『共謀する2人』
トズを此処に置いて行く訳にはいかないので、『梱包』して馬車に載せることになった。
……誤解を招きそうだが、殺ってません。生きてます。いや、扱いは完璧に『お荷物』なんだけどね。
シャリアの精霊術、『導睡』で完全に意識を失っていただいた後、レドルが麻袋に詰めてぐるぐるにしたのである。
倫理的にも道義的にも完全にアウトな行いだが、先に道を踏み外したのはあちらさんなので、情状酌量の余地なんぞ一切無い。
トズの袋詰めが完了する少し前に、シャリアに馬車の手配を任せて、俺は身支度。奴等の指定通りの紫石を準備し、全身が隠れるようなローブに身を包んだ。
俺の準備完了から、シャリアの帰宅を待つ事15分。
《……帰って来たわ》
ナスタの言う通り、シャリアが戻ってきた。
玄関で出迎える。
「お帰り」
「はい、御待たせ致しました」
「よし、これで準備完了かな?……レドル、武装は?」
「戸口に一式置かせて貰ってるぞ。弓と矢が筒に20本程入ってる」
さして懇意でもない家に、武装して入るような常識知らずでは無かったらしい。後はノックを覚えて下さい。
「……無駄に似合ってんなぁ」
シャリアの用意した、フード付きのローブを着た俺を見て、レドルが要らん感想を漏らす。ほっとけ。
縁に金色の刺繍が施された、真っ白で引き摺らない程度に袖と裾の長いローブ。
これを羽織るとすごく可愛いんだ……俺が。
(知ってる……うん。貴族御用達の一品だから、他意は無いんだ。判ってるんだけどね……)
何ともモヤモヤする。
《……アーリス、レドルを先に行かせて》
「……レドル、先に行って準備をしておいて下さい」
「あいよ」
レドルがトズ袋を持って出て行った。
(……んで? どうした?)
何か内輪で話があるのだろうと、指示を出したナスタを問い詰めるが、口を開いたのはシャリアだった。
「……アーリス様、決して無理はなさらないで下さいね?」
あの時と同じ台詞だ。思わずちょっと笑ってしまった。
「……うん、大丈夫」
「………………」
シャリアには念話で、作戦の内容などのあらましを全て説明してある。ナスタがいるので俺に危険は無いのだが、それでもやはり心配なのだろう。
少し目の潤んだシャリアを、どう安心させようかと言葉を探していると、
(……?)
シャリアが額の髪を上げて、紋章を灯した。
水色に輝く『俺の紋章』が見える。
《……額紋は婚約・婚姻と、主従の契約で使うもの……紋章を貰って、その人の『所有物』になるのよ》
(…………はい⁉︎)
いきなりとんでもない事を言うナスタ。
(所有物って、流石に表現が悪すぎるだろ⁉︎)
婚約と『=』で繋ぐには流石に暴言が過ぎる。
《……いいえ、ナスタの言に異はありません》
(シャリア⁉︎)
《私は、貴方の『物』です》
他ならぬシャリアが肯定した。
――自分が俺の物だと。
(――っ、そんなの《あんたに足りないのがこれよ》)
(は⁉︎ 何が⁉︎)
《さっきのあんたの推測、……ランフェスに同意するわ。説明するより見せた方が、体感させた方が早いって》
……駄目だ、分からん。一体何の話だ?
