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金?の力で無双する異世界転生譚  作者: 世難(せなん)
第二章 ~『原点』~
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『紫色の風』

 異世界に来てから6回目の朝を迎えた。


 水を飲んで口の中をスッキリさせた後、共通広間でシャリアの朝食を堪能する。


……なんやかんやと多忙な日々を送ってきたが、やっとこさ余裕のある一日を迎えられそうだ。



 昨日の内に視察を全て終えたランフェスは、今日の早朝にはバドムに戻るらしい。多分もう出発済みだろう。


 見送りも申し出たのだが……、



――「外見こそ子供だが、君は騎士団に所属する『軍人』だ。団長という肩書きも、既に民草の間で広まっている。予定にない軍人の行動は、民衆の目に強く映り、余計な不安を与えるものだ」――



 と、3倍くらいの量でお断りされた。納得出来るけど、納得出来ない。



……まあ、今生の別れという訳でもないし、2・3週間くらいで、また様子を見に帰って来るそうなので、それまではのんびりしよう。……のんびり出来るといいなぁ。



 取り敢えず、依頼されていた統合浴場の企画書的なものを作成し終えたので、シャリアに他にやる事があるのか聞いてみる。



「カールネス執事長は明日お越しになる予定です。そちらの比較文書と、試作なされた紋章板が準備出来ていれば、大丈夫だと思います」


「ほむ、両方とも終わってるということは……」



 それはつまり、



「自由!「マナの練習をしましょうか♡」」


「え⁉︎」


「また昨日の浴室みたいな失敗されたら、たまらないもの。時間があるなら練習するわよ」


「…………ハイ」



 まあ、自由時間といっても、特にやりたい事がある訳でもない。


 レーゼルの記憶があるから、生活習慣も特に問題ないし、基本的な文化もそれなりに把握している。


 現状、俺がもっとも疎い分野が、マナの扱いと精霊術、紋章術の類になる。


……丁度いいか、色々やっておこう。



「私は、昨日お話したグローブの作製に入りたいと思います。その材料と昼食の買い出しに商店を幾つか周りますが、他に何か必要なものはありますか?」


「ん〜、特に無いかな?……あっ、矢が欲しい」



 マナの練習ついでに、試したい事がある。



「狩りの装備でしたら、アーリス様の私室にまとめてありますが……」


「ある程度まとまった量が欲しいんだ。10本以上あると嬉しいんだけど、持てる?」



 結構な量になりそうだ。荷物持ちに同行した方がいいかな?



「はい、大丈夫です。行ってまいります」



 大丈夫らしい、なら任せよう。



「うん、いってらっしゃい」



 シャリアが買い出しに行った。



「……それじゃあ、始めましょうか」



 ナスタ教官がアップを始めた。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






 マナの操作は、筋肉の操作に似ている。


 体内のエネルギーを動かすのだから、酷似していても不思議ではないのかもしれない。


 動かし方はわかる、後は加減の問題。数回練習すればイケるだろう。



……と、思っていたのだが、



「はいダメ〜」


「ぐぬぬ……」



 梃子摺てこずっていた。



 テーブルの上には、真っ赤に染まったマナ石がある。この色を青に収めるのが、今回の課題だ。


 動かす時のイメージは筋肉だが、出ていく時は水の様な感覚だ。バシャッと出てしまって、さっぱり上手くいかない。



「……あかんなぁ、コツの取っ掛かりも掴めん」


「何で出来ないのかしらね〜。こう、ググッとして、スーッと出せばいいのに」



 小躍りする様なジェスチャーで説明するナスタ。


 感覚が掴めんのに感覚で語ってどうする? どこの監督だお前は。



「ふむ、……ま、最初はこんなもんか……」



 かれこれ30分ほど粘ったが、いい感触は得られなかった。


 風呂場で失敗したし、ナスタに任せた方が間違いがないので、この練習の優先度は俺の中でかなり低めになっている。



(買い物もシャリアの担当だしな〜)



