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金?の力で無双する異世界転生譚  作者: 世難(せなん)
第二章 ~『原点』~
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『リリアの父』

 俺の今の住まいは借家だ。


 貴族の賓客を招けるような調度品はまるで無いが、婚約者の父親を戸口で立たせたまま応対する訳にもいかないだろう。


 シャリアが速かに談話の茶席をセッティングし、招いてテーブルまで案内した。


 30歳は越えていると思うのだが、20代半ばに見える程精力に満ちた人だ。青い瞳から、ハウゼ医師と同様に水の使い手である事が察せられた。



「娘の我が儘でこのような突然の訪問となりました事をお詫び致します。フロード御領主の温情で、ムールス商会を取り仕切らせて頂いております、『セベック』と申します」



 恭しい礼と共に、リリアの父、セベックは俺に対して頭を垂れた。




 ムール・セベックはハウゼ医師の息子で、ムールス商会を一代で築いた傑物だ。


……やり手の『商人』である。



(絶対敵に回したくない!)



 俺的『敵に回してはいけない職業TOP3』。


 医者、政治家ときて、商人が不動でランクインする。要するに、風評への影響力を持つ職業だ。


 風評は戦術・戦略の手段としても運用されるもので、恐ろしい事に使い方次第では、これだけで余人の人生を終わらせる事すら出来る。



 人間の社会で確立するのに、『価値』は必須要素の一つだ。


 物……通貨、商品。


 能力……学力、技術。


 権威……職歴、学歴。


 人格……行動、発言。


……とまあ他にも色々あるが、一様にこれらは『信用』によって価値が認められる。


 そして『風評』は、この信用を落とし、価値を無くす事が出来るものだ。



 風の属性が良い例だろう。


 明確な利便性と汎用性を持ちながら、優位であるという信用が無い為に、まるで価値が周知されていない。幾ら有用であっても、信用が無ければその価値は認められないのだ。


 穿った表現だが、商人とは風評を読み、信用を売買する職種なのである。


――信用を売る者。


――信用を作る者。


――信用を壊す者。



 一部に特化して生計を立てる人がおそらく多数だろうが、セベックは一代で商家ぶったてて家名まで獲得した人物だ。


……絶対ヤバイでしょ? 風評を操り、信用を売って作って壊せる人に違いあるまい。


 今の俺の不安定な現状からも軽率な対応はNGだ。ましてやリリアの親父さんともなれば、出来るだけ懇意なお付き合いをしたい所。


……なのだが、



「フロードの膝下で多忙な日々を過ごさせて頂いております。有り難い事です。本日も突然の来訪ではありますが、私事の都合から本題に入る事をお許し下さい」



 お義父さん、笑顔が怖いです。



「リリアとの婚約の事です」


「……はい」



 ええ、そうでしょうとも。うん、知ってた。



(そりゃ突っ込まれるわな……)



 狩りに送り出した娘が帰って来たら何か婚約済みとか……訳わかんないよね? うん、俺にもわからんのじゃ。何でこうなった?



「娘が押し掛けて無理に婚約を迫ったとか……。無作法をお詫び致します」


「………………え?」



 思わずリリアを見る。


 良い顔でピースサインかます商家の娘がそこにいた……って違うだろ⁉︎



(いやでも……あれ? 間違って無いのか?)



 上にのし掛かられてマウントとられて不意打ちで婚約された……って、今気付いたけどなんかすごく情けなくないか?



「領主より直筆の祝辞も賜りましたし、新事業への介在を融通して頂けるそうで……」


(ちょっ⁉︎ 聞いてないぞ、何してんのお父さん⁉︎)



 先見て動きすぎだろ⁉︎ アスガンティア人はフライングしないといけない病にでも罹ってんのか⁉︎



「こちらから申請する前に転居の許可も賜りました。この婚約に異を挟む余地は無いのですが……」


(あ〜……、申し訳ありません)



 許可という名の通達である。それも領主から。実質命令に等しい。



「恥ずかしながら、当家には歴史がありません。伴侶に先立たれ、跡継ぎはこのリリアしか居ないのです」



 リリアの母親は……確か病死だった筈だ。名医の祖父の力も及ばない程に、珍しい病だったと聞いた記憶がある。



「安易に取り潰すには、家が大きくなり過ぎました。他領でも商いを行っておりますが、フロードを拠とする当家に、異種差別の思想は入れられません」



……何となく見えてきた。


 要するに次期当主を外部(そと)から選ぶ気は無いって事だろう。



「……子供ですか?」


「はい。リリアとの間に産まれた一子を、当家の跡継ぎとして引き取らせて頂きたい」



 ふむ、ちょっと思案。



……要求として不自然な所は無い。


 下手に能力や功績で外部の者に家督を譲った場合、その人が本家をフロードから移す可能性は高い。


 異種差別もそうだが、最東領の拠点は使い勝手が悪過ぎる。寧ろよくこんな辺境から統率出来るもんだ。中央に近い領の方が立ち回り易いだろうに。


……とまれ、他領にも届く流通経路を持つムールス商会はフロードの生命線の一つだ。代替わりで体制が変わるのはとても困る。



(その体制の維持に、俺とリリアの子供か……)



 セベック程の実業家ならすぐに相手が見つかりそうなものだが、アスガンティアには『5年の縛り』がある。



――『5歳以上離れた者を相手とした婚姻を禁ずる』――



 30歳なら25歳以上の女性としか婚姻出来ない……が、アスガンティアは前の世界と比べて早婚だ。15〜20歳の間にはもう相手が決まる。今からセベックが伴侶を見出すのは難しいだろう。



