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金?の力で無双する異世界転生譚  作者: 世難(せなん)
第二章 ~『原点』~
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『危険人物』

 悲鳴と絶叫と鳴咽が響く一室。



「……うっ、本当だ……嘘じゃねぇ、信じてくれよぉ……うぅ、信じてください、……やめてくれ、頼むよ……」



 不浄箱に縛られたトズさん(仮)は、この10数分の間で随分と素直になった。


…………ように見える。



「折って下さい」

「やめろぉぉぉ!!!!」



〈ポキッ〉



「ああぁぁがああぁぁぁッ!!?!?」


「アーリス様、お水です」


「有難う」



 尋問の途中で、シャリアは帰ってきてしまった。


 想像よりも随分と早く帰宅したシャリアは、室内の異様さに即座に気付き、この部屋に直行。


 事情を説明して退席を勧めたのだが、



――「リリアはもう他人では有りません」――



 と、強く同席を希望した。


……武芸達者らしいし、下手すりゃ俺より荒事に慣れている可能性まであるんだよな、シャリアって。


 女の子に見せるようなものではないと思うが、そんな配慮は見当違いだ、とナスタからも苦言を呈された。


 他に遠ざける理由も思い付かなかったので、許可を下した次第である。



「団長さんよ……もう折る指が無いぞ?」



 困り顔でレドルがぼやく。


……うん、知ってる。数えてたし。



「大丈夫ですよ。()()()()()()()()()()()()



 事もなげに答えると、室内が絶句の沈黙で満たされた。


 最初に脱却したのは、やっぱりこの人、トズさん(仮)である。



「本当です! 本当なんです! さっきから言ってるじゃないですか! 嘘なんか吐いてないんですよ⁉︎ 信じて下さいよ!」



 涙で顔をグシャグシャにして俺に訴えてくる。


……ん〜〜、本当っぽい?



「……どう思う?」



 確証が持てないので2人に聞いてみる。



「折れていると思います」

「折れてんだろ、これ」

《とっくに折れてんじゃない?》



 三者合一の見解。


……そっか、折れてんのか、これ。素人目にはわかんないな。


 レイプ目とか、ハイライトが消えるとか、そんな判り易い変化は、アニメとか漫画だけらしい。



「それじゃあ、質問しますね? 正直に答えて下さいね?」


「はい! はい! なんでも答えます! なんでも聞いて下さい!」




……と言う事で、『嘘吐き』から何時の間にか『正直者』にクラスチェンジしていたトズさん。


 ベラベラと全部喋ってくれました。



「……今朝会ったな」


Wat‘sワッツ?」


「ノードが2人の子供を連れて歩いていた。そういや、片方の女の子は、確かに倭人族の娘だったな」


(ノードさんが付いてて捕まったのか……いや、他勢に無勢だろうな。2人の子供を抱えての5:3は厳しすぎる)



 ノードは家格の無い貴族だ。


 没落とはちょっと違い、貴族の血統が市井に流れ出た系譜らしい。精霊ともちゃんと契約出来る。


 確か土の属性だったと思うが、幾ら精霊術が使えると言っても、数の優位はそうそう覆るものでは無いだろう。無理ゲーというやつである。



「……3人とも生きてるんですよね?」


「はい! 抵抗がなかったから、生かして捕らえたそうです!」


「……適切だな。無理に抵抗して血を流せば、長期戦に耐えられなくなる」



 と、レドルがノードの判断を評価した。




 実際、誘拐という犯罪は、他に比べて長期化する傾向が強い。


 誘拐が成立した時点で、犯人側が『人質』という切り札ジョーカーを入手している点が最も厄介だ。



A:誘拐自体が目的。


B:誘拐後の取引が目的。


C:AとB両方。



 想定されるケースとしてはこの3つだろう。


 解決に当たり、人質の安全の確保は最優先とされる……が、この安全を『犯人側』に保証させなければならない。


 この交渉に、ある程度譲歩して付き合わないと、誘拐された人質に累が及んでしまう為、解決に時間を要する事になるのだ。



 問題はAのケースで、今回はこれに該当する。


 誘拐犯の目的が完了しているので、交渉の余地が無い。そのまま逃亡でもされれば、気付く頃には手遅れとなっているだろう。


 誘拐された人物の足跡を丁寧に辿り、証言を集め、地道に足で捜索するしか無い。



 俺が思うに、Aは誘拐の中で一番解決の目処が立たず、絶望的なケースだ。



……本来ならば。



 表現があれだが、ラッキーだったと言える。


 このトズさんのナイスな提案により、犯人側の達成状況が『白紙の状態』に戻ったからだ。



(ターゲットが『俺』に変わったからな)



