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金?の力で無双する異世界転生譚  作者: 世難(せなん)
第一章 ~『転生』~
9/216

『脳裏焼付』

19/08/05 本文 段落 修正

 鳥の囀りが聞こえた訳でもなく、周囲から人の談笑の声が聞こえる訳でもなく、自然と目が覚め、起床した。



「……知らない天井」



 一回やってみたかったので、やってみた。実際は模様の柄まで記憶している。



「……スッキリしてんな」



 とてもクリアな脳味噌。いい歳して大泣きしたお陰で、大分吹っ切れた。



「……ん、と」



 寝台から降りて、水差しまで歩く。


 ゴクゴクと水分を補給しながら、部屋を見渡す。



(……異世界なんだよな?)



 紋章術なんてものがあるのだから、間違いない筈だ……が、生活様式に前の世界との大きな差が無い。



(文明の発展って発明で加速して、広まって定着していく〜みたいに思ってたんだけど……)



 前の世界で偉大な発明を果たした皆様は、アスガンティアには居ない筈だ。ならば、同じように発展するのはおかしいと思うが、



(……どんな環境でも、似たような生活様式に落ち着くものなのかね〜人間って)



 考察は楽しいが、結論は得られないだろう。スパッと切り替えて、『異世界でやってみたい事・その1』を実行する。



(…………誰も居ないよね?)



 見られたら恥ずかしくて死ねそうだ。


 右腕を掲げ、


 指を開き、


……ちょっと小声で唱える。



「ステータス、オープン!」



…………。


………………。


……………………。


ーーーーーーーーーーーーッ!



 ダッと寝台に戻って、枕に顔を埋めて、喚く。



(うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎)



 何という屈辱。羞恥ここに極まる。


 間違いなく、黒歴史の1ページに加えられた。



(おぉ〜〜ろぉ〜〜かぁ〜〜も〜の〜)



ビブラート付きで罵ってやる、自分を。



(う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!)



 誰も見ていなくても、恥ずかしいものは恥ずかしかった。


 やはり、異世界的にも有り得ないシステムだったらしい。



(だって、見れたら楽しいじゃん!自分のパラメーターとかレベルとか、見てみたいじゃん!!)



 スキルの効果とか称号とかパーティ編成とか経験値効率とかやってみたかったんですやっぱ試したくなるでしょ?誘惑に逆らえなかったんだよチクショーー!


 枕に突っ伏して、足をバタバタさせて、ステータス・ウィンドウに対する俺の思いの全てを、顔の熱が引くまで吐き出し続けた。












「…………よし!立ち直った」



 5分くらい呻いていた気がするが、気にしない。



「そういえば、時計……」



 今何時だろう?


 いつもなら8時に侍従が起こしに来るけど……、



[05時24分]



 あと2時間ちょっと時間がある。


 いずれ誰かが、今後についての話をしに来るだろう。


 今の外の状況を知らない俺が、下手に動き回るのは控えた方がいい。


 それよりも、アスガンティアで使用されている数字が、前の世界と同じものなのが気になる。


……しかも、


(60進法……24時間表記)



 普通に考えれば、太陽系の天体の内の一つ。



(……太陽は出てくる、他は…………無理か)



 相変わらず消された名称の判定基準が読めない……が、今はいい。このまま生活していれば、判断材料も増えるだろう。



(確か……水があるのは、俺のいた星だけだった筈)



 水差しを見ながら思考する。当然、アスガンティアにも水はある。



(別の天体……は、考えなくていいかな、あの世界の観測力から逃げられるものじゃないだろうし)



 人工衛星がバンバン上がっていたのだ。今、改めて考えると、とんでもない世界だったんだなぁ、と思う。


 パラレルワールド、平行世界、推論で進めるならこっちか。



(或いは、時間跳躍。時代がまるまる飛んだ、とか?)



いずれにしろ推論の域は出ない。



(古代の遺跡なりなんなりがあれ……あーーーーッ!)



『ダンジョン』!



 レーゼルの記憶から引き出す。読んだ物語の中に、洞窟探索に焦点を当てたものがあった。



「本棚本棚!」



 背表紙を指でなぞって探す。


[ケシュフェール王国記]

[ザスティンの騎士]

[レスポール伯爵領の騎士団]

[ムグ魔獣討伐隊]

[ナッケル剣技指南書]

[騎士道とは!]



