『虜囚』
俺の前を歩きながら、男は紋話でもう一人の方を呼び寄せて、合流した。
(……見張りを置いとかないのか?)
街の動向は気になる所だろう。
トズから情報が入らないのだから、俺なら南街門を監視させる。
(……わがんね)
意図は読めないが、こっちとしては好都合だ。一箇所に固まっていてくれた方が、『処理』がし易い。
前後を挟まれた連行状態の癖して、超余裕ですね、俺。
(……この二人には『無理』だな)
《そうね、胸当てが邪魔だわ》
ここで仕掛けるつもりは無いけど、服装チェックは大事。
向こうは動き易そうな軽装で、こっちはローブだ。
歩行速度に差が出そうものだが、俺の速度に合わせているのか、負担はあまり感じない。
……もしかして、気遣い?
(……いやぁ、侮りだろうよ)
二人いるのに、俺を拘束しない。
逃げてもすぐに追いつけるからだろう、実際その通りだ。
……舐められてますな〜。善きかな善きかな。
《……ねえ、アーリス? 後ろの奴ずっと紋話してるけど、いいの?》
(いいぞ、ほっとけ)
点火済みの爆弾を、無警戒でアジトに持ち込むのと同義。
――奴等の末路は決定している。
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「……駄目ですね。繋がりません」
何度目かの接続失敗をベイが告げた。
「――チッ、どうなってやがる?」
流れが把握出来ない。
トズが『*2つ目の仕掛け*』で目標を動かしたのなら、同行している筈だ。
……だが、居ない。連絡もつかない。
あの手紙だけを見て、馬鹿正直に一人で来た?
……有り得ないだろう。周りの従者が許さない筈だ。
トズがしくじった?
……なら、何故ここにガキだけが来る?
「……本当に誰も尾行ていないのか?」
「…………追手の気配は無いそうですぜ」
「………………」
囮の可能性も薄い。
(最初から替え玉が居た?……いや、駄目だな)
アーリスは今街中に居を構えているらしい。専用の新邸が出来るまでの仮住まいだとか。
そんな領民の目の届く所で、替え玉と同居など出来る筈が無い。それこそ双子が吹聴されるだろう。
では、急遽用立てた?
……時間が足りないだろう。
事前に計画が漏れていれば、予め容姿の似た紫瞳の子を用立てられるかもしれないが、そもそもこの計画自体が思いつきに等しい突発的なものだ。
(……視点を変えるか、……南の殺人、トズか?)
トズが行ったとは考え難い。情報収集の手腕は買っているが、荒事にはてんで才のない男だ。
……ならば、『トズが犠牲者の方だったら』どうなる?
連絡がつかず……が、誘拐はほぼ成立しているこの状況。
(……目標を連れ出し、口八丁でガキだけを先行させるように仕向け、従者を引き剥がす)
計画とは違うが、トズなら出来そうな気はする。
(そして返り討ちに……いや、ダメだな。これじゃ従者が残っちまう)
追跡が無いのが不自然になる。
(……組み上げるには情報が足んねえな、こりゃ)
「――頭、ハドからです。『間も無く到着』」
ベイの言葉と同時に、アジト内に風が入ってきた。
「うひょ! 寒いっすね〜」
「アダ、五月蝿えぞ。……レブにそのまま連れて来させろ。ハドは哨戒に就くように言え」
「了解です。ハドはそのまま――」
「――ったく、風なんぞ珍しくもねぇだろうが」
「いやぁ、自分ダメなんっすよ。何か関節がチクチクするんで」
「…………ラキ、後で診てやってくれ」
「――はぁ、……好き勝手に食い過ぎるからだ、この馬鹿」
「おほっ⁉︎ ラキさん、きびし〜」
アダが奇怪なパフォーマンスでおちゃらけている間に、レブがアーリスを連れて帰って来た。
「ほら、入れ」
子供を中に押し出し、レブが一つしかない通路を陣取る。捕獲完了だ。
(……成る程、『女』だな)
白い貴族のローブで身を包んだ子供。
剥くまでも無く、顔付きを見れば判る。
――10歳の男児の表情では無い。
精神年齢で推し量れるこれは、女の方が早熟で、男児ならもっとあどけなさが残るものだ。
(一応、後で確認はしておくがな)
じろじろと四方から見られていながら、当のアーリスは堂々としたものだった。
ぐるりと周囲を返すように見回し、大人に囲まれているのを確認しておきながら、平然としている。
(……こっちも肝の据わった娘だな)
これだけの血統と気位の品は、扱った事が無い。
――さて、幾らになるか。
「……リリアは?」
観察する様に動かしていた視点を、真っ直ぐオレに向けてアーリスが聞いてきた。
「……奥だ、先ずは石を見せて貰おうか」
言われて、馬鹿正直にローブの内側でガサゴソと石を探し始めるアーリス。
(騎士団の団長さんねぇ……)
無警戒すぎる。隙だらけだし、どう見ても肩書きに負けてる。
……右足で軽く地面を叩く。
〈ブンッ!〉
「――え⁉︎」
アーリスの背後にいたレブが、分銅の付いた縄を放る。
それは、ローブの内側に手を入れていた為、回避もままならないアーリスに容易く巻き付いた。
「何を⁉︎」
アーリスの抗議の声に紛れて、紫石がコトリと零れ落ちる。
丁度目の前に転がってきた石を拾いながら、アダに指示を出す。
「口も塞いどけ、話は後で聞く」
「――くっ、リリアは⁉︎」
……まだ、そんなこと言ってんのか。このお嬢さんは?
