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金?の力で無双する異世界転生譚  作者: 世難(せなん)
第二章 ~『原点』~
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『統合浴場』

 ランフェスより婉曲な忠告を賜り、暫しの雑談と情報交換の後、副団長候補の3人は、また見張り塔に戻って行った。


 その後、残った俺たちは邸宅の周辺の景観や、防備の機構について打ち合わせを開始。


……したのだが、こちらは俺ではなくシャリアの担当なので、然程揉める事もなく最後の下見までストレートに終えた。



「……よし、君の邸宅についてはこれで充分だ。街に戻ろう」



 満足したランフェスに連れられ、ゾロゾロと待たせていた馬車に乗り込んで、街への帰路に着く。


 その馬車の車内で、ランフェスと高級スパの構想について、徹底的に話し合う事になった。


 






「もう少し詰めて置きたい。先ずは規模だな。完全に男女を別とする様だが、具体的にどのような建物になる予定だ? 2つ別々に建てるのか?」


「いいえ、1個の建物を中で分割します。入り口だけ共通ですね」



 ランフェスから借りた筆記具で、脳裏焼付に描いた図面を再現していく。



「……これでは駄目だな」


「うぃえぇ⁉︎」



 初っ端からNGが出て、唖然と硬直してしまう俺。代わりに、ナスタがランフェスに問い質した。



「駄目って、何処が?」


「単純に、土地面積が広すぎる。これは複数地区に展開する事業になるだろう。1つ作って終わりではない」


「………………」



 確かに。一ヶ所だけでフロードの住人のニーズを全て賄うなど、不可能だろう。



「更に、この施設は人を集め、留めるものだ。郊外地区ではなく、中央寄りに建築する事が望ましい」



 外れに作っても、それはそれで需要があると思うのだが……。



「立地の条件が厳しすぎると、建築が困難になる。領民に要求された時、「出来ない」と返答すれば、不満になるだろう。どのような合理な理由があろうとも、その不満は領主に向く」


「あ〜、なるほど。そっちですか」



 問題は、需要が発生した時に、領主の側で供給しやすい代物かどうか、だったらしい。



「……そう考えると、作り難い建物は避けたいですね」


「理解が得られたようで助かる。私から見ると、全てを集約したが為に、肥大化したように感じる。分けてみるのはどうだ?」


「う〜〜ん」



 高級スパで考えていたから、全てをぶち込んだレジャー施設のようなものになった。個々の要素を分けて、それぞれに特化したサービスにしても、顧客の側に不都合はないだろう。



「ただ、それだと専有が厳しいんですよね……」



 温泉なんて、いわばアイディア商品だ。資産があれば、容易に真似出来る。



「……確かに、説明された内容から鑑みるに、ジャグジー以外は簡単に再現出来るな。領民に模倣されれば、利益は分散する……か「なら領主の事業にすれば?」」


「は⁉︎」

「なに⁉︎」



 驚く男どもを睥睨しながら、ナスタが提言した。



「問題は面積。3階建てにすれば解決する。でも3階以上の建築は領主の管轄。ならこの施設を領主の事業にしちゃえばいい……ね?」


「いや⁉︎…………いや、それならば可能ではある」


「いいんですか⁉︎」



 最初のナスタの要求は、フロード領への協力要請だったし、3階以上の建築物は限られる。色々と面倒そうだが……、



「それはこちらの台詞だな。領主の管轄にするのであれば、君に専有する権利は無くなるぞ」


「おおぅ……」



 そりゃそうだ。



《別に構わないでしょう? マナに困ってる訳じゃ無いし、個人の事業としては、規模が大きすぎるもの》


(……そうだな。広域の展開まで考えると、建築、従業員共に手が回らん。領の事業でぶん投げるのがベターか……)



 1店舗で考えていたから、慮外の規模に戸惑う。


 ナスタはここまで読んで、フロード領に要請したのだろうか?


……侮れんな、マジで。



《私達は、保有マナを誤魔化せる土壌が欲しいだけ。相応の利益が定期的に得られれば、それを理由に出来るわ》


「……発生した利益の分配って、どうなります?」



 ランフェスにぶっちゃけ聞いてみる。



「ふむ……新しい未知の事業とは言え、期待値は高い。想定段階で言明は出来ないが、騎士団の維持費、発案者である君への定期報酬くらいは捻出出来ると思われる。……こちら側で発生し得る諸問題に、見当がつかないのが痛いな。施設の維持費と給与、備蓄がどれだけ必要となるか……」


(……OKかな?)



 ナスタが言った様に、俺に適度な定期収入があればいい。騎士団の維持費も獲得出来るなら、万々歳だろう。……ちょっと勿体無い気もするが、欲しいのは利益じゃない。『理由』だ。



(GOサインでいいか?)


