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第10話 スマホに映るもの

 暁翔は廊下に出た。単に廊下にある高校案内を借りるために出てきただけなのだが、さっき見たスマホ画面の衝撃といったら!


(あれはヒロタカの、俺のチャンネルだった!)


 まだ心臓がバクバクしている。莉都子が自分の動画を見ているとは思ってもみなかった。

 莉都子が櫻田宏孝のファンだということも知っていて、莉都子に見てもらいたいと思って動画を作っていた。


(本当にリッコがあの動画を見ていたなんて!)


 そこでハタと、とある可能性に気付く。


(もしかして、コメントも書いてくれているのでは?)


 一瞬しか画面を見られなかったけれど、アイコンのイニシャルは『R』だった。


(Ritsukoの『R』……。)


 『R』で始まるアカウント。


(『Rit.』。そうだ。リタルダンドだと思っていたけど……。Ritsukoからの『Rit』なのか?)


 そう考えたら、一気に顔が赤くなった。


(ヤバイ。『名前を呼びたいのに呼べない人』って俺のコトなんじゃ?いやいやいや、そんな自意識過剰な、いやでもほら、そんなやつ、リッコの周りにいるか?俺のコトであってほしい!だって、その歌詞の相手はリッコなんだから!)


 頭の中は混乱したまま、廊下の棚の上にあるドキュメントボックスから、目当ての高校のパンフレットを探す。

 自分ではちゃんと探しているつもりなのに、手と脳みそと目が繋がっていないみたいで、目的のパンフレットが全然見つけられない。


(うう、落ち着け、俺……。)


 そんな言葉も虚しく、手に取ったパンフレットの表紙の文字も読めないくらい動揺していた。


「瀬上、何やってんだよ?」


 背後から掛けられた声に、あり得ないほど驚いて肩がビクンと跳ねた。


「あ、ああ。真栄高校のパンフレットを探してるんだ。」

「え?それならこっちの箱だろ?ほら、これ。」


 そう言って、同じ班の加藤が目的の高校のパンフレットを別のドキュメントボックスから取り出して手渡してきた。


「ありがとう……。」

「瀬上、なんかあった?」


 何もないよ、と答えようと思ったところで、加藤の言葉が続く。


「井口と。」


 折角引いた顔の熱が再び戻ってくる。その反応を見て、加藤が畳み掛けてくる。


「お前、リッコちゃん、好きなの?好きな子、傷物にしちゃったらねぇ?」

「なっ!?」


 カッとして、ニヤニヤしている加藤の胸倉に掴みかかった。加藤の腰辺りが棚の天板にぶつかって、ガタンと廊下に音が響いた。

 教室の前の扉が開いて、先生が出てきた。廊下の窓の人影が気になったらしい。


「お前ら、いつまで廊下にいるんだ!」


 先生に見つかるかどうかくらいのタイミングで胸倉から手を離していた。

 返事もそこそこに、教室の扉に向かう。


「なぁ、瀬上。」

「るせーよ。次は容赦しねぇからな。」

「へいへい。」


 暁翔が先に教室に入り、その後に加藤が続いた。表面上は普通のクラスメイト。一触即発の状態だとは誰も思うまい。


(どうにか取り繕ってるつもりだけど、変じゃないよな?亮真が言うようにみんなにバレバレなんだ。そう思ったらめちゃくちゃ恥ずかしい。)


 莉都子の顔を見たいと思っているけれど、恋しそうに見つめてたりしたもんなら、クラスメイトはみんなそう思うだろう。暁翔は莉都子の顔を見ることができなくなった。


 本当は莉都子と仲良くなりたいし、なんなら告白して付き合いたい。それに、今日偶然見てしまったヒロタカのチャンネルについても聞きたい。


(俺がヒロタカだと知ったらどんな反応をするだろうか?)


 櫻田宏孝の声に似てると喜んでくれたら嬉しい。でも、反対に嫌われる可能性もあるわけで。

 良い案が思い付くはずもなく、しばらくは莉都子と距離を置くことにした。


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