「……良いぜ、会わせてやる。おい、倭人の娘と同じ場所に突っ込んどけ」
元はマーグの巣穴だが、この3ヶ月の間に色々と手を加えてある。
早い段階で仕事の目星は付いた。
商品を仕舞っておく場所が必要なのは自明だ。
二手に分かれた洞の奥を利用して、アダに木製の壁を作らせて、閉じ込められるようにしてある。
一方は倭人の娘。もう一方に男共を放り込んだ。
片方は長い潜伏期間の間で物置になっていたものだが、中の物資を掻き出して、急いで体裁を整えた。
(……同じ場所に突っ込む訳にはいかんからな)
『虜囚の餌』という言葉がある。
監禁・投獄などする時に、中に希少品を置くな、といった意味合いの言葉だ。
虜囚が、その希少品を『人質』に要求してきた事例から生まれたらしいが、迂闊にもやらかす奴は多い。
全てを一箇所に纏めて管理する方が楽ではあるが、中に入れるのが人間の時は留意が必要になる。
(……ま、このアーリスは大丈夫だな。話にならん)
倭人の娘に危害を加えるとは到底思えないし、何よりその力が無い。
同じ場所にマイントリアーシュも居るが、あの魔獣は危害を加える者を狂わせる特性持ちな上に、籠は高所に置いてある。
色々な意味で、簀巻きにされた子供がどうこう出来る代物じゃない。
(二度と会えなくなるだろうからな……最後の逢瀬の時間くらいはくれてやるよ)
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引き摺るように連れられたのは、木製の壁で塞がれた行き止まりだった。
壁には扉が有り、閂で閉ざされている。
(……よくもまあ作ったな、これ)
よく見れば、完全に通路を塞いでいる訳では無く、上下に少し隙間があった。
開けずに中の様子を確認する為だろう。
「ほら、倭人の娘はここだ。早く入れ」
「ん〜〜!!」
一応、抗議っぽく抵抗しておく。
だが、抵抗虚しく、アーリスは牢に捕らえられてしまった!
(何て事なの、ヒドイ!)
《ノリノリね、あんた》
俺を押しやると、ガコンと閂を嵌めて、男は去っていった。
(……さて)
目の前には、枯れ葉の山にシーツを被せて作った寝床。
――その上に、スヤスヤするリリアの姿が窺えた。
(――――良かった〜〜)
ドッと安堵の息を吐く。
このアジトに入る前に、サーチで中の様子は全て取得していた。
構造、人数、居場所も把握済みで、吐息から生存も確認出来ていたが、それでも心中穏やかでは無かったのだ。
(……転んだら一巻の終わり!)
《……何の為のローブなのよ?》
(雰囲気雰囲気)
拘束は想定済み。
内側から『風で持ち上げて』動けるようにと、わざわざ着込んできたローブだ。
転んでも起き上がるくらいは余裕だろう。
のしのしと慎重に歩を進める。
そして、リリアの隣にダイブ!
(お、結構柔らかいじゃん)
草の匂いが強すぎるが、思いの外ふかふかだった。
(……大丈夫そうだな)
至近でリリアの寝顔を見る。
俺と同じ様に簀巻きに猿轡だが、怪我とかはしてないし、血色もいい。
……それにしても、
(……おっぱいで捕捉出来るって凄いよな?)
《……実際、無茶苦茶エロいわね》
縛られて迫り出した胸。垂涎ものである。
(……あいつら、悪戯とかしてないだろうな!!)
《………………ごめん、否定出来ないわ》
なんて事だ。
絶許をここに誓おう。