《いいんじゃない? 私は計画が頓挫しなければいいわ》



「ランフェス卿、それで行きましょう。領主家に全権利を譲渡します」


「……良いだろう。建築の設計は、こちらで改めて練り直す。運営について何かあれば聞かせてくれ」



 両者合意。これで建築に悩む必要は無くなった。次は施設の運営要領だ。



(……ここを上手くまとめないと、最悪、この話は無かった事にされる……)



 施設を建築して終わり、ではない。管理・運営しなければ、無法地帯になるだけだ。


……しかし、運営に貴族達は使えない。






 ナスタと話し合った結果、本気でフロード領の貴族に余裕が無いのをやっと把握した。


……言われてみれば確かにおかしい。この騎士団の設立自体が、本来なら有り得ない。



『子供を戦場に出す可能性を容認する程に、困窮してる』。



……おそらく、ザックスだ。


 魔獣討伐で戦死してしまった、レーゼルの兄。当然、彼は単独で行動していた訳ではない。正確な人数は判らないが、それでも20〜30人以上は同行していた筈だ。



(……その全てが全滅)



 彼と共に失われてしまった、軍事を担当していた貴族達の穴が埋まらないのだろう。


 その穴を埋める為に、本来なら内政を担当する者を動員しているのではないか? と、ナスタは推察した。



――外部の護衛。


――わざわざ呼び寄せたシャリア。


――内政担当のランフェスが作戦立案。


――そして、さっきの見張り塔の業務引き継ぎ。



 違和があるのは、全て軍事関連だ。


……説明がつく。






「この施設は、子供だけで運営します」


「……子供だけ?」


「受付、接客、案内、清掃……簡単な業務です。帳簿と会計をフォローすれば、回せます」



 フロードの子供達は業種が限られるが、10歳から仕事に付く。前の世界の新聞配達とかと同じノリだ。


 アスガンティアの子供はスペックが高い。教育すればこの程度は問題なくこなせるだろう。


 唯一懸念があるのは『防犯』だ。


 顧客の犯罪行為に対する対処が、子供では難しい点。


……だが、これも、



「……それらの業務に警備を兼任させる名目で、騎士団の所属員を宛てがうつもりか……」



 あ、見抜かれた。何で?



「不思議そうな顔をしなくてもいい。君が動かせる人員が他に居ない」


(……ですな。難しいかな?)



 騎士団の業務では無い、と言われればそれまでだ。他の一般の子供達を雇う形になるが、研修の手間が増える。出来れば、初動は自由が効く自組織で賄いたい所だけど……、



「構わないだろう」


「あれ?」



 あっさり承諾。逆に拍子抜けした。



「執事や侍女も似たようなものだ」


(……そういえばそうか)



 身の回りの世話と共に護衛を兼任するのは、アスガンティアでは当然の考えだった。



「騎士団の業務再編もこちらで考えよう……寧ろやり易くなったな」



 後半は呟きだった。まだ何か企んでいるらしいが、こっちも任せた方が楽だ。突っ込まずに次に進んでしまおう。



「入館料は大人が黄石半分、子供はその半分の予定です。有料施設の使用料として、館内の受付で入館料とは別に『認証』した屑石を、同額のマナと引き換えに任意でレンタルして貰います」



 石の認証とは、時計の登録に近いものらしい。ナスタ(いわ)く、認証したもの以外での紋章陣の起動が出来なくなるそうだ。



「料金も考えていたのか。……待て、認証屑石? 貸し出すだけか?」


「はい、財力に任せて長湯されたくないので、黄色以下で考えています」



 商売の稼ぎ方は、分けて2つ。短期で大きく稼ぐか、小さく長期で稼ぐか。


 この施設は後者の方だ。重要なのは『回転数』になる。



「打たせ湯、砂風呂、マッサージ器具とジャグジー。この4つの施設を、レンタルした屑石で個々に動かして貰うんです」


「…………本当に面白いな、君は。他の施設は?」


「足湯、水風呂、サウナ、普通のお風呂は屑石無しで提供します。入館料を貰ってますから。……あっ! 設計する人に、水風呂はサウナの近くに配置する様に伝えて下さい。あと、足湯の一部はジャグジーを付ける予定です」


「基本は君の考案した配置を遵守するように伝えよう」


「お願いします」



 サウナと水風呂は当然セットだ。離れた配置だと意味が無くなる。



「ふむ……無償施設は入館料で、有償施設は追加で屑石か。そして、その屑石が上限の額と同時に、陣の起動限界……つまり、おおよその滞在時間になる」


「はい」


「……しかし、客のマナ石はどうする? いくらでも補充出来るぞ」



 残念ながら、それは無い。



「貴重品と武装は、全て入り口で預かります」


「――なっ⁉︎」


「当然でしょう? 入浴に必要ないです」



 理解される筈だ。というか、理解『させる』。



「徹底して周知して下さい。最初が肝心です。ここはそういう場所だと」


「…………館内の従業員を全て子供で構成するのは、これも一因か」


(マジで頭回るなぁ……)



 これで19歳なんだぜ? 末恐ろしい。



「……思いの外、君の方で詰めてあったようだ。これなら十分見通しが立つ」



 合格判定が下されたようだ。やったぜ。


……本当に大丈夫だよな? どっかに穴は無いか?



「文書で内容をまとめておいてくれ。こちらでも別途作成し、後日照らし合わせて双方の差異を埋める」


(あ、上手い)



 各々で文書に書き出して、それを比較。内容の齟齬から、理解の度合いを測り、補正する中で共有化していくのだろう。



(面白いな……前の世界でも、似たような手法ってあんのかな?)



 多分、俺が知らないだけで有るだろう。有効そうなやり方だ。



「最後に、この施設の名称を決めよう。高級スパでいいのか?」


「……いえ、『統合浴場』でお願いします」


「変えるのか……高級スパよりはわかりやすいし、馴染みもいいだろうが、何か理由でも?」


「……今のが理由です。こっちの方が受け入れやすそうなので」


「……そうか、了承した」



……実際の理由は、『高級スパ』で広まると、発案者の俺が転生者だと一発で予想され得るからだ。



(一方的に補足されるのは面白くないし……)



 身バレを恐れていては、いつまでたっても他の転生者を見つけられないかも知れないが、地盤が無い状態で無防備を晒すのは避けたい。


 先ずは足場固め。


 探すのはそれからだ。

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