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金?の力で無双する異世界転生譚  作者: 世難(せなん)
第二章 ~『原点』~
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『ジャグジー試作』

「ん〜〜帰ってきた!」



 大きく伸びをしながら、殺風景な部屋に入る。



「お疲れ様でした。お風呂に入りますか?」



 シャリアが荷物を置いた後、俺の上着をそそくさと脱がしながら、尋ねてきた。



「そうだなぁ、先に入るか」



 起き抜けはナスタにいきなり仕事を強制されたので、間取りを見る暇は無かったが、仮宿とは言え十分な広さがあるようだ。


 俺の寝室、シャリアの寝室、空室1つ。共通広間に台所、後は浴室。3LDKと言ったところか。



「わかりました。その間に夕食の準備を致します」


「うん、よろしく」



 購入してきた紋章板とマナ石を持って、浴室に向かった。






 アスガンティアの浴槽は、床に埋め込まれている。前の世界で言う『プール』と同じ感じだ。全てのお湯が浴槽に戻るような造りになっている。


 浄化で洗浄されるので、洗い場を分けるが必要無いのだ。お湯に浸かれば綺麗になれる。


……と言っても、全てを浄化に任せる訳ではない。


 汚れが酷いと、綺麗になるまで時間が掛かって上気のぼせてしまうので、そんな時は湯船の中で擦って落とす事になる。洗体の概念が無いわけではない。






 脱衣所で服を脱ぎ、浴槽のある部屋に入って、



「……さて、ナスタ先生。説明よろしく」



 木造の浴槽の縁、『増熱』の窪みにマナ石を置いて、仄かに赤く灯る紋章陣を見ながら、ナスタに指導を願う。



「今あんたが石を置いた場所が、浴槽の底にある『増熱』の紋章陣の起点。陣から線が繋がってるでしょ? 線が長くなる程、起動までに必要とするマナが増えるから、長距離の起点設置は現実的じゃないわ」


「こっちが『浄化』で、こっちが『鎮熱』だろ?……平民の浴槽も、貴族のと変わらんな」



 浴槽に近い位置の3つの窪み。浴室であろうと浴場であろうと、大きさも身分差も関係なく基本的な造りは同じらしい。


 増熱でお湯を作り、浄化に石を移して入浴。上がる時に鎮熱で水に戻す。


 ほっとけば勝手に冷めるのだから、鎮熱はマナの無駄な気がするが、そういう文化のようだ。



「お、温まったかな?」



 湯気が出てきた。手を入れて温度を試してみる。



「……おーけーやな。入るで〜」


「……何その言葉使い?」


「気にすな」



 お湯に入って、浴槽の中から手を伸ばしてマナ石を増熱から浄化の窪みに移す。程なくして浴槽の側面の紋章陣が青に灯った。



「ん〜〜、生き返る〜」


「……もういい? 実際に紋章陣を刻んでみましょう。紋章板をそこに置いて、手を広げて当てて」


「こうか?」



 言われた通りに板を置いて、その上から五指を開いた右手をペタッと当てる。



「……陣の中央から……垂直に……量……速度…………」



 俺の肩の上で、ナスタがぶつぶつと呟く。内容から察するに、紋章陣に付与する機能だろう。



「……お、光った」



 右手が熱を帯びたと思ったら、紋章板と手の間で、光の残滓が漏れているのが見えた。



「……いいわよ」


「へ? もういいの?」



 手を退けると、板に紋章陣が付いていた。子供の手に隠れるくらいなので、想像よりかなり小ちゃいが、テストだからこんなものなんだろう。



「……って、随分とあっさり出来たな?」


「あんたがおかしいのよ……本当なら相当疲れるらしいわよ、これ」


「何故に伝聞?」



 口にしてから「しまった!」と思うが、もう遅い。



「……やった事ないから……」



……当然だ。俺が初めての主人で、他に風属性の契約者が居ないのだ。経験があろう筈もない。



「……あの、ナスタ?」


「んっふっふっふ〜♡」


「……あれ?」



 慰めようかと思えば、上機嫌である。ほわい?