……本当にリリアしか居ないのだ。



 本来ならその相手、つまり俺が婿入りして家督を継げば良いのだが、領主から騎士団の運営を任されているので(バツ)となってしまう。う〜ん、八方塞がり。



(子供の道を親が決めるのは好きじゃないけど……)



 特権階級の家に産まれた者の宿命……責務とも言えるだろうか? ある程度は仕方のない事だろうとも思う。


……が、



「幾つか確認させて頂いても?」


「どうぞ」



 白い手袋で優美に先を促すセベック。


 遠慮せず聞かせて貰おう。



「跡継ぎに必要なのはリリアの子ですか? それとも私の子ですか?」



 セベックが眉を顰めた。不快では無く疑問の方だ。


……ちょっと言葉が足りなかったらしい。



「私は領主より複数の娘と縁を結ぶ事を望まれています。その間に子を設ける事も同様に……です。家督の責は貴族の務めではありますが、望まぬ者に無理を強いても結果には繋がらないでしょう。リリアの子がムールスを望めばそれに越した事はありませんが……」


「成る程、得心がいきました。……そうですね、アーリス卿の御子であれば不服は御座いません」


(おりょ?)



 血縁重視なら断られるかと思ったけど、意外にもあっさり通ったな。


……まあいいや、次だ。



「ムールスが望む子に、性別と種の指定は無いものと考えて宜しいですか?」


「…………はい、指定は御座いません」


(……ちょっと迷ったか)



 家督相続は男児が基本だ。これはアスガンティアでも変わらない。系譜やら血統やらを考える種族は何処でもそうなるだろう。


 家を勢力として見た時、系譜の枝を横に大きく伸ばせるのは男だけだ。男と女では勢力拡大に掛かる時間がまるで違う。


 可能なら男の子の方がいいんだろうけど、んなもん俺にだって保証出来ない。



「……最後です。子が自我を持ち、己の道を判ずる事が出来る年齢まで、相続は待って頂きたいと思います」


「跡継ぎとして必要な養育の時間は譲れませんが、5歳まではお待ちしましょう」


「有難う御座います」



 5歳なら自分で好悪の判断も出来るだろうし、算術と政治経済は絶対教育に組み込むつもりだから、1人くらいは商売に興味を持つだろう。


……やっぱ5歳じゃ厳しいか? 俺って5歳の頃何してた?



(…………算数くらいはやってたよな?)



 微妙な所だが、セベックも早めに教育ブーストかけたいだろうし、さっきの言い分だと譲歩する気も無いだろう。


……まいっか、未来の我が子なら上手い事やるだろ。きっと。



「私からは以上です。ムールス商会の貢献はフロードに必要なものです。世の在り方が変われば難しい事かも知れませんが、拠は東領に留まって頂ければと思います」


「アーリス卿の御理解と配慮に感謝致します」



 返礼からそのまま立ち上がると、セベックはリリアに向き直り、



「……リリア」


「なに〜?」



 にっかりと笑いながら右手の親指を立てた。



「幸せになれよ、マイ娘!」


「うん!」



 親指立てて返す娘。



(間違いない、リリアの父ちゃんだわ)



 今までの緊張した雰囲気をクラッシュする親子。一気に弛緩した空気の中、セベックがおもむろに紋話で外に指示を送った。


 

「……そうだ、7番と8番も頼む。アーリス卿、リリアの部屋は何処だ?」



 商人から義父へ華麗なスタイルチェンジかますセベック。多少面食らったが、お堅い貴族応対より断然楽だ。



「はい、そっちの部屋です」



 リリアの部屋を示すと、部下に荷物を運ばせて、呆気にとられる一堂を余所に、あっという間に引っ越しを終わらせてしまう。



「残った家財は新居が出来てからだな。後は明日の分か……」


「明日?」


「ああ、紋章板の配送を請け負っている。かなりの量だが……何に使うんだ?」


「あ〜、さっきの話にあった新事業の一環です」



 紋章板も手配済みだったのか。



「アレがか?……まあいい、今はまだ聞かないでおこう。取り敢えず明日50枚程運ばせる。時間の指定があれば今頼む」


「ソシエ?」


「午前中でお願い致します」


「午前中だな? わかった、その時間で手配しておく」



 再度紋話。今の内容を受付らしき所に伝え、控えさせているらしい。立ち回りが素早く手堅い。……カッコいいな、ちくしょう。



「……では、アーリス卿」



 ちょいちょいと手招き。何だろ?



「掌上を」



 胸元をガサゴソと探りながら、手を出せと言ってきた。……本当に何だろ?


 言われるままに両手を差し出す。そこにポンッとペンダントのトップのような物が置かれた。



「リリアの母、リリナの遺品だ。鎖は君が用意してくれ」



 倭人族を意識したデザインなのだろう。澄んだ真紅の石に銀細工の意匠が施された物だ。


 美しい装飾とズシリとした重さが、俺に素手で扱う事を躊躇わせた。その俺の手を覆うようにセベックが手を重ねて、指を折り、意匠を握らせる。



「リリアを頼む」


「……はい」



 鎖の無い未完成の意匠。


 その重みと意味を、確かに受け取った。

明けましておめでとうございます。

……やっと風邪回復してきたよ。

素敵な寝正月でした(。・ω・。)

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