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金?の力で無双する異世界転生譚  作者: 世難(せなん)
第二章 ~『原点』~
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『売買』

 統合浴場について一通り話し終えた頃に、丁度仮宿の前に到着した。


 降りたのは俺とシャリアだけで、ランフェスはそのまま別の場所に向かうらしい……相変わらず忙しいお方。


 大変だなぁ……と仮宿の前で見送っていると、



「では、私は夕食の買い出しに行って参ります。よろしいでしょうか?」



 シャリアが買い出しを申し出てきた。



「買いたい物があるから一緒に行くよ」


「……お申し付けくだされば、わたしが「いいからいいから」」



 困惑するシャリアの背中を押して、北の商店街の方に向かう。



(久し振りの外だし、なんか見て回りたいんだよね〜)



 異世界の街である。レーゼルの記憶にはあるが、それでも自分で見て回りたくなるのが人情というものであろう。



《……会計はシャリアに任せなさいよ?》


(おっけー)



 俺が寝ている間に、かなりの予算をシャリアに渡してあるらしい。



(シャリアの面目もあるだろうし、大人しくしときます)


《……そう思うなら、同行しなければいいのに》


(今度からは、ちゃんと全部任せるよ)



 実際、主人同伴の買い出しとか、シャリアからしたらやり辛いかも知れないが、ちょっと懸念がある。


 ナスタやランフェスが言ったように、シャリアの外見は確かに珍しい部類に入る。妙な視線に晒されていないか心配なのだ。



(……割とよくある話だし、俺の知らない所で……とか、許容出来ないし)



 確認の意味を込めて、ちょっと様子を見ておきたい。






「ソシエちゃん、ご主人様起きたみたいだなぁ! 良かったじゃねぇか」

「あら、ソシエさん。この間はどうもありがとう」

「お〜、ソシエの嬢ちゃん。いい野菜が今入った所だ、寄って見ていきなよ!」



……超人気者だった。



(考えてみれば、フロードで異種族差別が表在化した事件って記憶に無いな……)



 差別蔑視の懸念は俺の杞憂に過ぎなかったらしい。



「後ほどお伺いします……アーリス様? ご購入を予定されている物は、一体何なのでしょうか? 嵩張るようでしたら、そちらを先にした方が良いかと思いますが……」



 シャリアが俺の目当てが何なのか尋ねてきた。



「俺が欲しいのは、『紋章板』と『屑石』。ジャグジーを1回作ってみたいから」






 紋章板は紋章陣を試作するのに適した大きさとされる、1辺30cmくらいの四角い木の板だそうだ。購入層は精霊と契約出来る者……貴族に限られるが、物が単純なだけに普通の木材屋でも扱っている、とランフェスが言っていた。


 そして屑石は、マナ石のより小さい物だ。マナの貯蔵量が少なく、黄〜緑までしか入らないやつで、主な用途は調度品や街灯など、簡易な道具の動力源。乾電池のようなものだと思えば間違いないだろう。






「紋章板と屑石ですね。でしたら、あちらに店舗があります」



 シャリアの案内のもと、目的地への移動を開始した。


 石畳で舗装された道を程なく歩いて、思う。



(見る所無えなぁ……)



 異世界シティーの観光を堪能したかったが、前の世界の建造物とさほど違いが無く、二階建ての制限がある為、見上げるような大きさで驚くような事もない。


 壁に彫刻の施された家もあるが、龍脈塔には劣る。


 俺が最初にいた領主館の印象が強すぎる所為で、建造物にはいまいち目新しさが無く、関心が湧かない。


 建物より領民を眺めている方がずっと楽しかったりする。……のだが、



(通行人をあんまりジロジロ見るわけにもいかんよなぁ)



……と、思いながらも我慢出来ず、盗み見るようにチラチラと観賞する俺。


 アスガンティアの服装は洋服から和服、民族衣装っぽいのもあって、バラエティー豊かで見応えがある。


 一体どんな文化を辿って来たんだか。



(お、獣人のおっさんだ……あっちはエルフか)



 人種も選り取りだ。うむ、異世界っぽい。



「……あの、アーリス様?」


「うぃえ⁉︎ はい!」


「あちらの(かた)に何か?」



 視線を合わせないように小声で聞いてくるシャリア。なんか勘違いさせたようだ。



「違う違う! フロードは本当に異種族が多いなぁと思っただけだよ」


「……そうですか。何かありましたら、お申し付けくださいませ」


「大丈夫、ごめん警戒させた?」


「? 周囲の警戒でしたら、常にしていますけど?」


「………………」



 そういやこの娘『護衛』も兼任出来るんだっけ。



(まだ12歳なんだから、もうちょっと肩の力抜かせてあげたいけど……野暮だよなぁ)