「風呂に入れて! 早速試すわよ、早く!!」

「はい⁉︎」

「は〜や〜く〜!!」

「はい!」



 紋章板を引っ掴んで、ざぶんっとお風呂に入れる。



「今回はテストだから、紋章陣の何処でもいいわ。中央以外に手を当てて。マナを送り込めば、風が噴き出る筈よ!」



 ランフェスに聞いた陣発動ってやつだろう。とりあえず、如何程(いかほど)まで届くのか確認したいので、測りやすい様に浴槽の端までじゃぶじゃぶと移動する。



「……何してんの?」


「移動。端から何処まで届くか見たい」


「マナの供給量で幾らでも変わるわよ、そんなの……」


「いーから、いーから」



 そんなこんなしてる間に浴槽の端っこに到着。紋章板を裏にして、お腹に構えて、陣の端に手を当てた。



「……いくぞ!」


「え⁉︎ ちょっ駄目!!!」



……ナスタの制止は間に合わなかった。


 マナの扱いをまるで知らない俺だが、なんとなくは判る。ナスタが俺の中で幾度と動かしていたもの。それをちょっと押すような感じで、紋章陣に送り込んだ。


……そう、ほんのちょっとを意識して送り込んだのだが、そのちょっとでジャグジーが空気砲と化した。


〈ボンッ!〉


「ぐえっ!」



 浴槽のお湯を搔き飛ばす威力の風圧。全部ではないが、かなりの量のお湯が中空に舞い上がった。


 そして、手に持っていた木板が、反動で俺のお腹にめり込む。浴槽の端で壁を背にしていなければ、吹き飛んでいたかも知れない。



「何してんのこの馬鹿!!」



 叱責ごもっともだが、そんな場合ではない。



「逃げるぞ!」


「あほーーっ!」



 浴槽に『お湯が戻ってくる』。


 部屋は密閉だ。吹き飛んだお湯は、全て掘り下げられた浴槽に津波の如く返ってくるだろう。浴槽の中に居ると呑まれる。



「ひぃぃぃぃ!」



 決死。


 ギリセーフで岸に辿り着き、よじ登って頭を伏せた。


〈ザッバァァン!!〉


 脚が流されそうになりつつも、なんとかセーフ。


 振り返って様子を見ると、お湯が浴槽で2度3度と往復し、未だに暴れまくっていた。



「……助かった?」

「浴室で死にそうになるなんて……不名誉すぎるわ」

「すまん、まさかあんなに威力があるとは……」

「あんたがマナを送り過ぎたの! 私がやればあんな威力にならないのに!!」

「そーいうのは先に言えよ……」

「言う前に発動したんでしょうが!」

「まあ、なんだ……落ち着け」

「キィーーーーッ!」



 時々ナスタは癇癪るなぁ……ゆとりが無い。もっと気楽に生きるべきだろ。



「……だいぶ収まったか?」


「……みたいね。また試すわよ。今度は手を置くだけだから、いいわね⁉︎」


「りょーかいだ、万事任せろ」


「こいつ……っ!」



 とゆー訳でリトライ。先程と同じように構えて、今度はナスタがマナを操作する。



「おお〜〜、いい感じだな」



 板の紋章陣から空気が噴出していた。見た目は完璧にジャグジーだ。



「……こんなのでいいの? 言うほどの物には見えないのだけど……」


(……十分とんでもないんだけどな、これ)



 管も何も付いていないただの板。その中央から空気が延々と噴き出ていた。


……アスガンティアでは創れる。


 マナという質量の無いもので、火や、水や、空気を。紋章陣さえあれば、誰でも創造出来る。


 物理と科学、合理によって構成された前の世界の基準でみれば、これは『魔法』と称するに値する現象だ。






『MP』=マジックポイント


 ゲームでよく見る表現だ。


 魔力だったり精神力だったりと、作品によって示すものが変わるが、用途は総じて非科学的な力の源とされる事が多い。


『MPを6消費して、火の魔法を使う』。


 前の世界で、この表現の意味するところがわからない奴は、多分いないだろう。


……そして、原理を説明できる奴もいない。


 MPとは架空の呼称であって、実在するものではないからだ。



 魔力? どこにあんのそれ?


 精神力? どうやって使うのそれ?



 所在が不明で、運用の術も明確では無いもの。


……なのに、何故か許容されてしまった概念。



(初出はどこなのかね〜、やっぱあれか?)



 ナンバリングが10を越える、某有名タイトルのRPG。


 遊戯の1つにすぎなかったそれが、世界中の人間の思想に根付いた。とんでもない話である。

 


(……待て)




《名は、力を持ちます。大多数に対し、共通の認識を与える名称を持った事象は、実在の条件を満たすのです》




(……これ、結構ヤバくない?)



 何がどうヤバいのか自分でも整理出来ないが、嫌な感じがした。



(なんだ? すっげぇモヤモヤすんだけど……)


「アーリス?」

「んにょわ⁉︎」



 結構深く考え込んでいたらしい。突然のナスタの声に無茶苦茶驚いた。



「はいはい、「んにょわ⁉︎」はいいから。……随分と悩んでたけど、風力足りない? もっと強くする?」


「……いや、これで身体をほぐすのが目的だから、こんなもんでいいよ。刺激が足りない人は強くすればいいし」


「そう? なら次は認証ね。……アーリス、石は?」


「――あっ!」



 忘れてきた。広間に置きっぱなしだ。



「しょうがないわね〜、どうする? 上気せる前に中断するか、それともこのまま続行するか」



 風呂場に来てからそこそこ経つが、ゆっくり浸かっていた時間は少ない。



「……まだ平気そうだ。続行しちゃおう」


「それじゃあ、シャリアに頼んで持ってきて貰うわ」



 ぴゅ〜っと、ナスタが俺の肩から飛び立って、浴室から出て行った。



「……屑石が来るまでのんびりしますか」



 と、思ったがお湯が冷めてる。マナ石を増熱にずらして置こう。

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