『理性的な行動』
リリアの無事は確認した。
隣の奥の方に閉じ込められている二人も、心配はいらないそうだ。呼吸の仕方でナスタには判るらしい。
(――んじゃ、始めますか)
起爆の時だ。
室内に使える物があるか、ちょっと見回してみる。
(……目を塞がないとか、甘いよね?)
《何言ってんのあんた?》
俺なら絶対塞ぐぞ。
行動を著しく制限出来るし、ストレスで衰弱させて、反抗の意思を挫く効果もある。
(手緩いよ? ザクちゃん)
名前から不思議と「雑魚っぽいな〜」とは思っていたが、その通りだったようだ。頭はそれなりに回るらしいが、『それだけでは足りない』。
(………………)
俺は中途半端な犯罪者は嫌いだ。
別に犯罪を容認するするつもりは無いが、それでも『やるなら徹底して突き抜けろ』と思う。
(……人を攫って、それを売るつもりだった奴が、『人間らしさ』なんか持つんじゃねーよ)
――俺はお前らを人間だと思っていない。
――だから手加減しない。
須らく『死ね』。
(ナスタ、『殺るぞ』)
《……『主命のままに』》
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「頭、ガキを牢に入れてきました」
「おう、ご苦労さん。お前も吸い出しとけ、よっと」
アーリスの持っていた石をレブに放る。
「……助かります。紋話すら出来なくなるところでしたから」
「苦労かけたな、こっから挽回するぞ。ありゃあ相当な上玉だ。余裕があれば飼いたいぐらいだな」
「はい! 自分、倭人の娘の方イイっすか!」
アダが股間を押さえながら喚く。
「先走りすぎだ阿呆」
「溜まってんっスよ⁉︎ 三ヵ月近くご無沙汰で、あのおっぱいだけでかなり「あ〜、わかったわかった。全部終わったら好きにしろ」」
片手を振りながら適当にあしらっておく。
「ベイ、もう一度トズに繋いでみてくれ」
「了解です。マナが補充出来ましたからね、少し粘ってみます」
ベイが椅子代わりの岩に腰掛けて、紋話を開始する。
「レブはその石をハドに渡して補充させてくれ」
「終わったらどうしますか?」
「……今後の行動はこれから考える。トズが捕まりゃ話しが早えんだが、雲行きが怪しいな」
「どこ行ったんスかね〜、トズの兄貴」
「一先ず、ハドと哨戒に当たってくれ」
「わかりました」
レブが外に出ていった。
その背を目で追っていると、風が入って来るのを感じた。
「……本当に今日は風が強いですね」
「今度入り口に風避けでも作りやスか?」
「要らんことすんじゃねえ、目立つだろうが」
〈カタン!〉
何かが倒れる音がした。見ると横倒しの矢筒から、アダが量産した矢がバラけて散乱していた。
「あ〜あ〜、なんてこった」
「何してんだお前は?」
「おれじゃないっスよ⁉︎ 風で倒れたんですよ!」
「いいから早く直せ」
牢を空にする為に、突貫で中の物資をここまで移動してきた。その際の置き方が悪かったのだろう。
アダが倒れた矢筒に向かう。
――強い風が吹いた。
「うぉ⁉︎」
「クッ⁉︎」
「んなっ⁉︎」
「チッ、ウザってえな⁉︎」
――砂埃が目に入った。
「いってえ⁉︎ 何だこの風⁉︎」
「おい! 擦るなよ⁉︎ 返って傷が付く!」
「イタイっス⁉︎ ラキさん助けて!」
ここに居る全員が喰らったらしい。
(――駄目だ取れねえ、随分と山盛り入りやがったな)
涙の洗浄を待つより、ラキに洗わせた方が早そうだ。
「ラキ! お前の精霊で洗〈ヒュン!〉――⁉︎」
「うぐっ⁉︎」
「くはっ⁉︎」
風を切る音。
次いで二人の、『ラキとベイの苦悶の声』。
「――なっ⁉︎ おい! 何があった⁉︎」
「ひっ⁉︎ なんスか⁉︎ 何があったんスか⁉︎」
風が弱まり、止むを得ず擦って砂を拭うと、
(――何だ? 何が起こった⁉︎)
――矢で射抜かれたラキとベイの遺体があった。
「ひいいいぃぃぃ⁉︎ 何で⁉︎ ベイの兄貴⁉︎ ラキさん⁉︎ どうしたんスか⁉︎」
アダが泣きながらラキの元に擦り寄る。
(……滑稽だなぁ、おい)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
《え、何で? あの男、仲間を斬り殺したわよ?》
(……あ〜〜)