(……極まってんな〜、レーゼル)


呆れるほど、騎士一色のラインナップ。染まり過ぎだ。



(……あった!)



[ポルトトススの洞窟(ダンジョン)探索隊]



 今は亡きドワーフのポルトトススが、洞窟探索での実話を記した書物らしい。



(ユーシャから勧められて借りたやつだな)



 ユーシャはレーゼルの友人で、同じ様な冒険譚を好む男の子だ。借りたはいいが、騎士が隊員の一人でしかなかった為、あっさり食指から外れたらしい。



(どれどれ〜?)



 レーゼルが騎士もの読みたさに、字の勉強をかなり自主的に行なっていたので、前の世界と違う文字でも難なく読める。


 寝台まで持って行って、早速読み耽った。












……結果から言えば、ハズレだった。



(……考えてみれば、洞窟探索と遺跡発掘って別物だよね)



 ポルトトススさんに罪はあるまい。選定すべき資料を間違っていたのだ。


 しかし、気になる記述が幾つかあった。



《洞窟は数年の間隔でマナ鉱石を蓄える為に入り口を閉ざす》


《マナ鉱石と同時に罠と魔獣も補充される》


《全てのマナ鉱石が回収されると洞窟は形を変える》



(……何それ?)



 信じられないが、アスガンティアでは常識でまかり通っているらしい。


 洞窟が生きているようだ、と思い描いたところで、一つ心当たりがあった。



(転生者……)



 ポルトトススさんの記述を信じるのであれば、自然物とは思えない。


 投稿サイトには『ダンジョンを運営して稼ぐ』といった趣旨の小説があった。これも結構好きなジャンルで、よく読んでいたものだ。



(やっぱ、時間跳躍か?)



 洞窟は昔からある。俺と同時期に転生したのであれば、時間が合わない。



(ん〜〜〜〜、手詰まりか)



 騎士ものオンリーなこの部屋では、この辺りが限界かも知れない。


 救済しろ!、などと言われた手前、少し世界の有り様というか、構造みたいなものを掴んでおこうと思ったのだが……、



(ま……こんなとこか、ポルトトススさんの本の気になるところでも覚えておこうか)


 後で何かの役に立つかも知れない。


 誰かが来なければ状況が動かない。こちらから不用意に動かすのも危険だ。大人しく勉強でもしていよう。












 俺の記憶法は、完全に物量攻めのそれだ。


 読んで、そして書く。


 レーゼルの使い込まれた筆記具を見て、10歳の子に負けてられぬ、と奮起する。


 読んで、カリコリと書き写す作業の中で、違和を感じた。



(…………?)



 少し集中して探ってみると、それは『違和』では無く『既視』である事に気付く。



(…………何だ?何処だ?)



 室内を見回し、探してみるが見当たらない。それどころか、既視感も消えてしまっていた。


 気のせいか、と転写作業に戻ると、また既視感が浮上する。


 今度こそ逃がさないように、と注意深く慎重に探ると、



「………………………………マジか?」



 十の権利でリストを作成する時に使わせて貰った、謂わば『脳裏へ自由に焼き付ける能力』が、そのまま残っていた。



(……………………)



 無言で早速試す。


 転写速度・一瞬。コピー&ペーストに近い。


 維持時間・検証中。少なくとも1時間以上は保持可能。


 記憶容量・検証中。取り敢えず本一冊突っ込んで、後で頭の中だけで読み返せるくらいはある。


 編集機能・削除可能、強調表示可能、位置の入れ替え可能、拡大縮小可能。地図の拡大とかも出来た。


 検索機能・慣れが必要だが、優秀。連想に近い。関係する要素がポンポン浮かんでくる。


 以上の検証結果から推察するに、紛れもなくチートだった。



「…………あ〜……名前付けるか」



 あまりにもあんまりな事態に、思考停止しかける。何か別の事を考えたい。


 俺の貰った特性は、『素力変換』に『身代わり』ときてる。何となく四文字で揃えたい。



(脳裏に直接焼き付ける能力だから……『脳裏焼付』で)



 もう少し思い悩むかな〜とか思ったが、割とあっさり決まった。


『脳裏焼付』は他の二つと違い、正式に神様から付与された特性ではない。完全に頼りにするのは危険だ。


 いつ消えるかもわからないし、本当に必要な事は、しっかり勉強して身につけることにしよう。



[07時52分]



 そろそろ誰かが来そうな頃合いだ、と思った矢先に、ノックの音が聞こえた。

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