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金?の力で無双する異世界転生譚  作者: 世難(せなん)
第二章 ~『原点』~
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『鬼灯』

 荒い息を吐きながら、ザクは一人立ち尽くしていた。


 匂いと、剣から滴る血が、この惨状が白昼夢の類では無いと訴え続けている。



(…………何で……こんな事に……)



 瞬く間に、失った。


……全員だ。


 何処でしくじったのか。


 余所との闘争でも何でも無い。



――、……『内輪で壊滅した』。



「あああぁぁ!!? 何なんだよ!? 何が起こったぁぁァァ!?!?」



 剣を放り投げて、空いた両手で頭を掻き毟りながら慟哭する。


 無情に転がる五つの遺体。


……物言わず語る。



――『終わった』、と。



「ううぅぐうぅぅぉぉっ!!」



――『冗談じゃ無い』。



(こんな所で終われるかよ! 手札はまだあるんだ!! 使わずに終われるかよ!)



 奥の牢には上物の商品が二つも残っている。売れば金になる。資金は手に入る。まだ終わってなどいない。



(……考えろ、どうにかやり繰りするんだ!)



 計画を練り直す。



――風が吹いた。



(まずは頭数だ)



――上から下へ。



(人数が揃わねえと、何も出来ねえ)



――肌を舐めるように。



(それまで、こいつらは此処で飼…………?)



――服の内側へ。



(……何だ? この風は?)



 襟首の隙間に吸い込まれるように吹いている。



――『どう考えても普通ではない』。



(…………、――ッ⁉︎『風』⁉︎)






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






 小学生の低学年。


 確か、その頃の事だったと思う。


 この名前も俺がつけたもので、一つ隣の学校では別の名で呼ばれていた。



――「え〜、やだよ! 似てるし、こっちの方がカッコいいじゃん!」――



……こんな感じだった気がする。



 子供の無邪気さと、無鉄砲さが同居した『遊び』だ。


 大人がやると、意味合いがまるで変わってしまう。


『冗談』では済まなくなる。



(ナスタ、『鬼灯』)


《『了解』、仕留めるわよ!》



――『鬼灯』には条件がある。



 ひとつ、裾の長い服である事。


 ふたつ、前が分かれていない服である事。


 みっつ、首の部分が開きすぎていない事。


 よっつ、その服が捲って裏返せる生地である事。



……要するにTシャツとか、トレーナーっぽいやつがいいのですよ。


 襟の部分から風を流し込む。裾が内側に入っていても問題無い。そのまま風を送り続ければ、裾は外に出る。


 次は上だ。


 裾を上に捲るように、風で持ち上げていく。


 内側から下に風を送り、外側でUターンさせればいい。


 その切り返しの場所を、徐々に上げていけば、自ずと捲るような格好になるだろう。



……大抵の服は、首の部位が狭い。肩に掛ける形を考えれば、そうならざるを得ない。


 故に、首で引っ掛かって止まる。


 斯くて、『両腕と頭を自分の服で包まれた無防備な人』が完成する。


 丸出しのお腹をみんなで笑いながらペチペチしたものだ。


 因みに、隣の小学校では『巾着』と呼ばれていた。



……どう考えても鬼灯ほおずきの方がカッコいいだろ。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






 自分の服で腕と視界を塞がれたザクは、壁面を這うように奥に向かっていた。



(――クソッ! あんのクソガキがぁぁ!!!)



 どうやっても『脱げない』。


 風が纏わりついて、服がへばり付いて、腕が下ろせない。首が抜けない。



――『風』だ。



 どうやったか? などどうでもいい。


 この有りようの原因が他に考えられない。


「使えない」の代名詞でもある、『風の属性』にしてやられたのだ。



――『火の属性使いであるオレが、風に負けた』?



 仲間も全て奪われた。


 賢しい『奸計』によって、だ。


 屈辱などという言葉では、到底収まらない。


 認められる訳がない。



(……殺してやる! 身代金なんぞどうでもいい!!)