 自分でマナを動かさなければならない状況が想像出来ない。優先度の高いものに移る方が建設的だろう。




「ってな訳で、次はナスタの番な」


「……え、何が? 私は出来るわよ」


「いや、そうではなくてだな……」



 自分の私室に行って、ヨイショと矢筒を担いで持ってくる。それを共通広間の真ん中にズドンと置いた。



「これ」


「……?」



 小首を傾げるナスタ。


 ナウゼルグバーグの時、動きづらいからと使わずに余った7本の矢。その内の1本を指差して告げる。



「この中の一本だけを『風で引き抜け』」


「はあ⁉︎」



 目下最優先。『風の属性の能力把握』である。


 戦闘能力に自信なんぞ無い……が、俺は騎士団の団長だ。必ずその時は訪れるだろう。


 その時迄に、『どこまで出来るか?』を把握しておきたい。



「ちょっと! 何で私の訓練に変わってるのよ!」


「はっはっはっ、泣き言は聞かんぞ。俺の生死に関わるからな」


「……穏やかじゃないんだけど?」



 ナスタが真面目モードに移行した。



「精霊術なんてもんが普通にまかり通り、魔獣も何かよくわからん不思議パワー持ってるような世界で、騎士団に所属する事になったんだぞ? 責任は取っていただかないと」


「うっ…………」



 経緯はどうあれ、突き進んだのはナスタである。



「ナスタがどこまで出来るかで、俺の寿命が決まるからな、頑張ってくれ!」


「んも〜! あんたは何すんのよ⁉︎」


「……軍師ポジ?」


「きぃ〜〜っ」



 可愛く癇癪るナスタ。だが勘弁しない。



「いいから、『やれ』」


「あ〜っ、も〜っ!『わかった』わよ!!」



 ヤケクソ気味にナスタが風を動かす。



――それが見えた。



(……は?)



 矢筒の下部から、撫でるように上に向かって『紫色の風』吹き上がっている。



(何だこれ?)



 目を何度か擦ってみるが、治らない。


 紫の風が一本だけを引き抜こうと、様々な角度から矢筒を攻め立てているのが見える。



「……ナスタ、ストップ」


「何よ⁉︎ あとちょっとで「いや、そのやり方じゃ無理」」



 根本的に間違っているナスタ。


……だが、やり方を説明する前に、この現象について確認しなければなるまい。



「単刀直入に……紫色の風が見えるんだけど何かした?」


「はぁ? 何それ、私は何もしてな……風が見える⁉︎」


「矢筒の下側から上に向かって動かしただろ?」


「………………」



 ナスタの無言が、正解だと語る。


 試すかのようにナスタが操ったであろう風が、顔の頬の辺りをそよそよと撫でた。



「……どう? 見えた?」


「…………あれ? 今回は見えないな……」



 目を擦ってまで確認したのだから、見間違いでは無いだろう。


 その後も、ナスタが色々と動かしてみたのだが、結局、紫の風は矢筒の時に見えた一回だけだった。



「ん〜、気のせいって事は無いと思うんだけど、……まあいいや、ナスタ」



 取っ掛かりの掴めんものに、いつまでも執着し続けてもしょうがない。先に風の使い方を教えちゃおう。



「風を……こんな感じで回して」



 右手の指で輪っかを作って見せる。



「……こう?」



 こう? とか言われても見えないが、多分出来ているだろう。ヒュ〜とか音がしてるし。



「それを、ドーナッツみたいに円形に並べる」


「……成る程。だとすると、方向が逆ね」



 得心がいったらしい。



「出来るだけ小さく作って、矢の進路に並べて配置するか、縦に伸ばせば一本だけ取り出せるだろ」


「……小さくっていうのが難しいわ。練習しないと……」


「出来ないなら出来ないでも構わんよ? どこまで精密に操れるか知りたいだけだし。……ひと先ず、『もう一回やって』みそ」


「『わかったわ』」



……紫の風のドーナッツが見えた。



「ナスタ……今、風が見える」



 私にも風が見えるぞ!……何じゃろな? これ。



「……特別な事はしてないわよ?」



 条件が不明だが、風が見えれば指示はもっと詳細に出せる。


 まだまだドーナッツが大きい。もっと小さくしないと、一本だけは難しいだろう。



(……って、こっちで指示出した方が楽じゃん)