 やはり買い物同行は失敗だったかも知れない。次からは自重しよう。







 そう思う間に、程なくしてシャリアが立ち止まった。



「アーリス様、着きました。こちらの店舗で紋章板の購入が叶うかと思われます」



 見ると、木造の建物の入り口に、『ネウデー木材店』と看板を掲げた店があった。



「よし、入ろうか」


「はい」



 シャリアが先導する。キィ……と蝶番の音と共に、ドアが開いた。


 中に入って一番最初に感じたのは、濃密な木の匂いだ。思わず、「おお!」とか声を上げてしまう。



「いらっしゃい……どうした? 妙な声あげて?」


「いや、凄くいい匂いだったんで……」


「ははは! そりゃどうも、うちは北東地区に自前の植林場持ってるからな。資材倉庫に行かず、一部は直でこっちに引っ張ってこれる。香りも鮮度も他より良質だぞ」



 受け付けの向こうにいる店主らしき男が、自慢気に語った。



「……貴族の坊ちゃんかな? 何がご入用で?」



 軽くシャリアに目をやって、すぐさま俺に戻す。関係性に当たりを付けたのだろう。話をするなら主人の方だと判断したのか、俺に注文を聞いてきた。



「紋章板を《5枚》……5枚程お願いします」



 店主がカウンターから出てきて、店内の棚に移動。区分けされた商品の山から、木板を取り出して俺に見せた。



「標準的な規格がこいつだ。どうだ?」


「アーリス様? 如何ですか?」



 30cm程度の板、問題ないだろう。頷こうとしたその時、店主の呟きが耳に入った。



「……アーリス?」


「……はい?」


「あんたがアーリス様か! めんこい顔してるから判らなかったよ。いや〜、不慮の死神を1人で相手にしたようには見えんなぁ」



 じろじろと見ながら、喜色で顔を染める店主。



「礼を言わせてくれ、よくやってくれた! 戒厳令が厳しくてなぁ……商売あがったりで困ってたんだよ。3日も続いてたら干上がってた所だ」


「いや、俺1人で倒した訳じゃ……「いいんだよ、細かい事は!」」



……大雑把な人らしい。



「よっしゃ! 勇者殿にはサービスしなきゃなぁ……1枚8ようなんだが……そうだな、5枚まとめて3でいいぞ」


「いえ! そんな、ちゃんと払いますよ!」


「気にすんな、会計は侍女の嬢ちゃんでいいか?」


「はい、お願い致します」



 遠慮する俺を尻目に、シャリアが会計に赴いてしまう。



(ああ〜〜、山程あるから値引きなんか要らんのに……)


《シャリアにはあんたのマナについて話してないから、今のフロードの台所事情考えて独断したんでしょうね……やっぱいいわ、この娘♡》



 シャリアを押し退けるのも、店主の好意を無下にするのも、なんか違う。


 モヤモヤしつつも、そのまま行われる会計をぼけーっと眺めるしかなかった。






 アスガンティアの売買の遣り取りは、俺から見るとかなりアバウトなものだ。


 それもそのはず。通貨として運用されるマナは質量が無い為、明確に数値化する事が出来ない。


 なので、『測量盤』と呼ばれる中央に窪みの付いた、目盛り付きの円盤を用いてのやり取りになる。



 マナ石での取り引きに使われる単語は、『色』『石』『枝』『葉』の4種だ。



『色』はそのままマナ石の色を示す。


『石』は「緑2石」みたいな感じで、黄以上のマナ量で使用する。


 黄色を10分割したのが『枝』。


 枝を更に10分割したものが『葉』となる。



 黄のマナ石をMAXで10000とした時、1枝が1000、1葉が100に相当すると考えれば解りやすいか?……とゆーか、そうでもしないと理解出来ん。



(板切れ1枚800円?……というか1葉100円で考えて通じるか?)



 100以下の通貨が存在しないので、最小単位が大きすぎて使いづらい。


 前の世界の金銭感覚が残っているせいで、異世界の物価の相場をすんなり受け止められない。意識の差異を埋めるのに、相当苦労しそうだ。



(無尽蔵予算で豪遊しすぎれば、目ざとい奴に補足されて利用されるかもだし、慣れないとな……)





 シャリアが青のマナ石を取り出して、測量盤の窪みに置いた。


 置かれたマナ石から、ゆっくりと測量盤にマナが引き出される。


 円形の盤の縁に刻まれた目盛りをなぞるように、黄色がズズッと増加していく。スピードメーターに近い感じだ。



「……よし、そこまでだ」



 店主が声を上げると同時、シャリアがマナ石を回収した。


 円盤には色が残ったままだ。このマナを売手側が回収すれば、取り引き完了となる。



「紙袋と縄、どっちがいい?」



 測量盤のマナを石で吸い出す店主に、商品の梱包について尋ねられた。



「縄で大丈夫です。まとめちゃって下さい」


「あいよ」



 店主が手早く木板の端を揃えて、縄で結い始めた。



(屑石はどれぐらいいる?)


《認証も試したいから、10個くらいは欲しいわね》


(石の認証か……)



 やる事、学ぶ事が多い。パンクしそうだ。



「ほい、お待たせ。他にはもう無いのか?」


「後は屑石ですね」


「なら、2軒隣に石屋がある。何するか知らんが、頑張れよ」


「はい」


「毎度あり」



 店主に見送られて、店外に出る。



「2軒隣って……あれか」


「はい。参りましょう」



…………その後、順当に屑石と夕食の買い出しを終えて、何事も無く仮宿に戻った。

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