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金?の力で無双する異世界転生譚  作者: 世難(せなん)
第二章 ~『原点』~
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ランフェス『帰省前夜』

 夜の肌寒さを感じ始める刻限、アーリス邸の工事日程の変更と、内装の手配を終えたランフェスは、領主館に赴いていた。



(……19時を過ぎたか、予定が狂ったな)



 懐中時計の針を嘆息混じりで確認する。


 精霊建築が想定外過ぎた。内装の発注の為に、複数箇所への移動が余儀なくされ、到着時刻が大幅にズレてしまった。


 事前に連絡を入れたとはいえ、申し訳なく思う。


 領主館の正面玄関を通り、守兵達の敬礼に片手で応じていると、カールネスが姿を見せた。



「すまない、遅れた」


「伺っております。夕食はお済みですか?」


「ああ……」



 言われて気が付いた。そういえば、まだ食べていない。



「いや、まだだ。……頼めるか? メニューは任せる」


「はい、お話の後でよろしいでしょうか?」



 先でも後でも構わないが、尋ねてくる辺り、そちらの方が都合が良いのだろう。



「構わない、頼む」


「承りました。領主は私室におられます。付き添いは必要ですか?」


「不要……あ、いや……カールネスは後で来てくれ。引き継ぎの説明をしておきたい」


「畏まりました。後程お伺い致します」



 カールネスと別れた。


 正面の階段、そこから領主私室までの道のりを脳裏に描く。



(……確かに遠いな)



 アーリスが幾度と無く不平を漏らしていたので、考えが移ったらしい。


 遅れを取り戻すように、足早に3階へ向かった。


 




「……遅かったなランフェス。今度は何を持ってきた?」



 私室に入って開口一番の、父のトゲのある物言いに肩を竦める。



「フロード領にとって、有益な事業の提案ですよ」



 軽口に似た調子で返すと、父が引き出しから紙を1枚取り出し、立ち上がりながら差し出してきた。



「依頼の件だ。これ以上は『踏み込めぬ』。調査も切り上げさせた」


「――⁉︎……拝見します。こちらが統合浴場に関する草案です。馬車の中で作成したので、字が荒れていますが……」


「読めれば構わん、見せてみろ」



 互いに交換する形で受け渡した。


 書類の表題を確認する。




――『五精族、妖精に関する調査報告』――




 ランフェスは、ナスタを信頼はしているが、信用はしていない。


 妖精という呼称自体が初耳だったのだ。そんな不明瞭な存在を、盲目的に受け入れる事など出来ない。


 対処と対応を模索する必要があったので、即座に情報収集の為の調査を依頼した。


 何を狙いとしてアーリスと契約したのか、その真意を、可能なら外側から探りたかったのだが……、



(これは……届かないか)



 情報提供者は長耳族エルフ


……名前の記載はない。


 再度の聴取は望めない、と暗に示されていた。



(……本来なら秘匿される内容だろうな、これは)



 要約すれば、妖精とは水と木の属性の乱れを調整する役割を持つ存在で、長耳族エルフの里の最奥にのみ、その姿を見る事が叶うそうだ。



(『属性の乱れ』とは、素力の事か?)



 ナスタは素力の調整役を自称していた。彼女に嘘が無ければ、その様に解釈出来る。



 つらつらと最後まで読み終え、得られた情報の少なさに目を覆った。


……担当の者を無能と判じる積もりは無い。寧ろ良く引き出せたものだと思う。


『異種族の集落、その最奥のみの存在』。


 普通に調べたら……人間を対象とした聴取では絶対に得られない情報。


……異種族の秘事。


 聞き取りの際に、比較的安易に異種族を対象として選べるフロードであるからこそ、これ程早く証言が得られたのだろう。


 本格的に妖精を調べたければ、異種族の集落なり里なりに、直接赴かなければならない……が、当然そんな事は出来ない。



(人間、或いはそれに組する者が、異種族の最奥の秘に近いものを暴く?)



 こちらにその様な意図がなくとも、向こうから見れば、間者を放たれたに等しいだろう。


 最悪、種族間抗争の火種にもなり兼ねない。「踏み込めぬ」と言った父の判断に納得した。



「……ランフェス」



 視線を書類から離さぬまま、父が私を呼んだ。



「何か?」


「……座ろう」



 領主私室、その室内の端の方にある客席に、席を移した。



(長くなるか……)



 私が父の立場でも、同じ様に時間を欲するだろう。


 アーリスの考え方に、『疑問点が多すぎる』。



「そっちはどうだ?」


「読み終わりました。まさか異種族最奥の存在とは……」


「アーリスに付いた妖精は風だったな?」


「はい。ナスタは『有翼族エルゼンの集落から来た』、と考えて間違いないでしょう」



 属性で判断すればそうなる。おそらく倭人族ドワーフには火の妖精、獣人族セリアンには土の妖精が居るのだろう。



「属性の乱れとは何だ?」


「私にもわかりません……が、ナスタは五精族が素力の調整役であると主張していました」


 

五精族(エレメント)は素力の調整役(バランサー)精霊(スピリット)は契約を尊重して人間に付き従う。……けど、妖精(フェアリー)は違う』

 


「彼女の表現から、属性の乱れとは、素力の乱れと同意であると推察出来ます」


「……ランフェスよ、それは更に広義になっていないか?」


「………………ああ、確かに」



 指摘されてようやく気付く。範囲を狭めるどころか、逆に広くなってしまっていた。



「……ふむ、或いは五精族が、『素力の根幹に繋がる種族』であるとも考えられるのか」


「……実際、我々はナスタに一喝されるまで注目しませんでしたからね」




 精霊は『便利な力』程度の認識だった。


 貴族のみが契約出来る、有益な存在。


……そう、『契約』だ。


 契約している以上、双方に『利』とするものがあり、『利』を考える者でなければ、契約は成立しない。


 五精族はその利の為に、人族の貴族達と契約している。そして、その利とは、属性に何らかの関係があるのだろう。


……都合のいい『道具』では無い。ナスタのあの憤りも、理解出来るというものだ。



(それだけでは無いだろうがな……)



