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金?の力で無双する異世界転生譚  作者: 世難(せなん)
第二章 ~『原点』~
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セベック『貴族ならぬ貴族』

 アーリスの仮宿から出たセベックは、北東の資材倉庫へ馬車を走らせていた。


 街の店舗にも倉庫はあるが、食物や日用品が主で、調度品と資材の類いは倉庫街に預けてある。


 領主直々の依頼で優先度が高い上に、注文数も膨大だ。在庫は自分の目で確認しておく必要があった。



「旦那様、アーリス卿は如何で御座いましたか?」



 馬車の中、備え付けのキャビネットからロスウェルが果実水を取り出した。


 移動しながらの会談を可能にする為に改良させた内装だが、想像以上に居心地が良い。あと一つ二つ手を加えれば、貴族相手への提供も十分見込めるだろう。



「……御領主の凄さを改めて痛感したよ」


「アーリス卿ではなく、御領主様の方ですか?」


「ああ、正直10歳とは思えなかった。リリア達と狩りに興じている話しか聞いていなかったからな。父が婚約の話を持ってきた時は頭を抱えたものだが……」



 領主からの婚約の打診。安易に断れるものではない。


 加えて、系譜から外し、偽葬で名を変え、子供しかいない騎士団の長など、一人娘を預ける相手として不安しか浮かばなかった。


 更に困った事に娘は乗り気で、父も忠義から断るという発想が欠けらも無いときた。


 案じていたのは俺と、執事頭のロスウェルくらいだろう。



「当代のフロード領家はランフェス、ザックス、シャリルと続けて輩出している。然も全ての子がバラバラで、能が被っていない。一体どんな教育を施しているんだか……」


「アーリス卿にも傑出した能が?」



 薄紫の果実水が揺れるグラスを受け取り、それを見つめながらながら、セベックはロスウェルの問いに答えた。



「アーリスは『貴族ならぬ貴族』だ」



 ともすれば勘違いされそうだが、市井の意識に近いのとは違う。そもそもアーリスにはその垣根自体がおそらくは……無い。



 身分と種族、これらは生来のものだ。


 産まれながらに付与された、5属に含まれない人間社会特有の属性。無視出来るようなものでは無く、領主家であれば尚更矯正が困難なものだろう。



「あの家に貴族はいなかった。種族もなかった。……ロスウェル、アーリスはほぼ同時に長耳族と倭人族を娶ったんだぞ?」


「それは……」


「加えてマイントリアーシュと契約まで繋いでいる。……面白過ぎるだろう?」



 種族の垣根を越えて複数の異種族を娶り、幸運の魔獣を従えた貴族。まるで、伝え聞くニストレータ・リンリャスのようだ。



「種族を気にせず、身分を意に介さず、当時の王族に食ってかかり、司法どころか大陸を引っ掻き回した男……一体何者だったんだろうな?」


「アーリス卿に似たものを感じる、と?」


「そこまでは言わないが、何かを感じさせる子供だった。……眼の色が違うのが惜しいと感じる程にな」



 リンリャスは黒髪に黄瞳隻眼の青年だったらしい。今からアーリスが土精霊に契約を変えても、黄瞳にはならない。紫と黄で色が混ざり、直視に耐えぬものになるだろう。



「かの偉人に重ねたいように聞こえますが……」


「一人娘の旦那だ。期待は高く見積もりたいじゃないか」


「旦那様」


「冗談だ。が、懸念は払拭され、次代の子も約束された。初動としては万事だろう?」



 廃嫡から偽葬、適当な討伐功績から自由騎士への転進。『切り捨てる』準備としか思えなかった。


……が、自由騎士団に加え、事業の発起人を『騙らせる』となると、見方はガラリと変わる。



(外に出す積もりだろうな)



 リリアと縁を結び、ムールスと繋がった。ただの領内の事業なら、この繋がりは不要だ。


 外に展開する事業の構想が領主にあり、アーリスはそれを任されたのだろう。


 フロードの肩書きが通用するのは、当然フロードの領内に限られる。領外では目立つだけで小回りが効かない。



(……ランフェスか?)



――廃嫡と自由騎士で一族の束縛を取り払う。


 あいも変わらず思い切った一手を打つ男だ。そして困った事に、その一手が緩手(かんしゅ)に見える妙手であるのが殊更たちが悪い。


 今の領主家で、領外の事業を任せられる者はアーリス以外にいないだろう。


……寧ろ最も適している。貴族ならぬ貴族のアーリスならば、分け隔て無く種族すら越えて、大口の契約を引き込めるかも知れない。



「その次代の子供の件ですが、契約の書面をお預かりしておりません」


「ああ、書面にしていないからな」


「……よろしいので?」


「構わん。……ロスウェル、覚えておいてくれ。書面は手堅いが融通が効かない。後で修正や、解釈の違いを訴えての補正が出来ないものだ。曖昧にしたい契約は口頭で済ませた方がいい」



 一代で築いたムールスの家臣達は、まだ商売上の契約の『狡さ』が根付いていない。何でも書面に起こせば良いという考えは堅すぎる。



「信用は数字で稼げるが、最初から信用があるのなら数字は不要だ。態々書き留める必要など無い」


「心得ました。では、アーリス卿は信用に足る方であったと?」


「……まあな」



 リリナの遺品を渡した時、アーリスは躊躇った。


 喜ぶのでは無く、驚くのでは無く、硬直する様にただ躊躇った。


 躊躇いとは、判断の拮抗だ。


 それは複数の選択肢を考え、その先の意味を望む人間の所作。


――意味を考える者の反応。


 セベックは子供の即断即決を好まない。熟考を重ねた上での選択にこそ価値がある。直感や経験に則った判断は粗いし、思考が止まるものだ。


 アーリスはあの時、俺の言葉と意匠の意味を考えたのだろう。



 自分が何を望まれているのか?


 相手が何を望んでいるのか?



 思考を放棄するのでは無く、


 感情を露わにただ受け取るのでは無く、


 迷い、躊躇った。



(……本当に、貴族らしく無い子供だったな)



 自身以外の者への配慮が強い子だった。


 侍従に時間を決めさせるなど、他の貴族では考えられない。


 自分の子の先を考え、あれだけの条件を付けておきながら、自分の事は一切条件に加えてこない。



「……付き合いの長くなる相手だ。一々書類の契約など無粋だろう?」



 今回の契約で、ムールスとフローゼルスは家同士で繋がった。


 商家と自由騎士団が一つになったのだ。これだけでも大きいが、更にアーリスは領主の事業を任されている。


 投資先として申し分ない。




 小窓から近づく倉庫街を眺めつつ、セベックは薄紫の果実水を飲み干した。

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