確実を期す為に、取り敢えず標的を二人に絞ったのだが。
(考えてみれば、そうなりますな〜)
《なに⁉︎ あんたあの凶行が理解出来んの⁉︎》
うっわ、すげえ誤解されてそう。
(……よし、わかった。解説しよう)
《私は理解したくないんだけど……》
(聞いてください、お願いします)
《………………どうぞ》
つっても、そんなに難しい話でも無い。
(室内に居るのは4人。一時的に目が塞がれて、周囲が見えなくなった)
《私らがやった事ね》
ナスタの風で砂埃巻き上げて、奴等の顔にぶち当てただけである。
子供騙しその1:『目潰し』
(視力が回復して、次に目を開いて最初に見えたのは、二人の死体だった)
《……うん、私らがやった事ね》
最初に風で矢筒を倒し、中の矢をバラバラにしておく。
奴等の配置は風の中にある限り丸見えだ。仕掛けを『設計』する時間も充分ある。後はタイミングを測って放てばいい。
(優先度の高い水の使い手と、通信役に絞った訳だが、まあ役割はどうでもいい。生き残ったのは二人)
《……うん》
(ザクは自分が犯人じゃないってわかってるんだ。……殺ってないからな)
《――あ!》
ナスタにも解ったらしい。
(……つまり、そういう事)
残りの一人が無条件で犯人になる。
あの凶行は寧ろ、理性的な行動と言えるだろう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
斬り殺したアダの遺体を見下ろして、独り言ちる。
(何でこんな事になった⁉︎)
状況からアダの裏切りは明白だ。
(クソが! 何処で叛意なんぞ抱えやがった⁉︎)
ラズダでの見殺しか? いや、満場一致での判断だった筈だ。
(……女か?)
今奥にしまっている女を独占したいという、欲情からの犯行か?
「――この、馬鹿が!!」
本当に下らないが、他に思い当たる動機が無い。
「……頭? 中で何か――な⁉︎」
「――ッ!!」
哨戒に当てていた二人が、騒ぎを聞きつけて戻ったらしい。
「何があったんです⁉︎」
「アダが裏切りやがったんだよ!!」
「――そんな⁉︎ 何で!!」
「オレが知るか!!!」
死んだ奴の事などどうでもいい、問題はこれからだ。
(……ッ、畜生! この人数じゃ厳しすぎるぞ⁉︎)
碌な計画が組めない。必要な役割に対して、振り分けられる人数が少なすぎる。
――風がまた強くなり始めた。
「……どうするんです、これから」
「今考えてんだよ! お前らもちったあ知恵を出せ!」
「――ッ⁉︎」
「…………」
三つの遺体が横たわり、三人の男が険悪な空気を作る其処に、再び強い風が吹き荒れた。
「――うぁ⁉︎」
「くっそ、またかよ!」
「……ッ!」
強くなった辺りで予感はしたので、予め目を瞑っておいたが、視界が閉ざされるといった結果に変わりは無い。
〈ヒュン!〉
(――ッ⁉︎ おい⁉︎ まさか!!)
一層強くなる風が、耳元で音を掻き消す。
顔を狙うように吹いてくるので、目を開ける事が出来ない。
危機感から後ろに飛び退いた。
風はまだ治まらない。
「――あっ⁉︎ ガッ……」
――ドサリと『誰かが倒れた』。
(何だ⁉︎ またか⁉︎)
屈むような姿勢から手をかざして薄く目を開くと、頸動脈を斬られ、倒れているレブの姿が見えた。
「――ッ! てめえが『主犯』か!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(と、ゆ〜事で、今回は『狙いました』)
《……今回のポイントは?》
(首を掠めたところですね〜、残ったお二方は剣の所持者ですし? 矢が残ってると不自然かな〜、と)
《何でそんな事をサラリと思いつくの⁉︎》
弛まぬイメトレの成果じゃないかな? 後は推理物?
視界には、二人の男が剣闘を繰り広げているのが見える。
……シルエットだけど。
(……勝てよ、ザク。負けるんじゃねえぞ!)
《いきなりどうしたの?》
(ザクが勝った方が都合が良いから)
《……ごめんなさい、わからないんだけど?》
ん〜、観察眼が足らんなぁ。
(ザクは条件クリアしてたぞ?)
《……ああ、そういう事ね》
(そういう事です)
お前の死に方は、もう決めてあるんだ。
――『鬼灯』で殺してやるから、勝ち残れよ?