 今に至るまでの長い間、風の属性は『無用』の烙印を押され続けていた。


 そのコンプレックスは相当なものだろう。


 あの程度の感情の発露は、政治の側に立つ者として、受け止めてやらねばなるまい。




「こちらはもう動けぬ。……どうする?」



 この調査で、『フロード領が妖精に関心を持っている』と、一部の異種族には知れてしまっただろう。


 ここから、更に露骨な動きを見せれば、間違いなく『疑念』を持たれる。



「ナスタとは今の距離を保って接触します」


「……その妖精から直接引き出すのか?」


「いいえ、彼女に不審を持たれれば、それはアーリスに伝播するでしょう」



 アーリスとナスタは、俄かには理解し難いが、1つの身体に共存している。



「彼女に警戒されるのは、アーリスに警戒されるのと同義です。アーリスの望むものが不明な今、迂闊に踏み込む訳にはいきません」



 父が、私が渡した統合浴場の書類を、バサリとテーブルに投げ広げた。



「何を考えているのだ? アレは?」


「………………」


「この事業の全権を譲渡するだと? どれ程の利益になる?……細部はまだ甘いとは言え、運営の根幹にまで触れているぞ?」


「私も、取り繕うのに難儀しましたよ……」



 思わず絶句し、唖然とする所だった。




「……地位に固執せず」


 騎士団の団長の立場を、歓迎しているようには見えなかった。疎んじているように思える。



「利益にも関心が無い」


 統合浴場の構想をここまで立てておきながら、あっさり全てを譲り渡した。


 それ以前にも、ナスタに預けている額が大きすぎる。



「成人の精神を保ちながら、女に欲を持たぬ」


……まあ、関心は相応にあるようだが、成人の精神年齢を考えると、遠い。積極性に欠け、寧ろ一定の距離を置いているように見える。



「……加えて、己の身体を分けて平然としているだと?」


 己の中に、自身とは異なる思想を持った存在を許容している。普通ならあり得ないだろう。



「本当に人間の精神か? 欲は何処にある?」


「……家の手配を早めて正解でしたね。今のところ、土地以外で彼を縛れるものが見当たりません」



 本当に、アーリスの欲するもの、執着するものが見えない。



『欲』は原動力だ。無ければ人は動かない。


 だから、為政者は先ず民衆の欲を考える。


 適度に与え、適度に満たし、適度に渇望させ、そして……適度に奪う。


 人の支配は、欲の支配に通じる。


 アーリスの望む欲が把握出来れば、色々とやり易くなるのだが、彼の執着は一般的なところには無いらしい。



「……幸い、予定は順調です。素力に関しては、彼女に譲りましょう。確証を得られる伝手がありません」



 話をスッパリと区切る。議論で解答が得られる内容では無い。長い付き合いになるのだから、その中で見出せばいいだろう。



「素力に関しては、か……」



 父がニヤリと笑う。



「政治は任されたのだったな?」



 私も笑みを深めて応じる。



「ええ、ナスタに『政治は任せる』と……」



 私に対して、失言がすぎるだろう。



「ふむ、ならば存分に任されるとしよう。この統合浴場も預かる。……使えるな、これは」


「はい、一部の不満を吸収出来るでしょう」



 ナスタは「領主の信が厚いから、子供を騎士団に所属させる事に不満は出ないだろう」と考えていたようだが、『そんな訳がない』。


 名称こそ華美なものだが、騎士団とは荒事を引き受ける部署だ。


 己の子を、そんな所に所属させる事を強要されて、何も思わない親はいないだろう。


 大きく声を上げないだけで、不満はある筈だ。



「統合浴場の業務と、騎士団の職務を併合してしまえば、矛先を幾ばくかは逸らせるでしょう」



 子供が就ける仕事は少ない。領主の側でそれを斡旋するとなれば、まず安心感が違う。


 加えて、これは『新事業』だ。


 最初に体裁を整えて置けば、多少の不合理は受け入れられる。



「……しかし、よく判らんものが多いな……サウナ? ジャグジー? 試作はさせているのか?」


「ええ、ジャグジーを作っている筈です。サウナはアーリスの方では無理なので、私が手配しました」


「ほう……何処にだ?」



 内心で笑う。興味があるらしい。


……まあ、私も人の事を言えた義理では無いが。



「外壁内の一邸を使って再現させています。真っ直ぐにこちらに来たので、完成は確認していませんが……」



 一室を空にして、蒸気で埋めるだけの事だ。隣室に水を入れた浴槽を用意すれば、アーリスの構想に近いものが完成する。


 連絡だけでどうとでもなりそうなので、先んじて指示だけは出しておいた。



……と、そこにノックの音が響いた。



「夕食の準備が整いました。それと、ランフェス様。サウナが完成したそうです」



 実にいいタイミングで報告が来た。



「ふむ……では行くか、ランフェス」


「……お仕事はよろしいので?」



 楽しそうな父に、揶揄い半分で尋ねてみる。



「食事と風呂の時間ぐらいは捻出しておる。お前も明日には出るのだろう?」


「ええ、明日の早朝には出発します」


「ならば尚の事だ。カールネス、其方も同席しろ」


「はい、ご相伴に預からせて頂きます」






 斯くして、遅めの夕食を済ませた男3人は、いそいそと試作されたサウナに足を運び、年甲斐も無く我慢比べを始めたのだった。

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