《覚悟しなさい。……シャリア?》
《はい》
返事と共に、シャリアが俺との間を詰めた。
「…………んっ……」
そのまま唇を合わせてくる。
(――うぃえっ⁉︎)
《何を驚いてるの? ただのお嫁さんの口付けじゃない♡》
(そんなフレンチなものじゃ無いだろこれ⁉︎)
逃がさぬと言わんばかりに回された両腕で、否応無くも引き寄せられる。
「……ん、はむ……んっ♡」
(ちょっ⁉︎ 熱烈すぎ⁉︎)
止まる事なくエスカレートするシャリア。
俺の腰に腕を回して、ぐいぐいと色々押し当ててくる。
「……は、あっ、……あむ……♡」
ぬるり、とシャリア舌が俺の口の中に入ってきた。
(――シャリア⁉︎ 待って、待って⁉︎)
《ダメです♡ ちゃんと味わって下さい♡》
唇を重ねたまま、念話で語り合う。
(味わうって、何を⁉︎)
《私を、です♡》
(にょ⁉︎)
何か凄い事を言い出したぞ⁉︎
《将来が楽しみね〜♡ こんな娘を好き放題に出来るのよ?》
《はい♡ ナスタに聞きましたよ? ご主人様はマナが無尽蔵だって……幾らでも出来るって……》
(――『ご主人様』⁉︎)
――って、いや違う! そこじゃ無くて、いやそこもだけど、『幾らでも出来る』⁉︎ 何それ⁉︎
《私はご主人様の物です。褥で何を命じて頂いても、決して背きません。……その時が来たら、ご主人様の色で思うように染め上げて下さいね♡》
自分の発言に酔うように、吐息を熱くするシャリア。
その熱が、口を通じて俺に移ってくる。
――ドクン、と全身が脈を打った。
10歳の幼い身体……それでも、その内に確かに存在する『雄』の本能が、シャリアの熱に反応する。
《……あんたには『王』になってもらう。今の気質のままじゃ、途中で行き詰まるのが目に見えてるの》
《……だから、私とナスタとで、ご主人様の価値観を変えさせて頂きます》
(……王って、な……に、?)
熱で融解した脳が、辛うじてその疑問を吐き出す。
《……何れ判るわ。シャリア?》
ナスタの指示で、シャリアが離れた。
「ぷはっ、……はぁ」
文字通り息つく間も無かったので、酸素が足りない。
呼吸を整えながらシャリアを見ると、ちょっと頬が赤いだけで、他は堂々としたものだった。
「では、参りましょうか、……ご主人様♡」
……もの凄く問い質したいが、今はリリアが先だ。
(帰ったら絶対説明してもらうからな!)
《ええ、ちゃ〜んと説明してあげるわ♡》
……どうやら、説明する気はあるらしい。
(何で、ここの住人は色々と順番が逆なんだろう……)
取り敢えず、後だ。これに気を取られて救出に失敗しましたとか、目も当てられないし。
(…………う、……)
……流れ的にこのまま出発したいところだけど、
(……シャリア)
《……? どうされましたか?》
(…………《昇華》して)
頭の中がピンク一色でどうにもならなかった。
階段を降りて、下で待ちぼうけていたレドルと合流する。
「……随分と遅かったな?」
「……すいません。直ぐに出ます」
……まだ身体が熱いけど、無理矢理にでも思考を引き戻す。
(俺はこれから人質救出に行くんだからな? さっきのは無し! 集中! 考えちゃダメ!)
《難儀なやつね〜》
一体誰の所為だと。
騎手はレドルだ。先に乗ったシャリアの手を掴んで、馬車に入る。
「……乗ったな? 出すぞ!」
気合いの入った掛け声と共に、馬車がゆっくりと動き出した。
昼間のこの時間に、馬車を全速で走らせる訳にもいかない。そんな暴走車、領民の目にも強く映るだろうし。
車輪と路面で、のんびりカラカラと鳴る車輪の心地良い音に耳を寄せて、心を落ち着かせる。
……この馬車は『西街門』に向かっている。レドルの提案だ。
「……本当にノーチェックで通れるんですか?」
「ああ、間違いなくな。……ジーグには貸しがある。ソギルが居なけりゃ、押し通れるさ」
トズは、ユーシャに連れられたリリアを偶然見かけて、それから遠巻きに尾行していたそうだ。
西の十字路で、大人2人と子供2人の集団と合流。
子供2人の方は不明だが、大人の方はノードとソギルらしい事がわかった。
そして、その子供2人とソギルは、北に向かったらしい。
「……おそらく、狩りの分担だろうな。全員で南に行かなかった理由はわからんが、『*ソギルが戻る前に*』西門を抜けて、そのまま南に下りゃあ、組合の許可無しで森に入れる」
……とまあ、そういう事である。
(ジーグさんってば、どんな貸し作ったんだろ?)
興味があるけど、聞いてはいけない気がする。




