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第11話 2対1

 暁翔は、廊下で絡まれたあとから加藤を気に掛けるようになった。なぜ、あんなことを言ってきたのか。幼稚園も小学校も一緒だったし、お互いに顔と名前は知っているが、それ以上は仲良く遊んだこともない間柄なのだ。


 グループ学習は一学期が終わるまで続く。表面上は何も変わらず、和やかな雰囲気で作業は進んでいる。

 他のグループの内容は発表まで聞けない建前だが、情報交換は積極的に行われている。


「井口、そっちは何処か見学に行った?」

「ん?高宮北に行ってきたよ。オープンスクールには申し込めなかったけど、いつでも来て良いっていうから、先週。そっちは?」

「こっちは週末に北陵に行ってくるんだ。」

「へぇ。」


 莉都子と加藤が背中合わせに座っていて、加藤から声を掛けた。莉都子はあまり男子と話さないが、声を掛けられれば応えているようだ。幼稚園からの顔馴染みだからか、他の男子とよりは打ち解けているように見える。


「瀬上と一緒に行くんだ。井口も来る?」

「え?ちょっ?だって、班が違うし。」

「男二人で行くのもなぁ。レポートは俺らで別の日に作るし。」


(加藤のヤツ、何を言い出すんだ?)


 ギョッとして二人の方を凝視してしまう。それに気付いた加藤が暁翔に話を振ってくる。


「な、良いだろ?」

「え、あ、ああ。……井口の都合が悪くなかったら……。」

「良かったな!井口!」

「な、なにが!?」

「北陵、志望校だろ?」

「え、あ、まぁ……。」


 暁翔と莉都子は二人でなんとも言えない微妙な表情で顔を見合わせた。


◆◇◆


 その週末。最寄駅で待ち合わせして、三人で北陵高校に行くことになった。


「おはよう。あれ?二人で一緒に来ると思ったのに。」

「べ、別に良いだろ?」


(そりゃ、できれば、リッコと一緒に来たかったけど、家から駅まで、何喋ったらいいか、わかんねぇし。)


「折角、気を遣ってやったのに。」

「要らんお世話だよ。」

「リッコちゃんが来たら、多分、俺とずっと喋ってると思うよ。」

「だろうね。」

「ちぇっ。からかい甲斐がなくてつまんねぇな。」

「るせーよ。」


 そして間もなく莉都子がやってきた。


「おはよう。ごめん、待たせちゃったね。」

「おはよう。俺らも今来たとこだから大丈夫。さて、行こっか?」


 莉都子が暁翔のすぐ後に家を出たことは知っていた。話すことがないから、暁翔は気付かない振りをして早足で駅に来たのだ。


 ホームに入ってきた電車に三人で乗る。空いていたからロングシートに横並びに三人で座った。躊躇する莉都子をうまく誘導して、真ん中に座らせることに成功した。この駅から北陵の最寄り駅まで約二十分だ。


「井口、北陵志望なんだよね?」

「え、まぁ。成績良くないから行けないかもだけど、まあまあ近くて通いやすいし。美術部もあるし。」

「俺もなんだ。あそこの理数科に入りたくて。井口、数学得意だから、理数科も良いんじゃない?」

「え?とてもじゃないけど無理だよ!」

「いやいや、推薦なら科目少ないし行けるかも。で、瀬上は?志望校どこ?」

「……まだ決めてない。」

「ほ、ほら、瀬上も音楽とか好きじゃない?あそこ、軽音部あるんだよ。ね、加藤も聞いたことあるでしょ?今日、部活も見学できると良いね!」


 莉都子が暁翔の顔色を窺う。機嫌を悪くしていないかが気になるのだ。そしてその莉都子に気を遣わせているのが分かる分、余計に暁翔は自己嫌悪に陥る。


 北陵の最寄駅に着いて、学校に向かって歩き出す。

三人横並びになるには歩道の幅が狭かった。結局、暁翔は加藤と莉都子が並んで歩くのを後ろから恨めしく見つめながら歩く羽目になった。


◆◇◆


 帰り道。地元の駅で加藤と別れて莉都子と二人きりになった。やっぱり話すことがなくて無言になった。少しして莉都子が話し出した。


「瀬上。今日は着いてきちゃってごめんね?」

「ん?べ、別に井口は悪くねぇよ。加藤が言い出したんだし。」

「……。」


(しまった。また無言になる!)


 そう思ったのも刹那。再び莉都子が話し出した。


「瀬上の志望校はどこ?私、出来たら瀬上と一緒の高校に行きたい。行けないかもだけど。」

「ごめん。ほんとにまだ決まってなくて。北陵も候補の一つだけど……。」

「そっか。瀬上ならもっと上の学校に行けるもんね……。」

「井口は数学得意だし、他の科目だって……。」

「私、運動ダメだし。でも、一緒の学校に行けたらいいね。勉強頑張ろっと。」

「……。」


 また無言になって沈黙が続く。気の利いたことを一つくらい言えても良いのに、と暁翔は自分の不甲斐なさで落ち込む。


(加藤とリッコは自然に会話してるのに、俺と来たら……。リッコに気を遣わせるし、上手く話せないし。)


 無言で歩き続けて数分。自宅前に着いた。


「今日は楽しかった。じゃあね!」

「お、おう……。」


 そう言って莉都子はちょっと悲しそうな顔をしつつも、笑って手を振って家に入っていった。


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