 奴等は俺を誘拐するまで、目的を達成するまでは動かない。


……『*全員が同時に捕縛された*』点も大きい。


 誰かが逃亡に成功していたら、通報され、追跡される事になる。


 逃走計画などを入念に練るリーダーのようだ。


 リリアを連れて逃走していた可能性は高い。


 そうならずに済んだのは、本当に『幸運ラッキー』だった。




 現在の状況はC。


 人質を餌に、俺の身柄を要求するという交渉の最中だ。


 ザクが不用意にリリアに手を出す事は、まず無い。


 とはいえ、リリアは兎も角、ユーシャとノードは不透明だ。


 俺がぐずぐずしていると、材料として提示される可能性がある。


……急いだ方がいい。



「レドル、南の森に行きます。同行を」


「――おう!……って、馬鹿正直に突っ込むのか?」



 んな訳無かろう……いや、間違って無いかな?



「ソシエ、クローゼットに顔と身体を隠せるローブとかある?」


「少々お待ち下さい」



 女の子扱いは不本意だが、好都合でもある。



――『誘拐犯に捕まるのが一番手っ取り早い』。



 俺が考える最速で確実な手段だが、俺にとっての最善では……無い。



(……人の命が掛かってるんだ。保身考えてる場合じゃないよな)



 トズという犯人側の目を潰したので、領主のアゼスターに救援要請を出す余裕はあるが、今のフロードは軍事が手薄だ。


 全幅の信頼が置けない上に、失敗する可能性もある。


 対して、俺の考えた計画ならほぼ確実に成功する。



――自ら誘拐され、奴等のアジトに入り込む。


 奴等は俺を『獲物』と認識している。同時に大事な交渉材料でもある。


 殺しては意味が無いし、そもそも抵抗が無ければ殺す必要も無いだろう。


 犯人側に『木』の精霊使いが居ないのも確認済みだ。『水』が居るらしいけど、生活水を確保する為の要員で、他に出来ることは無いらしい。


 初手で殺せば、危険は薄い。



――ナスタの風でその一味を全て殲滅する。


 おそらく、拘束はされるだろうが、俺とナスタには関係無い。


 俺は『声が出せなくてもナスタに指示が出来る』。


 一般に周知される、精霊の行使を封じる手段、『口を塞いで発声を妨げる』という手法が、俺とナスタには通用しない。


 奴等は交渉材料である俺に、強い危害は加えられないだろうし、楽勝である。


……怨恨からの報復目的の誘拐じゃなくて、本当に良かった。



 普通なら難しいというか、無謀に近い、作戦とも呼べないようなものだが、これが1番確実だ。



(……下手な特性チートよりよっぽどタチが悪いよな、これ)



 内心で笑う。まさか団長の俺が『looseルーズ cannonキャノン』になるとは、思っても見なかった。



……そう、問題はその後だ。






――『無詠唱』。


 要は、発声という過程を経ずに魔法を使うという、アレである。


 人知の及ばない能力を、『人間が認知出来ない領域』で行使する。


 ギルドの時に似たような事を考察したが、こんなものを国が放置する筈がない。


 

 武力は拘束すれば良い。


 権力は剥奪すれば良い。


 組織は解体すれば良い。


 思想は塗り替えれば良い。


 財力は放出させれば良い。



……では、魔法があったとしたら?


 

 詠唱が必要なら口を。


 何らかの儀式が必要ならその儀式を。


 魔法陣のようなものを描く必要があるなら手足を。



……では、無詠唱は?



 無詠唱とは極端に言えば『思考』だ。


 止める手段も、封じる手段も無い。



 こんなものが、殺傷力を有すると確認されたら?


 現代風に言い換えれば、『取り外せない爆弾を保有した人間に、人口密集地での活動を許容出来るか?』となる。


 許容出来る訳がない。


 放置される筈がない。



――「己の中の精霊……いや、すまない。……妖精と会話出来るのか?」――



……気付くのが遅すぎた。


 迂闊な事に、ランフェスにはもう知られている。


 風の属性が、無力で無害だと認知されているからこそ、俺は拘束を免れている。


……知られれば、間違いなく捕まる。ランフェスとアゼスターは見逃さないだろう。


 少なくとも、強固な監視が常時つく事になり、行動も大きく制限されるであろう事は、想像に難くない。



(…………ま、しゃーない! 人命優先だ)



 天秤に量るようなものですら無い。


 今後の生活が息苦しくなるだけだ。



………………腹を決めろ。

『looseルーズ ・cannonキャノン』


 糸の切れた凧


意味:

 特別な地位にある、または就くと予想される人物が、コントロール出来ない、行動が予測不能で、制御しきれない危険な人であるという寓意。


 政治家や会社員などに対してよく使われるそうです。


 それはそうと、アーリス君アウト。お説教確定ですw

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