『トリア』
マイントリアーシュに関しては、現状どうしようもない。こちらからは危害を加えられないし、そんな気も無いので、とっとと次の行動に移るべきだ。
……ただ、
「……言っとくけど、発足前に騎士団解体とか、『あり得ない』からな?」
「……え?」
時間が押しているらしいが、この二人の誤解は正しておいた方がいいだろう。
「ここの領主がそんな『汚点』認める訳ないじゃん」
全力で握り潰して、平然と立ち上げるに決まってる。
あの黒黒とした領主代行はバドムに帰ってるから不在だけど、領主は居る。
……あのランフェスの父親だぞ?
「絶対に立ち上げる。そもそも騎士団が必要なのは領民じゃなくて、領主の方なんだから」
領主直下、互助組織として活動予定の騎士団。
無くなると困るのは領主の方だ。
「握り潰し易いように、って極力露出しないように動いたからな。万に一つも無いだろ」
ローブで身を隠していたし、街でも露骨な行動は一切していない。俺が外に出たのを知る人間はジーグくらいだろう。言いたくはないが、俺でも何とかなりそうな気がする。
ザクは俺を誘拐し、領主の脅迫を目論んでいた『フロードの敵』だ。
下手しなくても俺よりえげつない『あの二人』を敵に回したのだ。命知らずにも程がある。どう転んでもバッドエンド。つまり、結果は変わらない。
……領主を差し置いて先走って行動した俺に、お説教やらお小言やらはあっても、そこまでなのだ。
拷問がバレたらまずいのなら、揉み消せばいい。その程度の事で発足前の騎士団解体とか、俺でもやらない。領民の不信を煽るだけだ。割に合わんだろうに。
(……つーか、信用無いな領主)
でも、仕方のない事かも知れない。
二人にとっては何処までも『領主』だ。その領のトップに位置する存在で、気安く考えられる相手ではないだろう。
政治判断で切り捨てられる可能性を二人が考えるのも、当然と言える。
対して、俺から見れば何処まで行っても『親』だ。
領の軍事力は当てに出来ないが、『情報統制』に関しては、がっつり頼るつもりだった。
政治家とは、情報操作のスペシャリストだ。
不特定多数の『他人』の意思を統一しようとした時、活用出来る力は3つ。
『財力』。
『武力』。
『情報』の3つだ。
小規模であれば、『財力』や『武力』でも集団を纏め上げる事は可能だろうが、これが『群衆』と呼べるような規模になると覚束無くなる。数を前にした時、この二つでは限界が生じる。
……が、『情報を支配』出来るのであれば、この限りではない。
前の世界ではマスコミが幅を利かせていたが、こんな跳梁を認める時点で、俺から見れば失格だ。
マスコミを使い、『情報』という力で民衆を統制して政を治める役職。それが『政治家』だろう。
そもそも、マスコミも勘違いしている。
マスコミの仕事は政治家に協力し、情報操作の『尖兵』として活動し、治政を円滑に行えるよう尽力する事であって、対立など言語道断。政治家にとって目障りなマスコミなど、治政の上で存在意義が無い。
ましてや「虚構なく全ての情報を開示」なんて、『誰でも出来る事』を政治家に要求するなど、的外れでしかないだろう。民衆を『情報』という力で導く役職に、只管に事実を要求するなど、愚行の極みだ。
――秘匿し、
――隠蔽し、
――煽動し、
――誘導する。
大衆が望むのは『真実』では無い。『安定』だ。
生活の安定が恙無く提供されるのであれば、真実など多くの民衆にとっては、どうでもいい事だろう。
(フロードには前の世界のようなマスコミがいない。情報は領主に掌握されている筈だ)
あの二人の事だ。俺の想像の一つや二つは平気で越えた所で管理しているんじゃないか?
「……ま、そんな訳で二人には悪いけど、俺はそこまで悲観的に見てない。最悪、頭を挿げ替えるくらい……かな?」
挿げ替える当てが有れば、だけど。
「それじゃあ、一緒に騎士団出来るんだ!」
リリアが満面で喜ぶ。
……そっか、不安にさせてたか。そうだな、今後はもそっと考えて行動するか。
「おう、ばっちりだ。全力で隠蔽しちまおう。……ナスタ、どんな計画立ててる?」
俺の問いに、ナスタではなくシャリアが答えた。
「計画自体はノード氏が作成しました」
「……そなの?」
「はい。……氏が協力的な理由は不明ですが、計画は使えます」
「ほ〜ん……」
ま、協力してくれるんなら、気にせんでいいだろう。
単純に、助けて貰った恩返し的なものかも知れないし、疑って掛からなきゃいけないような人でも無い。
「現在、ノード・レドルの両名が遺体を全て隣の通路の奥に封じています。ユーシャは本日予定されていた収穫を、一味の物資から捏造中です」
「ほむほむ」
彼奴等の痕跡を消し、自分達のアリバイ確保ってところかな?
「我々はマイントリアーシュの担当となります。森で偶然遭遇した紫瞳の魔獣を捕獲する為に、リリアが『紋話』で唯一の風属性契約者であるご主人様に連絡をとった……、という筋書きを予定しています」
「……成る程」
だからリリアとの婚約が必要だった訳か。
「って、先に説明出来たじゃんか!」
奇襲婚約の必要性がまるで無い。
「……あんたって肝心な所で『へたれ』るから、難癖付けるような気がしたのよ。『こんな所で〜』とか、『急に〜』とか……」
「うぐっ⁉︎」
……ちくしょう、否定出来ない。
「……ねえ、アーリス。この猫飼うの?」
リリアがマイントリアーシュの頭を撫でながら聞いてくる。余程気に入ったらしい。
「そーだな、契約もしちゃったみたいだし、我が家の飼いニャンコ確定だな」
「やった! じゃあ、名前付けてあげなきゃね!」
「………………」
名前か〜。
確かにマイントリアーシュじゃ長いし、さくっと考えるか。
マ、イ、ン、ト、リ、アー、シュ。
単純に、最初の3文字で『マイン』。
……ダメだな、爆発しそうだ。
逆に終わりの3文字で『アーシュ』とか。
……ん〜いまいちイメージに合わんなぁ。
んじゃ、真ん中から抜き取って……『トリア』?
……………………ふむ。
「……よし! この子の名前は『トリア』に決定!」
言いつつ、トリアを持ち上げて上に掲げる。
――その瞬間、その小さな身体からマナが吹き出した。
「のわ⁉︎」
――【その魂は分かたれている】――
「何⁉︎」
「ご主人様!」
「ふえ〜! トリアちゃん、すご〜い!!」
トリアから渦巻くように立ち昇るマナ。
岩壁をものともせず上に向かって突き進み、あっという間に消えた。
「………………何事?」
「知らないわよ! あんたがまた余計な事したんでしょ!」
仔猫に名前付けただけで、何故に不思議現象が起こり得るのか。
……落ち着けよ異世界。いや、本当に。
*当作に特定の職種に携わる方々を中傷する様な意図は、一切御座いません。
アーリスの見解です。
【世難】