 身の内の感情の『熱』を、外に出す術をザクは知っている。


 火の精霊はそれが出来る。



(――着いた!)



 三ヵ月の間潜伏していた地形。


 見えずとも、おおよその見当は付く。


 何も奥まで辿り着く必要は無い。


 奥に続く道の入り口に立てればいい。



(クックックッ! ざまぁねぇなぁ〜?)



 奥の牢は木製だ。


 精霊の炎を止められるものでは無い。


 加えて、作った寝床は枯れ葉の山だ。


 さぞ、良く燃える事だろう。



(てめえから貰ったマナだ!! 返してやるよ!!)



 紋章が熱を帯び、マナが膨れ上がる。



「焼け死ね!!《焼炎》!!!」



 全力で放つ。


 注いだマナの分だけ、両の手の間から炎が噴出される。


 服を貫いて、何もかも焼き尽くす炎は、



――路の奥には行かず、



……ザクの周りを渦巻いた。




「があああぁぁぁ!?!?!!」






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






(馬鹿じゃねーの?)


《………………》



 当然の結果だ。


 風と火の相性という話では無い。


 この勝負は属性では無く、『勢い』の優劣を競うものになる。


 そしてその勢いは、『マナの量で決まる』。


 マナに困窮していた一味のトップがとる行動としては、お粗末に過ぎるだろう。



(やっぱ『雑魚』だったな〜)



 その名前の印象通りだった。



(……ナスタ凄すぎ。一方的じゃん)



 相手に気取けどられないのは、やはり大きなアドバンテージだ。


 まさに、ナスタ無双!



(……俺、何もしてねえな)



 枯れ葉のベッドの上で指示しただけである。


……安楽椅子気取るには知性が足らんだろ。常考(JK)






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






 圧倒した。



(……嘘、でしょ……?)



 相手は戦闘に於いて『最優』と名高い、火の属性だった。



――「ナスタの風でその一味を全て殲滅する」――



 アーリスが語ったのはこれだけだ。


 あれは出来るか、これは出来るかと、事前に色々と聞かれはしたが、それだけだった。



……『怖い』、と思ったのは、これが初めてだろう。



 全幅の信頼が、


 全てを任されるという事が。


 風を起こせるだけの、全てに劣ると言われ続けた属性の、その使い手の私に課せられた『重責』。



――『私は何もしていない』。



 アーリスの言う通りに、風を動かしただけ。


 アーリスのマナで力を振るっただけ。



……誰が信じるだろう?


 アーリスは、


 この男は、


『寝床から一歩も動かずに一味を殲滅した』。



(ナスタ?)



――ッ⁉︎



(どした?)



……そうだ、こんな事を考えている場合じゃない。



《……アーリス?》


(お、起きてたか。何ぞ?)


《……寝なさい》


(…………はい?)


《後は私がやっておくから》



 問答無用でマナを動かして、アーリスの意識を飛ばす。


 座るように起こしていた上半身が、そのまま後ろに倒れて、ゴンッと壁にぶつかった。



《………………》



 些細な事だわ、と冷や汗を流しつつ、ナスタは意識を変える。



《……シャリア?》


《――ッ、ナスタッ、無事ですか⁉︎ ご主人様は⁉︎》


《…………》



 今ぶっ倒れて後頭部を殴打した事は、言わないでおこう。



《……無事よ、アーリスは勿論、人質だった三人も無事》


《――ッ、そうですか、良かったです……》



 やはり相当に心配させていたようだ。



(……当然よね。火使い相手に風の属性で安心出来る訳ないもの)



 私自身が半信半疑だったのに、シャリアが心配しな

い筈がない。気楽に構えていたのはアーリスだけだ。



……早く安心させてあげなくちゃ。



《一味は壊滅したわ》


《…………え?》


《アーリスが皆殺しにしたの、生存者はそっちのトズだけね》


《………………では》



……やはりシャリアは優秀だ。



『打ち明けておいて良かった』。



《……ええ、やるわ。『この事件を無かった事にする』》



 後先考えずに突っ走る、この主人の尻拭いを、私とシャリアで担当する。

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