『姦しい三人』
トリアの名付けを何事も無く終えた俺は、シャリアに隠蔽計画の先を促した。
「んで? この後ノードはどうしろって言ってた?」
「ちょっ⁉︎ 何サラッと流してんのよ⁉︎」
「はい。可能であれば、『マイントリアーシュと契約すべきである』と主張なさっていました」
「聞きなさいよ!!」
喧しい。過ぎた事をいちいち気にすんな。
「契約済みだろ? どういう事?」
「氏は、トリアが『元々風の属性であった』と認識されているようです」
「あ〜、そういう……」
魔獣は属性が一律ではない……らしい。
俺が見たナウゼルグバーグの瞳は『黄色』だったが、レーゼルの本では『赤』や『青』で描写されていた。
その本をどこまで信用するかにもよるが、それでも魔獣の属性が多種多様なものである事に間違いはなさそうだ。
このマイントリアーシュも紫瞳は風の属性によるもので、『既に契約済みだった』なんて、ノードには思いもよらなかったのだろう。
……ま、そりゃそうだわな。
「ふむ……契約した方がいいって、理由聞いた?」
「私も存じませんでしたが、マイントリアーシュは彼のリンリャス卿が護身獣として飼育していた魔獣だそうです」
「ほ〜」
トリアに目を移す。そんな曰くのある魔獣だったのか。
「……? み〜?」
何で俺に見られているのか判らなかったのだろう。トリアが首を傾げながら目をパチクリさせつつ、疑問符付きで鳴いた。
……ほんと無駄に可愛いなこいつ。撫でてやろう、うりうり。
「……敵意に反応する特性、か。……確かに、護身にはうってつけかも知れないけど……」
「はい、氏もそのように言っていました」
「でも、そんな目的で飼うつもりはさらさら無いぞ?……まあいいや。契約の方は恙無くOK、っと。次は?」
「だから、どこが恙無いのよ!」
「落ち着けよナスタ。……時間が無いんだ」
「――こいつっ!!」
カルシウムの足らん妖精である。今度シャリアに頼んで、その手の料理でも作らせるか。
「……ご主人様が此処にいる経緯を捏造します」
ノード、ユーシャ、リリアの三人は禁猟区に入って程なく、野生のマイントリアーシュを発見した。
縄張り争いでもあったのか、マイントリアーシュの精神を狂わせる特性で暴走し、争ったと思われる動物達の遺骸を随所で確認。
敵意に反応する魔獣に交戦を仕掛ける訳にもいかず、増援も用を成さないだろう、とノードが次手を考えあぐねていると、マイントリアーシュが紫瞳である事にユーシャが気付いた。
魔獣契約の明確な条件は不明だが、『同属性』であれば期待値はかなり向上する。
フロード唯一の風属性契約者、俺の存在に思い至ったノードは、『俺と婚約していて』紋話が可能なリリアに救援の要請を指示。
連絡を受け、緊急性を要すると判断した俺は、偶々来訪していたレドルに依頼して、西街門から現場に急行した……と。
「……すげえ。通るな、これ」
想像以上にがっつり練り込んであった。際どいのは『婚約済み』の所くらいだ。他は行けそう。
(……予定変更するか?)
隠す必要など無かったのだが、この内容なら領主にも秘匿出来る気はする。
幸いな事に、ナスタの力はまだバレていないらしい。一味の仲間割れはトリアの特性によるもので、『風の属性に翻弄された末』、何て発想は出てこないようだ。
リリア達救出の為なら……、と覚悟を決めて来たが、行動制限&常時監視の生活は出来れば……いや、かなり全力で遠慮したい。
(…………報告の必要性とメリットが無いな)
仮に、全てを包み隠さずに話しても、俺に待っているのはお説教だ。領主側も調査と事後処理の手間が増えるだけで、ただでさえ多忙な最中、解決済みの事案の報告なんぞ願い下げだろう。
「問題は、リリアとの婚約時期か……」
「今朝〜!」
「へ?」
「今朝だよ?」
……うん、ダメだ。わからん。
余人には難解なリリアの説明(単語)を、シャリアが補足した。
「森に出向く前にご主人様の仮宿を訪れて、その時に婚約した、と「急展開過ぎない⁉︎」」
行間を読めってレベルじゃねーぞ⁉︎
「……その、昨日私達が婚約したのを聞いて、それに嫉妬したといった感じで……」
「ソシエちゃん、内緒で一番とっちゃうんだもん! ずっる〜〜い!!」
「――いえ! あの///」
シャリアが押し負けとる。リリアには誰も勝てんな〜。
とまれ、婚約のタイミングとしては、昨日の夜から今日の朝方までの間しか選べない。
一応それらしい理由もあるし、他に良案がある訳でもないけど……、
「ん〜……今日の朝か……」
「あの様子なら、それ程不自然でも無いでしょ?」
「……時間も無いし、それでいくか」
ノードの計画だと、俺はマイントリアーシュとの契約が完了次第、直ぐに街に戻らないと不自然になる。禁猟区に留まる理由が無いからだ。
加えて、この計画は禁猟区の状況を街側が一切把握していないのが前提になる。巡回が回ってくれば、一発でバレてしまうだろう。
「……よし! 急ごう」
腰を上げて、立ち上がろうとすると、
「――とっとぉ⁉︎」
行動を開始しようとした途端、いきなりトリアが俺の身体をよじ登ってきた。
「おいおいどうした⁉︎」
「どうしたの、アーリス?」
「いや、トリアが……」
言っている間に、よじよじとトリアが俺の左肩に登りきる。
……そして、
「みー!!」
「ちょっ、うっせぇ⁉︎」
耳元で「みーみー」と大音量かますトリア。本気で五月蝿い。
「どうしたのかしら?」
「お腹空いちゃったのかな?」
「構って欲しいのでは?」
どやどやと三人がトリアを覗き込む。
取り敢えず、トリアを降ろそうと右手で掴もうとすると、
〈かぷっ〉
……人差し指に食いつかれた。
と言うか、しゃぶられてる。
何かちゅーちゅーしてる。
「……リリアが正解だな。何か吸われてる気がする」
「やったー!!」
リリアが正解を喜ぶ。
「ちょっと⁉︎ とんでもない大食らいよ、この子!」
ナスタがマナの減少を嘆く。
「あの、トリアのお腹が……///」
シャリアが何か恍惚としてる。
実に姦しい。
「……もういい、このまま移動するぞ」
いつまでも牢の中で駄弁っている訳にもいかんだろうに。
……まったく、先に進みやしないじゃないか。
本気で先に進まんw
年内に二章終わるか?