 ナスタも脳裏焼付が見えるんだから、口頭で説明するより『風の軌道を描いて』見せた方が早いだろう。


 透過度50%の『レイヤー』に描く感じで、目の前の光景に風の動きを足していく。



《……アーリス、あんた何してんの?》


(何してるっつーか……ん〜、完成までもうちょい待て)



 線を描くより、ポリゴンというか、3DCGみたいな感じで立体的に作った方が解りやすそうだ。


 ドーナッツを作って、矢印を内側から外側へ縦に繋がるように追加する。


 一本の矢に合わせるようにサイズを縮小して、コピー&ペーストで進路に並べれば完成。



(……ふい〜、出来たぞ、完成だ! この矢印の通りに『風を動かせ』)


《――っ⁉︎………………『わかりました』》


(ぬ?)



 何故かいきなり敬語で従うナスタ。


 その後、俺が描いた矢印の通りに風を操り、見事に一本だけを矢筒から引き抜いて見せた。



「おお〜! すげえ、まさか本当に出来るとは!」


「………………」


「正直厳しいかと思ってたけど、ここまで精密な「アーリス」」


「お? どうした?」



 殊勝というか、緊張というか、強張った面持ちのナスタが俺を見つめていた。



「……『命令』だわ」


「……?」


「あんたが命令して、私がそれに応じると『繋がる』の」


「……ほほう」



 軽く思い返してみる。


……確かに俺が指示して、ナスタが応えた直後に、風が見えた。



「……繋がると、俺にも風が見えるって事か?」


「私たちは五精の契約を結んでいるわ。その影響なんだと思う」



 主人から命じられて、その要求を実行するという流れの『契約の繋がり』。


 その繋がりが、紫の『風が見える』という副次的効果を生み出しているようだ。




「……ん〜、俺が風を見なきゃならんような事が無いし、いまいち使いどころが無いな」



 不思議現象の原因が早々に掴めたのはいいが、利便性は微妙だった。



「……いいえ、使えるわ」



 その俺の裁定を、ナスタが首を振って否定する。



「あんたが描いた『そのままに動かせる』の。あそこ迄細かく風を操るなんて、私だけじゃ多分出来ないわ」



……細かい操作は、俺が指示した方がやり易いのか。なら、必要に応じて命令すれば――って、命令⁉︎



「俺に命令されたら、絶対って事は無いよな⁉︎ 拒否とか出来る?」


「え? ええ、出来るけど……」



 そうか、ビックリした。


――なら・・問題はない・・・・・






 自分の意思で行動出来る、戦闘能力の高い存在。



 ナスタには俺とは別の意思で動けるようでないと困る。そして、俺の指示に絶対服従なんて存在でも困るのだ。『精霊』では意味がない。


 俺の命令が、ナスタの行動を阻害するものになるかと心配したが、取り越し苦労だったようだ。


 精密な操作が必要そうな時だけ命令、それ以外は今まで通りで大丈夫だろう。



……俺に風を操るような力は要らない。


 知らなくていい。


 知ってはいけない。


 風を操る力はナスタだけのもので、俺は一切その類の能力に『関与してはならない』。


 見えるだけならば、多分実害は無いだろう。






「拒否が出来るんならOKだ。精密操作の時だけ指示するから、その時は宜しく」


「それは構わないけど、……何で拒否を認めるの?」


「……? そんなに不思議か?」


「普通は……命令に忠実な精霊を望むと思うんだけど……」



 言いづらそうに呟くナスタ。



「……別にそんな難しい話でも無いぞ?」


「聞かせて」



 いつになく真剣である。……しょうがない、真面目に教えとくか。



「俺が警戒する属性が『木』と『水』だからだ。この属性に対抗する為に、ナスタには俺とは別の意思で動ける存在であってもらわないと困るんだよ」

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