとドアを閉じた。最近見た部屋だ。
(ちょっと待って?この部屋、ヒロタカの部屋とソックリ。オーソドックスなベッドと壁とクローゼットだけど、全く一緒になることってあるかな?)
顔は映っていない動画。少し幼い感じがする腕、ハスキーな声。
「う、嘘……。」
混乱して、そこから立ち去らないと!と思ったときには背後に誰か居て、両肩を捕まれた。
「ひゃっ!!」
「井口、どうした?」
「あ、うん、降りてこないから、部屋にいるのかな?と思って。」
「……中に入る?」
「え、あの、良いの?」
「……別に。」
暁翔は莉都子の背後に立ったままドアノブに手を掛けて、ドアを開けた。
「どうぞ。」
「あ、うん……。あっくんの部屋、久しぶりだね。おもちゃがなくなって、ちょっと寂しいな……。」
「そう?」
「うん……。」
促されてベッドに腰掛けた。昔はベッドの上に寝転がって怒られたくらい、全く気にならなかったのが、物凄くドキドキして、口から心臓が出そうだ。暑くないはずなのに、額に汗が浮かんでくる。
ギシッと音を立てて、暁翔が莉都子の隣に腰を下ろした。
「あっくん……?あの?」
「リッコ。」
このまま押し倒されるんじゃないかとドキドキしすぎて泣きそうだ。
「あっくん、やだ、怖い……。」
「!?ご、ごめん、そういうんじゃないから。襲ったりしないから。」
そう言って暁翔は莉都子から少し離れたところに座り直した。
「リッコ、最近見てる動画チャンネルあるだろ?」
「……それが?」
「この部屋、見たことあるんじゃない?」
「ど、どうかな。よくある配置だよね。」
「このギター、見たことあるんじゃない?」
暁翔はベッドの下から黒いエレキギターを取り出し、膝の上に乗せた。
「ね、Rit.さん。」
「やっぱり、あっくんがヒロタカなの?」
「そう。まさか、リッコがこんなに早く見つけてくれるって思ってなかったけど。」
暁翔は、莉都子が櫻田宏孝が好きだということを聞いて、物真似を始めたのだと言った。そのうち目に留まればいいと思っていたけれど、こんなに早くたどり着くと思っていなかったのだ。
「あっくん、スゴいね!!櫻田そっくりの声だもんね!ね、ね、物真似して?」
そう言って莉都子が暁翔の方へ迫ってきた。ほんのり上気した莉都子の顔が色っぽい。Tシャツ胸元から下着とささやかな谷間が見える。折角開けた距離も詰められて拷問だ。このままキスして押し倒したい願望を押し殺す。
「莉都子。宿題、どうすんの?」
櫻田の声真似で耳元で囁いた。莉都子の表情は今にも蕩けそうで、暁翔にキスしそうなくらいだ。
「しゅくだい……。ダメ、ゾクゾクして、身体がなんかモジモジしちゃう。」
(リッコがエロい!!ヤベぇ。)
モジモジと太ももを擦り合わせているのを見てしまった。そっとその間に手を差し込む。
「はぁっんっ……」
色っぽい吐息を吐いたその唇を塞ぎたくなる。肩を掴み、顔を傾け、莉都子にキスしようとしたところで、ドアが開いた。




